第4話
ソレイユの城へと辿り着くのに、時間はそう掛からなかった。
途中で出くわした望月国の兵士に対しても、朧が堂々と目の前を通り過ぎていくため警戒はもちろんされず。どころか、情報さえ得ることができた。
太陰が城内――玉座の間にいること。
不意を突かれたソレイユは、一日にして城を奪われてしまったこと。
ソレイユ軍は太陰の魔法によって、死さえ恐れぬ操り人形にされていること。
後日、望月国に逆らった者の末路がこうなるのだと諸外国への見せしめに殺すため、お父様とお母様は地下牢へ囚われていること。
今は、アクアとの交戦に備えて、準備を進めているということ――
「夜の内にすべてを成したか。太陽神の力が弱まる時間を狙うとは……」
太陽が沈んだ夜は、
おまけに、ミラが鏡として望月国側についている。
王族を守護するはずの彼女が、王族を騙しているのだ。
上手くいかないはずがない。
「それにしても、先程の女は何者だ。神官に裏切られたということか?」
小さく、こくりと頷く。
朧が短く嘆息した。
「何故神官が母様側についている……お前は知っているのか?」
知っているのか……それは、頷きがたい質問だった。
知っているといえば、知っている。
だが、理解しているのとは違う。
ただ、彼女の言葉を鵜呑みにしているに過ぎなかった。
「まあいい……アクアはあの二人に託した。あの女がどこへ向かったかはわからないが、母様を止めないと。輝夜、玉座の間へ案内してくれ」
こくりと頷き朧を導く。
城の中は、しんと静まりかえっていた。
時折見かけるのは、望月国の兵士たちばかり。
ソレイユの兵士たちが操られているとして。
であれば、侍女たちはどうなっているのだろうか。
ここに来るまでも、ほとんど争った形跡は見られなかった。
ソレイユは、戦わずして敗北してしまったということなのだろう。
日々たゆまず剣技を磨き。怯まず、一歩も引かず、正々堂々と突き進む。
眩しくも力強い太陽のように。
それが、ソレイユの誇りだというのに。
一日にして、国の誇りはズタズタに引き裂かれてしまった――
「血の跡が見られない。命があるのなら、またやり直せる」
だから、そんな顔をするなと言い添えられて、ぎゅっと大きな手に力が込められた。
私は、ただこくりと頷く。
きっと、皆は生きている。
助け出して、そうしてまた立て直せばいい。
生きていれば、それができるのだから。
「そうやって、お前は前を向いていればいい。憂いは、俺がすべて背負ってやる」
朧の言葉に、首を横に振る。
「輝夜?」
声が出なくてもどかしい。
一人で背負うだなんて、そんな寂しいことをどうか言わないで。
背負うのならば、一緒がいいのに……。
「いい。俺は、お前がいてくれたなら、それだけで生きていける。王族として生まれたからには、相応の責任をとる」
それは、どこまで?
