第8話 畑づくり
朝ごはんを終えた直人たちは、コボルトたちの集落に向かった。
直人たちが姿を現すと、わっとコボルトたちが寄って来る。
「おはよう直人ー」
「今日も何か持ってきてくれたの?」
「ああ、今日はチョコレートだ。甘くておいしいお菓子だ」
「やったー!」
直人はスーパーで買ってきたチョコレートを配る。
袋にいっぱい入っている安い物だ。残念ながら高いのを買うほどの懐の余裕は、直人にはまだ無い。
それでもチョコレートはチョコレート。甘くておいしい。
コボルトたちは喜んで食べてくれる。
「あまーい!」
「タピオの実より甘いね」
「とっても美味しい」
美味しい美味しいと、こちらが嬉しくなるほど喜んでくれるコボルトたち。
子供にあめちゃんをあげる、おばあちゃんの気持ちが分かった気がする。
「そういえば、コボルトたちって普段は何を食べてるんだ?」
集落の周りを見ても、農耕をしている形跡はない。
コボルトたちはドコから食べ物を調達しているのだろうか。
「森に行って、木の実を採って食べるよ?」
「後は、ちっちゃいモンスターを捕まえて食べるの!」
コボルトたちは原始的な暮らしをしているらしい。
いわゆる狩猟民族なのだろう。
「だけど、あんまり食べ物が無い時もあるんだ……」
「そんな時は、皆で固まってジッとしてるの」
集まって眠っているコボルトたちを想像する。
可愛らしい姿だが、食べ物が無くてひもじい思いをしていると考えると可哀そうだ。
「農業が成功したら、そんなことも減ると思うから。頑張ろうな……」
「本当? いつでも美味しいご飯が食べられるの?」
「やったー!」
そうして直人たちは農業を始めることにした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
その日の夕方。ポットマンのチャンネルに動画が投稿された。
以前に出した動画によって、大きな注目を浴びていたため今回の動画にも多くのコメントが付いていた。
「今日はコボルトたちと農業をやって行こうと思います」
前回同様にマスクを被ったポットマン。
その周りにはネモと同じコボルトたちが数匹集まっている。
その手には、前回の動画で見つけた農具が握られていた。
『コボルトがいっぱいだ……』
『俺はケモナ―!!』
『ケモナーさん歓喜で草』
「農業と言っても、とりあえず家庭菜園程度の物ですけどね。近場に農地に適した土地があったので、そこを使っていきます」
ポットマンとネモ、それにもう一匹のコボルトが、前回で見つけていた農具を草原に突き刺す。
とたんにボコボコと地面が耕されていった。
盛り上がる土に混じって、雑草が散らかっていく。
それを他のコボルトたちが拾って、取り除いてくれていた。
「見て見てー。ポットマンの顔ー」
「えぇー。俺ってそんな顔してるか?」
ネモが地面を耕して顔を書いていた。
顔と言っても、点が三つある程度の子供の似顔絵のようなものだ。
ポットマンの被ったティラノサウルスのマスクにも、なんとなく似ていた。
「ネモ、ちゃんと耕さないと駄目じゃない! 皆のご飯がかかってるのよ?」
「リップちゃん、ごめんね」
「べ、別に怒ってるわけじゃないけど……」
「まぁまぁ、道具のおかげで楽ちんだし、楽しくやっていこうぜ?」
リップと呼ばれたコボルトが、ネモを注意する。
しゅんとするネモを見て、リップが慌てていた。
怒るつもりは無かったらしい。
『もう一匹のコボルトはリップちゃんか』
『真面目系の子なのかな?』
『当たり前だけど、コボルトにも性格があるんだなぁ』
ワイワイと畑を耕す三匹。
一通りを耕し終わると、ポットマンは掃除機のような道具を持ってきた。
タンクを背中に背負うと、ノズルを地面に向ける。
「この道具で土をふるいにかけられるらしいです。ちょっと重いから、とりあえず俺が使ってみるな」
「がんばれー」
ネモの声援を受けながら、ポットマンは道具を起動する。
ノズルから土を吸い込むと、背負ったタンクからボロボロと土が飛び出し始めた。
飛び出した土はふかふかで柔らかそうだ。
「わーい。ふかふかだぁ」
「あ、駄目よ。汚れちゃうじゃない!」
ふかふかの土にダイブするネモ。
それをリップが注意するが、少し羨ましそうにしていた。
『古代文明の道具は便利だなぁ』
『本当にこんなのがあったら良いのにwww』
『ネモちゃん汚れちゃうよwww』
時折、タンクに溜まった砂利を捨てながら畑をふかふかにしていく。
一通りが終わったら種まきだ。
ポットマンは倉庫で見つけていた種をコボルトたちに配る。
「本当は肥料とかもあった方が良いみたいなんだけど……ちょっと用意できないから種を蒔いちゃおうか」
「たねまきー!」
ポットマンとコボルトたちは畑に種を植えていく。
全ての場所に種を蒔き終わると、コボルトたちは楽しそうに畑を眺めていた。
「わー、これでご飯が生えてくるの?」
「俺もこれが初めてだから自身は無いけど……たぶん大丈夫なはずだ!」
「スゴイ!!」
「これでお腹いっぱい食べられるね!」
『なんか、言葉の端々から不憫さが漂ってくる……』
『ちゃんと育ってくれぇぇぇ!!』
『俺はケモナー!!』
『ケモナーさんも応援しとるわwww』
そうして無事に畑づくりは終わり、動画は幕を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます