第5話 倉庫

 ネモに遺跡へと案内される道すがら。

 直人はネモとオズに、配信に付いて相談をしていた。


「って感じで、ネモにも動画に出て欲しいんだけど良いか?」

「よく分かんないけど良いよー」

「ちゃんと理解してから返事して欲しかったんだが……まぁ、浮遊大陸に住んでるネモに迷惑はかからないか」


 にこにこと笑顔を浮かべて返事をするネモ。

 なんだか、子供を騙している大人みたいで、直人の心に罪悪感が湧いてくる。

 配信で儲かったら、美味しいものを買ってあげよう。

 ……それはそれで、お菓子で子供を釣っている不審者みたいである。


「オズは協力してくれるか?」

「私はマスターの決定に従います。しかし、マスターの計画には問題があります」

「問題って?」

「マスターが浮遊大陸に関する動画をネット上にアップロードをすると、必然的にマスターが浮遊大陸に侵入できることが分かります。それを公権力が認識した場合、マスターは通常の社会生活を送れなくなる可能性が高いでしょう」

「……その通りじゃん」


 浮遊大陸は各国が注目する巨大な資源。

 しかし、どの国も侵入することはできない。

 そんな状況で、『私は浮遊大陸に入れます!』とネットに動画なんて上げたら、速攻で特定されて侵入方法を吐かされるだろう。


 ただ入る方法を教えるだけなら良い方だ。

 秘密を独占したい国に捕まったら、監禁くらいはされそうである。


「じゃあ、やっぱ配信は止めとくかぁ……」

「いえ、私に任せて頂ければ、動画をアップロードする際に身元の特定を防ぐことが可能です」

「マジで⁉」

「はい。動画の撮影と編集に関してもお任せください」


 オズがそう言うと、直人が持っていた端末がふわりと浮かんだ。


「え、浮かべたの!?」

「はい」


 ふわふわと浮かぶ端末は、直人の周囲をくるくると周る。

 その画面には直人の姿が映っていた。

 まさに撮影中であるらしい。


「かつてはこの機能を使って自撮りをし、SNSにアップロードするのが流行りでした」

「古代の異世界人もやってること変わんねぇな……」


  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「ここなんかどうかなぁ?」

「わりと原型が残ってる遺跡だな」


 ネモの案内に付いてきた直人たち。

 やって来た遺跡は、やはり黒曜石のような不思議物質で作られた建造物。

 所々に穴が開いているが、屋根や壁が残っている。


「私はここの穴から入るの!」

「……俺には無理そうだな」


 ネモが指さしたのは、子供がやっと通り抜けれるくらいの小さな穴。

 とても直人が入れる大きさではない。


「マスターなら正面からの侵入が可能です」

「そうなのか?」


 直人が遺跡の扉に近づくと、真ん中から丸い光が飛び出した。


「その光に手を出して、手首を捻ってください」


 オズの案内に従って、ドアノブを捻るように手を動かす。

 プシュウ。

 新品の炭酸飲料を開けたような音が響くと、扉が左右に開いた。


「お、開いた」

「うわぁ! 手品みたい!」


 はしゃぎながら中に駆け込むネモ。

 その後に直人も続いた。


 内部は倉庫のようになっていた。

 連なる大きな棚。そこに小さな部屋がいくつも並ぶ。ガラス張りのドアによって封をされているため中が覗けた。

 なんとなく、カプセルホテルのようにも見える。


「ここって、どんな建物なんだ?」

「この場所はネット通販事業を手掛けていた企業の商品保管庫です」

「企業の倉庫にしては小さくないか?」

「ここは一時的な保管場所で、すぐに移動されるはずでした」

「なるほど……」


 直人は近くの部屋を覗き込む。

 真っ白な部屋の中に、ポツンと白い箱が置いてある。

 なんだかゲーセンのくじゲームの商品でも覗いている気分だ。


「これは……おっ、開いた」


 扉に手を伸ばすと、倉庫の入り口のように円が浮かび上がった。

 同じように手首を捻ると、扉はゆっくりと外に開いた。


「箱は……軽いな?」


 白い箱を手に取ると、思ったより軽かった。

 表面はざらざらとしていて、まるで段ボールのようだ。

 通販事業の倉庫と言っていたし、似たような物なのかもしれない。


 表面に張られたテープをぺりぺりと剥がして箱を開ける。

 中には小さな袋がぎっしりと詰まっていた。

 どうやら何かの商品らしい。パッケージにはニンジンのような何かの写真が張られていた。


「わー、美味しそう!!」

「そちらは、かつて生産されていた野菜の種です。品種改良によって栽培が容易になっていたため、家庭菜園などでも育てられていました。他の内容物も同様に作物の種のようです」

「なるほど……コボルトたちでも育てられるか?」

「可能です」


 せっかくだし、作物を育てるのも良いだろう。

 とりあえず、これは持って帰ろうと脇に置いておく。


「まぁ、なんとなく遺跡の状態は分かったし、残りは動画を撮りながら開けてみるか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る