第4話 等価交換
オズに頼むと、簡単に浮遊大陸に戻ることが出来た。
場所は初めと同じ遺跡だ。
「転移できる場所は決まってるのか?」
「はい。現状ではこの遺跡と、マスターのご自宅のみです。他の場所に転移するには、現地の遺跡に向かってポイントを活動状態にする必要があります」
「ほぉ……?」
いまいち分からない部分もあるが、ともかく転移する場所を増やすには現地に向かわなければいけないようだ。
そんな話をしていると、すぐにコボルトたちの集落に付いた。
「あ、直人が戻って来た!」
「どこ行ってたのぉ?」
「なんか美味しそうな匂いがする!!」
あっという間に、コボルトたちに囲まれてしまった。
コボルトたちは鼻が良いのか、直人が持っている袋に釘付けだ。
中身はお煎餅である。ちょっと湿気っているが、まだ美味しい。
「煎餅だ。こうやって袋を開けて、中身を食べるんだぞ」
直人は袋の開け方を見せてから、コボルトたちに煎餅を配る。
パリパリと煎餅を頬張るコボルトたち。
気に入ってくれたようで、ニコニコと口を動かしている。
「美味しい!! これはエルフの食べ物なの⁉」
「いや、だから俺はエルフじゃなくて、人間なんだけど……」
「えぇー? 嘘だよー。人間はもう居ないんだよぉ?」
「え?」
コボルトの一人は軽い調子でそう言った。
まさかの人間絶滅宣言である。
「直人様は人間なのですか?」
「そのつもりだけど……」
「まぁ……⁉」
おっとりとした雰囲気のコボルトが、口に手を当てて驚いた。
落ち着いた雰囲気の、なんとなくお姉さんっぽさのあるコボルトだ。
「私たちにとって、人間は遥か昔に存在した伝説の生き物なのです」
「遥か昔?」
「はい。浮遊大陸のあちこちに残っている遺跡も、人間が残したものだと言われているのですよ」
お姉さんコボルトに嘘を言っている様子はない。
本当にコボルトにとって、人間は絶滅した存在だったようだ。
「もしかして、この浮遊大陸って異世界からやって来たとか? だから色々と常識がズレてるのかも……」
ネモが魔道具を知っていても、電化製品を知らなかったり。
コボルトたちにとっては人間が絶滅しているのが常識だったり。
直人たちとコボルトたちの間には常識にズレがある。
突拍子もないが、仮にコボルトたちや浮遊大陸が異世界からやって来たのならば、つじつまがあう。
「異世界は分かりませんが……この浮遊大陸群が大きく動いたのは事実です。この周辺には海ではなく、大陸が広がっていたはずですから」
浮遊大陸が動いていたことは、お姉さんコボルトも認識していたらしい。
実際にこの大陸がドコから来たのかは分からないが、ともかく遠くからやって来たことは確実。
「……そうなると、なんで俺たちは会話ができてるんだ?」
直人は変わらずに日本語を話している。
コボルトたちも日本語を話している。
仮に異世界から来てたとして、同じ言語を話しているのが謎だ。
まさか、偶然の一致なのだろうか。
「それはこの端末の機能です」
「え、オズのおかげなのか?」
直人の疑問に答えたのはオズだった。
ほやほやと笑顔を浮かべて、煎餅を頬張っているネモ。
その片手で端末が光っている。
「はい。この端末はマスターと接触した時点で、スリープ状態にて起動していました。そしてマスターとコボルトたちの言語が異なることを認識し、自動で翻訳を行っていました」
「ってことは、オズが無いと俺はコボルトたちと会話できないのか……」
直人はネモの前にしゃがみ込むと、両手を合わせた。
「ネモ、俺にオズを譲ってくれないか? それが無いと俺はコボルトたちと話もできないみたいなんだ」
そもそも、直人の浮遊大陸での活動はオズに依存している。
浮遊大陸への転移も、コボルトたちとの会話もオズ頼り。
オズが居なくては開拓配信なんて夢の向こう側である。
「うん。良いよ。お煎餅のお礼!」
「あ、案外あっさりくれるのな……」
「……」
お煎餅との等価交換だった。
どことなくオズが不服そうにしている気がする。
「それに、私が持ってても動かないもん」
「そうなのか?」
「遺跡から出て来る魔道具は、私たちが触っても動かないんだぁ」
「そうなのか……なんでだ?」
直人が疑問を口にすると、オズの画面が光った。
答えてくれるらしい。
「私を含めた遺跡から出土する魔道具は人間用です。コボルトが触っても起動いたしません」
「なるほど……ちょっとだけ魔道具に興味でてきたなぁ」
「マスターが目的としている開拓活動に役立つものも多いはずです。回収をお勧めいたします」
「じゃあ私が遺跡に案内してあげる!」
そうして、直人たちは魔道具を求めて遺跡に向かうことになった。
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