自分が汚してしまった分? それとも――
「ここか?」
大きな扉の前に立つ。
辿り着いた、玉座の間。
両端には、望月国の兵士が立っている。
朧の姿を見て、彼らは扉を開けてくれた。
「おや、驚いたねえ。あの部屋を出られたのかい?」
部屋の奥。長い赤色の絨毯が敷かれた道をまっすぐに進む。
と、目の前には玉座に腰掛けている望月国の女王がいた。
「朧も回復したんだねえ……空明の仕業かい? あんなにも痛めつけてやったというのに、元気な男だこと」
ふっと笑う太陰。この人にとって周りの人間なんてものは、ただの捨て駒でしかないのか。
「どうやって輝夜と会えたのかはわからないけれど、まあ瑣末なことね……朧、おまえはこれからやってくるアクアの軍と戦うんだよ。ソレイユの軍を引き連れてね。見事アクアに勝利したなら、その時には輝夜の声を元に戻してやろうじゃないか」
「母様」
「何だい、朧」
「アクアの軍は来ませんよ」
「……何だって?」
ひく、と頬を引きつらせて、太陰は朧を見やる。
「十六夜を、空明と共にアクアへ向かわせました。軍は来ません」
「十六夜が? 鏡……しくじったというのかい?」
「鏡?」
朧が胡乱に眉を潜めながら、私へと視線を向けてきた。
答えるように、頷きを返す。
「まさか、ソレイユの神官が――」
「鏡! 鏡はいないのかい?」
朧の言葉など聞かず、太陰は辺りへ喚き散らすように彼女の名を呼んだ。
と、すっと一人の女が現れる。
金髪ロングに赤眼の、火傷を負った女――鏡だ。
「この役立たずが……! 子ども一人連れてこられないのかい?」
「申し訳ございません、太陰様」
「魔法を使えないソレイユの人間なんて、やっぱり使えないねえ。動きは俊敏で物覚えも良かったけれど、駄目。全然駄目。失敗だった。こんな子ども、育てる価値なんてなかったねえ」
ひどい。彼女は戦争孤児だと言っていた。
太陰に拾われ育てられた彼女にとっては、きっとこの女王しか頼る者はいないのだろう。
従って動いている彼女も彼女だが、だからといって、この言われようはあんまりだ。
「こんなことならば、攫ってきた時にさっさと殺しておけば良かったわ」
「え――?」
鏡の赤い瞳が、驚きに見開かれる。
攫ってきた? 今、そう言った――?
「太陰、様? それは、どういう……私は、十一年前の戦争で戦火から逃げるために海を渡った戦争難民で、ソレイユの生まれだけれど、望月国に流れ着いた孤児なのでは……」
「ああ……おまえの意識も操作したのだったねえ」
忘れていたわと、気のない様子で答える太陰。
しかし、何かを思い出したかのように、くすくすと笑い出した。
「それにしても、あれは滑稽だったねえ。本物が偽者をシャインと呼ぶ様は」
「本物? 太陰様、それはどういうことですか?」
本物が、偽者をシャインと呼ぶ……?
待って。それじゃあ、鏡は――
「誰も気が付かないだなんて、愚かな者ども。たまたま送り込んだおまえが太陽神に認められるだなんてこと、偶然なわけがないだろうにねえ。おまえが神の声を聞くことができるのは、当たり前だよ。だっておまえは、ソレイユ王族の生まれなのだから――シャイン・ソレイユ」
「――!」
「神官が、本物のソレイユの第一王女?」
誰もが言葉を失う中、唯一響き渡ったのは、玉座でふんぞり返る女の下品な笑い声。
「海沿いに一人でいるんだ。攫ってくれと言っているようなものじゃないの。だから思ったんだよ……入れ替えたら、どんな面白いことが起こるのかとね」
「そんな……たった、それだけのことで?」
私たちは攫われ、入れ替えられた。
この女の享楽のためだけに。
「そんなことで、私は姫様を裏切ってしまったの? 唯一信じてくれていた御方を、こんな、こんな女のせいで――?」
わなわなと肩を震わせて、愕然とした鏡は、瞬間、ダッと駆け出した。
「――っ、あああ!」
鏡がその身に隠し持っていた短剣を振りかざす。
見覚えがある。ここからでもわかる。あれは、私の得物だったものだ。
シャイン・ソレイユが生まれた時に、王が鍛えさせた物。
