第26話 サッカー部からのお願い
朝に約束してた通り、その日のお昼は、伊織ちゃんと一緒に学食で食べることになっていた。
こういう時は、昼休み開始のチャイムがなるのとほぼ同時に伊織ちゃんがうちのクラスにやってくることが多いけど、今日はまだ姿が見えない。
まあ、たまにはこういう日もあるか。もしかして、授業が長引いてるのかな?
だったら今日は私が迎えに行こうっと。
そうして向かった、伊織ちゃんの教室では、授業はもう終わってて、その中で伊織ちゃんは、大勢の人に囲まれていた。
伊織ちゃんの周りに人がいるのなんていつものこと。って言いたいところなんだけど、今日はいつもと少し違う。周りにいるほとんどは、男子生徒だ。
(伊織ちゃん、ついに男子からもモテだした!?)
なんてことを考えていたら、伊織ちゃんが私に気づいた。
「あっ、瑠璃ちゃん、迎えに行くの遅れてごめん」
「いいけど、この人たちって誰?」
「えっと、サッカー部の人たち」
サッカー部?
言われてみれば、体格がガッチリしている人が多くて、いかにもスポーツマンっぽい面々だ。
けど、サッカー部が伊織ちゃんになんの用?
首を傾げると、サッカー部の人たちの目が私に向く。
「おぉっ、君が噂の景村の彼女か。頼む。君からも、景村に試合に出てくれるよう頼んでくれないか?」
「試合?」
「明日の土曜、部員同士で紅白戦やることになってたんだけど、一人ケガをしたんだ。うちのサッカー部人数が少いから、紅白戦できる人数ギリギリだったんだよ」
なるほど。それで、ケガした人のかわりに伊織ちゃんに出てほしいってわけか。
吸血鬼は、普通の人間より身体能力が高い。どれくらい高いかっていうと、例えば陸上だと、100メートル走や幅跳びで世界記録を更新する人が何人もいるくらい高い。参加してほしいって気持ちもわかるかも。
だけど、どうも伊織ちゃんは乗り気じゃないみたい。
「でも、生徒会の仕事が忙しいから」
そういえば、来月にはこの学校の文化祭があるから、生徒会の人たちは今のうちから忙しくなるって言ってたっけ。
「大丈夫。生徒会の奴らには話をつけてきて、一日くらいならこっちに参加してもいいって言われてる」
「う〜ん……」
生徒会の仕事がなんとかなっても、まだ頷こうとしない伊織ちゃん。サッカー部の人たちも、このままじゃ断られそうだってのは察したらしい。
再び、私に話しかけてくる。
「なあ、君からも頼んでくれよ。彼氏がカッコよく活躍するところ、見たいだろ」
「それは……」
伊織ちゃんも吸血鬼だから身体能力は高いだろうし、スポーツが得意って話も、人づてに何度か聞いている。
だけど、クラスが違うから体育の授業も別々だし、本気でスポーツやってる姿なんて、見たことない。
おまけに私の中では、伊織ちゃんといえば未だに昔の大人しいイメージが残ってる。
そんな伊織ちゃんが、本気を出せばどんな活躍をするのか、実はけっこう興味がある。
「確かに、サッカーしてる伊織ちゃん、見てみたいかも」
けど、本人はやりたくなさそうなんだよね。無理に勧めるのはどうなんだろう。
なんて思っていたら、急に伊織ちゃんが言う。
「瑠璃ちゃんがそう言うなら、出てみようかな」
「意見変えるの早っ!」
さっきまで渋っていたのは何だったんだろうって思うくらいの、見事な手のひら返し。
えっと……これって、私が見たいって言ったからだよね。
これにはサッカー部の人たちも驚いたみたいで、みんな唖然としていた。
「彼女が頼んだらこんなに簡単になんとかなるのか」
「今度から、景村に頼み事がある時は、彼女を味方に引き入れよう」
好き勝手言われちゃってるよ。
けれど伊織ちゃんはちっとも気にしてない様子で、ケロリとしている。
「瑠璃ちゃん。よかったら、応援に来てくれる?」
「う、うん。私が見たいって言ったんだから、もちろん行くよ」
これで行かないなんて言ったら、やっぱりやめるなんて言い出しても不思議じゃない。
「えっと……君のおかげで、景村が参加してくれた。ありがとう」
こうして、伊織ちゃんはサッカー部の紅白戦に参加することが決まって、私はサッカー部の人たちから大いに感謝されたのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます