第9話 ムベンベ様

 畑づくりの動画を撮影した後。

 古代道具のおかげで畑づくりは簡単に終わったため、まだ日が高い。

 そこで直人はコボルトたちの採取に付いて行くことにした。


「なるほど……ネモたちの話によると、この島はあんまり大きくないんだな」

「うん。私たちでもぐるっと回れるくらいの大きさだよ!」


 単に浮遊大陸と呼んでしまうことも多いが、太平洋に出現したのは大陸を含めた群島だ。

 大きな島の他にも、小さな島もたくさん浮いている。

 コボルトたちが住んでいるこの島は、小さ目な島に分類されるだろう。


「ネモたちは他の島に行ったりするのか?」

「ううん。行けないよ。私たちは飛べないから」

「それもそうか……」


 コボルトたちに羽は無い。

 落ちて移動することは出来るだろうが、落ちてしまえば一方通行。

 コボルトたちでは戻ってくるのは難しい。


 直人はオズが居るため転移で戻れるが、どうなっているか分からない場所に無策で突っ込むのは無茶がある。


「他の島への冒険は保留だな……まぁ、この島もまだ言ってない場所のほうが多いから、とりあえずこの島からだな」

「エルフたちは飛べる魔道具に乗ってることがあるから、遺跡にもあるかも?」

「確かに、時間があるときに遺跡巡りをするのも良いかもな」

「やったー!」


 どうやら、ネモは古代の遺跡が好きらしい。

 遺跡巡りと聞くと喜んでいた。

 オズを見つけたのもネモなのだから、普段から暇があれば遺跡を探検しているのだろう。


 そうしてしばらく歩き続けると、ネモたちが採取をしている森に付いた。

 どことなく熱帯雨林のような雰囲気だ。背の高い木がわさわさと生えている。


「木の実はどこかなー」

「なかなか探すのに苦労しそうだなぁ……ん、なんか空に飛んでないか?」

「え?」


 高い木を見上げると、そらに黒い影が見えた。

 よく見るとそれは大きな鳥のように見える。


「わわ⁉ 直人隠れて! 危ないよ!」

「え⁉」


 その影を見たネモはわっと目を見開き、直人の裾を引っ張る。


「ど、どういうことだ?」

「あれは他の島に住んでる、怖くて大きい鳥だよ。たまにこの島に来て食べ物を探してるの!! 見つかったら私たち食べられちゃうよ!!」

「マジかよ。は、速く隠れよう!!」


 森の茂みに飛び込もうとしたが遅かった。

 空に飛んでいた鳥は『ギャー!!』と鳴き声を響かせて急降下。

 直人に迫って来る。

 近くで見るとすごく大きい。小型の自動車くらいの大きさがあるだろう。


「わ、こっちに来るな⁉」

「マスター、遺跡で見つけた武器を使用してください」

「使い方が分からないんだけど!?」

「銃と同じように使えます」


 などと話している間に、鳥は大きな爪で直人の体を掴んだ。

 鷲掴みにされてしまって身動きも取れない。

 直人が何とか抜け出そうともがいでいた時だった。


 ゴウ!!

 直人のすぐ真上で空気が動いた。何か大きなものが動いたように。

 直人を掴んでいた鳥の足が、力なくぱたりと落ちた。


 上を見上げると直人はギョッとした。

 爬虫類のような大きな頭がモグモグと口を動かしていた。口の端からは鳥の羽が見える。


「な、なんだコイツ……」

「わー! ムベンベ様だぁ!!」


 恐怖に怯える直人とは対照的に、ネモは喜んで巨大な爬虫類に走り寄った。

 もしかして、危険はないのだろうか。


「ネモ、ムベンベ様ってなに……?」

「ムベンベ様はね。この島のヌシなんだよ? 外から来る危ないモンスターを追い払ってくれるの!」 

「な、なるほど?」


 直人はムベンベ様を見上げる。

 森からヌッと首を出している姿は、ブラキオサウルスに似ていた。

 恐竜――いや、異世界から来たことを考えるとドラゴンとかなのだろうか。


「た、助けてくれてありがとう?」


 とりあえずお礼を言って見ると、ムベンベ様はヌッと顔を動かした。

 直人に迫ると、フンフンと鼻を動かす。


「止めてくれぇ……俺は食べても美味しくないから……」

「もしかして、ムベンベ様もチョコレートが食べたいんじゃない?」

「え、もう残って……あ、ポケットに一つ残ってた」


 ズボンのポケットを漁ると、一つだけチョコレートが残っていた。

 ムベンベ様が口を開く。薄っすらと血の匂いがした。

 直人はチョコのビニールを外すと、その大きな口に放り込んだ。


 バクン!!

 口を閉じるムベンベ様。

 数秒ほどモグモグと口を動かすと首を引っ込めた。

 満足したのか、ふらりと森へと帰っていく。


「な、なんだったんだ……」

「ばいばーい。ムベンベ様ー」


 ぶんぶんと手を振るネモ。

 直人は立ち去るムベンベ様を、ぼんやりと眺めることしかできなかった。

 

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