姫だけが消え、海岸に転がっていたらしい短剣だ。
昨日まで肌身離さず所持していたが、鏡が持っていたのか。
あれは、シャインである証の一つ。
彼女が、それを知らないはずがない。
私から奪うのは、当然といえた。
「愚かな子」
太陰に向けられたそれはしかし、見えない何かに弾かれた。
反動で鏡の体が飛ばされ、壁に激しく打ち付けられる。
短剣が、カランと音を立てて転がった。
「ぐっ――!」
「あたくしに刃を向けるだなんて、忘れたのかい? おまえには、あたくしに逆らえない魔法が刻まれているということを。まったく、使えない上に、この六年で馬鹿になってしまったようだねえ」
「げほっ、ううっ……姫様、申し訳、ありませ……」
鏡が起き上がる様子はない。
どうやら動けないでいるようだった。
私は、思わず駆け出す。
「動くんじゃないよ、輝夜。そこから動けば、喉に掛けた魔法を暴走させて、二度と息ができないようにしてやるからね」
ぐっと拳を握り締める。例え何をされたとしても、私にとっては自身よりも鏡の方が大事だ。
だけれど、こんなところで私が死んでしまえば太陰の思う壺。
まだ何も成していない。こんなところで終わるわけにはいかない。
私は、泣く泣く踏み出した足を引いた。
「それで良いんだよ。さて朧……おまえもだよ。あたくしの邪魔をしようだなんて、どういうことだい? 輝夜のことは突き止めたのだろうと多少目を瞑っていたけれども、今度ばかりは許されないねえ」
太陰の怒りの矛先が朧に向く。
しかし、彼は女王の言葉を無視した。
「輝夜に力の使い方を教えたのは、玉兎様だそうです」
「は――」
「そして、玉兎様が母様への加護を外されました」
「――え?」
「もう母様は見限られたんですよ。これ以上、玉兎様の名を汚すことは許されない。神の真意がおわかりですか?」
「玉兎様が、直々に……?」
驚愕に瞳を見開く女王。
わなわなと体を震わせている。
「直々に、ですって? あたくしの前にも現れてくださらないというのに? こんな小娘をお認めになられたと、そう言うの? あまつさえ、ご加護を頂けない? あたくしは国を大きくするために、こんなにも考えて、身を削る思いで努力を重ねているというのに? 国のために……それは、玉兎様のためでもあるというのに――?」
国のため――それは、何の免罪符にもなりはしないことがわからないのか。
口だけの言葉は、神の前では戯れ言にすらなりえない。
彼女は、自分の欲望を満たすための行為を、正当化しようとしただけだ。
力を使い、命を奪い、蹴落として。
そうして女神の怒りを買った今、何もかもを失おうとしている。
どうして、こうなってしまったのだろう。
どうにもできなかったのだろうか。
こんなことになる前に、気付くことはできなかったのだろうか。
「あたくしの努力を理解してくださらない玉兎様など、愚劣な神よ! 信じるに値しない!」
「何ということを……!」
今まで加護を与えてくださっていた神に対しての暴言に、私と朧の顔からさっと血の気が引いた。
「そんな神に見限られた? 構うものか。この崇高なる行いを理解できない神など、あたくしの国には不要! あたくしは、ソレイユとアクアを皮切りに、すべての国を支配してみせるのだから。これからは、あたくしが望月の神よ!」
愕然とする朧。ぎりと歯噛みして、何かを堪えるように俯いた。
私は、そっときつく握りしめられた彼の拳を両手で覆う。
悲しみに染まった黒曜の瞳が私を見て、力なく頷いた。
キッと、鋭く太陰を睨み上げる。
「世界を手に入れた暁には、おまえが王となるのよ。おまえに逆らう者はいない。誰もが跪く。嬉しいだろう? 朧」
にっこりと微笑みを向ける太陰。
睨みつけていた朧だったが、ふいに力を抜いた。
哀れみの視線を太陰に向ける。
瞬間、女王の目元に険が宿った。
「何だい、その目は」
「母様……こんなことになる前に、俺がお止めするべきでした」
「何を――」
「もう、元には戻れません。ここで終わりです」
「朧、おまえ何を言って――!」
ハッとする太陰が、頭上を振り仰ぐ。
そこには、神々しい光を纏った男性がいた。
「き、んう、さま……」
鏡が力なく声を上げる。
鋭い目元。光る橙の力強い瞳。
硬そうな黄の短髪は、所々に赤色が混じっている。
がっしりとした体躯に、無駄のない筋肉。
すっと通った鼻筋に、その肌は健康な印象を抱かせる褐色をしていた。
この方が、ソレイユを守護する太陽神、金烏様――
「我の国で、よくも好き勝手に暴れおったな、望月の女王」
「太陽の化身……」
「姫に対するこれまでの働きに加え、二度の侵略……もう我慢ならん。月の加護が失せた今、手を下しても良いということだな?」
「おや、それは我に対する問いか? 太陽の」
「まさか、玉兎様がこの国に?」
朧が驚くのも無理はない。
今、私たちの目の前では、金烏様と玉兎様が並んで顕現している。
違う国の神が現れることができるなんて、聞いたことがない。
「どうやら間に合うたみたいですね、朧サマ」
「空明!」
後方から届いた声に振り返ると、そこには空明さんと十六夜王子、そしてイズミが立っていた。
三人がこちらへと駆け寄る。
「――!」
「良かった。無事で」
イズミが私に抱きつく。
黒髪蒼眼だというのに、一切の躊躇いもなく一直線に私を目掛けて来てくれた。
それが、こんなにも嬉しい。
その事実にほっとしていると、朧に引き剥がされてしまった。
そうだ。喜んでいる場合じゃなかった。
「シャイン……ではなく、輝夜姫だったな。話は後だ。今は女王を」
彼の言葉にこくりと頷く。
「空明、大儀であったな」
「玉兎サマの命令とあらば、何なりと!」
「うむ」
朧がやや呆れ顔で月の神官を見る。
「空明、まさか玉兎様の顕現に力を?」
「もちろんやないですか。玉兎サマの頼みならば、何だってやってみせます――って、大変や!」
ダッと駆けていく空明さん。
向かう先には、倒れている鏡の姿。
「大丈夫か? もう少しの辛抱やからな」
どうやら、回復魔法を施してくれているらしい。
良かった。鏡のことは大丈夫そうだ。
私は、改めて気を引き締める。
目の前では、太陽の神と月の女神に睨まれている女の姿があった。
「さて、どう償わせようか」
「生きている価値があるのか?」
「多大な命を奪ったな」
「様々な者の運命を狂わせたな」
「傷つけ」
「苦しめ」
「そうして、一人高見で笑っていた」
「神さえ見下し、愚弄した」
「許されない」
「許して良いはずがない」
「しかし」
「そうだな」
神がこちらを向く。
四つの瞳に射抜かれて、体が強ばった。
「罪は、果たしてこの者だけのものか?」
「誰もが止めなかった……それは罪ではないのか?」
「よって課せる」
「考え償え」
「ソレイユの姫」
「望月の姫、王子」
「アクアの王子」
「そして、すべての我らが子どもたちよ」
「お前たちに課す」
「この者の処分と罪の購い方を」
「良いか?」
「良いな」
「繰り返すことは許さぬ」
「忘れることは許さぬ」
鋭い神の瞳はしかし、ふっと和らいだ。
「そなたたちならば、大丈夫だ。この玉兎がついておるのだからな」
「何を言う。この金烏がおるのだから、何の問題もありはせん」
「そなたには任せられぬから、こうして我が遙々来てやったというのに」
「血迷ったか。お前が頼むから、仕方なくこの地での顕現を許可してやったというのに」
突如睨み合い、激しい火花を散らす神たち。
そんなところで喧嘩なんてしないでいただきたいのだけれど……。
「母様」
朧の声に導かれて前方を見やると、逃げられないと悟ったのか。項垂れている太陰の姿があった。
彼女もそこまで馬鹿ではない。
ここで逃げ出そうものなら、それこそ神の怒りを買う。
そうなれば、灰すら残らないほどに消されてしまうだろう。
「母様、貴方を拘束させていただきます」
朧は兵士を呼び、太陰を捕らえさせた。
そして、次々と命令を下していき、囚われていたソレイユ王と王妃を解放。
ソレイユの兵士にかけられていた魔法を解かせて、望月軍を国へと撤退させたのだった。
「声が戻って、良かったな」
「うん、ありがとう」
一通りのことが片付いた。
気付いた時には、金烏様も玉兎様も姿を消していた。
お礼、言いそびれたな……。
「それでは、私は国へと戻ります。軍を動かしてしまった後始末をせねばなりません」
イズミが、十六夜王子を引き連れて、帰る準備をしていた。
声を掛けられた朧が応じる。
「俺も国へ戻る。太陰・望月へ処罰を下さねばならない」
「では、後のことは書簡にてやり取りを。数日の内に、場を設けましょう」
「わかった。輝夜、帰るぞ」
すっと伸ばされた手。私は、朧のその言葉に戸惑った。
そうか。私、もうこの国には居場所がないんだ……。
「ええんやないですか、ここでも」
しれっと言い放ったのは、空明さん。隣には、鏡が立っている。
「いろいろ決まるまでは、過ごし慣れた場所におる方が落ち着くでしょう。気になるんなら、その髪色も変えますよ」
「空明さん……」
「この神官さんも、急に姫になれ言われたって、困るやろうし」
その言葉に驚いたのは、鏡だ。
「いえ、私は姫を名乗る資格など……」
「それ決めるんは、ソレイユ国王夫妻と国民なんとちゃう?」
「しかし……」
「大事なことはこれから決めるとしても、全部話してきちんと罪を
「どうしてそこまで……私は、貴方たちの敵なのに……」
「そんなん関係ない。男は、いつだって美人の味方やからな」
「ふふ、相変わらずね、空明……女たらしの、魔法馬鹿……」
「そんなふうに言――え? その言葉……まさか――」
にこりと微笑んで、鏡はソレイユの兵士に自ら拘束を願い出た。
「皆様、近いうちにお会いしましょう」
言って、鏡は玉座の間から出て行った。
「あいつ……」
空明さんは、どうやら彼女がそうだと気付いたらしい。
きっと、今の心境は複雑に違いない。
私が声を掛けることを躊躇っていると、くるり。こちらに向き直った彼は、ぼそりと呟いた。
「思っとった通りの美人に育って……」
「……」
朧が呆れるのも無理ないのかもしれないと思った瞬間だった。
「輝夜、残るか?」
「うん……ちょっと、気持ちの整理をつけたいから。良いかな?」
「お前の自由にすればいい。俺の許可は必要ない」
「もしソレイユにも居づらければ、アクアに来るといい」
「え、イズミ?」
にこりと微笑んで、イズミは後ろ手を振りながら歩いて行った。
「いつでも大歓迎だよ。では、また数日後に」
「イズミ……」
単純に嬉しいと思ってしまった。
私がシャインだろうが輝夜だろうが、彼の態度は変わることがなかった。
やっぱり私、イズミのこと――
「輝夜」
「お、朧?」
「お前は、俺の婚約者だからな」
ぷいっと顔を背けながら放たれた言葉に、ぱちくりと瞬きを繰り返す。
これは、もしかしなくとも……。
え、可愛い。朧ってばずるい! 可愛い!
きゅんと高鳴った胸を、ドレスの上からぎゅっと押さえた。
「朧サマってば拗ねとる! やきもちですか? 可愛い――うぐっ!」
「お前は黙っていろ、空明」
からかう空明さんに、魔法攻撃をお見舞いする朧。
あれは結構本気で痛いやつでは……。
「ひ、ひどい朧サマ……」
「うるさい。いいから俺たちも帰るぞ」
「わかりましたー。あ、輝夜サマ、髪と目の色はどうします?」
「このままで大丈夫です。ありがとう」
「そうですか。ほなまた」
朧サマ待ってくださいよーと声を上げながら、慌てて朧を追いかけていく空明さん。
一人残された私は、床に転がっていた短剣を見つけ、手にした。
「罪の購い方……」
神に委ねられた私たちのこれから。
決めることを許された未来に、私は何を選ぶのだろう。
記憶に眠る輝夜と、意思に息づくシャイン。
名ばかりの人格じゃない。
私は、選ばなくてはならない。
それが、どちらかを殺すことなのだということにも、私は気付いていた。
「生まれ変わろう……私が私であるために――!」
私は手に馴染んだ短剣の柄をくるりと持ち替え、首元に近づけて。
そうして躊躇うこともなく、刃を思い切り横に引いた。
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