第3章 遊園地デート

第21話 デート(仮)開始

 デートの定義ってなんだろう。

 付き合ってる二人が、どこかに出かけること? それじゃあ、まだ付き合ってない私と伊織ちゃんは、出かけてもデートじゃなくなる。けど、告白までされた上で出かけるなら、デートって言っていいのかも。


 そんな、デート(仮)の待ち合わせ場所に着いたのは、約束の時間の少し前。

 ちょっと早かったかなと思ったら、そこには既に伊織ちゃんの姿があった。


 ただし、そのそばには見知らぬお姉さんが数人いて、何やら色々話しかけられている。

 どちら様って思っていたら、伊織ちゃん、私を見つけると、お姉さんたちに何か言った後、こっちに向かって小走りに駆け寄ってきた。


「瑠璃ちゃん、もう来たんだ」

「うん。えっと──あの人たち、誰?」


 お姉さんたちはこっちに来ることはなく、みんなどこか残念そうな顔をしていた。


「知らない人。急に声をかけられて、待ち合わせてる人がいるって言っても、なかなか離してくれなかった」

「それって、逆ナンってこと?」

「えーっと、そういうことになるのかな……」


 さすがはイケメン。学校から離れても、そのモテっぷりは健在だ。

 私、今からこんな人と、デートかもしれない何かに出かけるんだよね。今更ながら、変に緊張してきた。


 伊織ちゃんはどうなんだろう。そう思ってたら、伊織ちゃんも、私をまじまじと見つめていた。


「どうしたの?」

「私服姿、新鮮だなって思って」

「ああ、これ?」


 いくら私でも、こんな時オシャレしなきゃっていう感覚はある。

 って言っても、ほとんど文に選んでもらったんだけどね。


 そんな、文プロデュースの服装は、白のブラウスにダークブラウンのロングスカート。靴は、今日行く場所に合わせてフラットなものにして、肩には小さめのショルダーバッグを掛けている。もちろんメイクだってやっていた。

 スカートなんて、制服以外で履いたのは久しぶりだし、メイクはほとんど初心者だ。


「えっと……変じゃないかな?」

「まさか。すっごく似合ってるし、可愛いよ」


 うぐっ!

 相変わらず、サラッと可愛いって言ってくるね。

 前に言われた時も妙にソワソワしたけど、好きだって言われた後だと、前よりずっとソワソワしちゃう。


 一方、伊織ちゃんの服装は、ブルーグレーのパーカーに、アンクル丈の細身黒パンツ。頭には、黒のバケットハットを被ってる。

 色合いはシンプルだけど、それが伊織ちゃんの金髪を目立たせていて、何より整った顔立ちのイケメンっていう素材の良さを引き出している。


 伊織ちゃんが可愛いって言ってくれたみたいに、ここは私も、カッコいいとか似合ってるとか言った方がいいのかな?

 だけど、なんだか緊張して、上手く言葉が出てこない。


「それじゃ、少し早いけど、行こうか」

「う、うん」


 言うの失敗。

 まあ、今日はこれから一日一緒にいるんだし、言おうと思ったらチャンスはたくさんあるよね。


 それから、電車に乗って数駅移動。

 そうして降りた先にあるのが、今回のお出かけの目的地である、遊園地だ。


 小さい頃、家族で来たことは何度かあったけど、こっちに引っ越してきてからは初めて。

 もちろん、こんな風に男の子と一緒に来たのも初めてだ。


 ま、まあ、家族で行こうと男友達と行こうと、遊園地の楽しみ方なんて同じ。

 ……だと思うんだけど、実際のところどうなんだろう。そういうの、文にもっと聞いておくんだった。


「──瑠璃ちゃん?」

「な、なに?」


 いけない。色々考えてたせいで、伊織ちゃんとの話、全然頭に入ってなかった。


「そんなに緊張しないで。あんなこと言った後だけど、せっかく遊びに来たんだからさ、まずは遊ぼうよ。僕への返事、考えてくれるのは嬉しいけど、その前に、瑠璃ちゃんにはちゃんと楽しんでほしいんだ」


 緊張してたの、わかってたんだ。話もまともにできてなかったんだから当然か。


 伊織ちゃんの気持ちに対する答え。どうすればいいのかなんてまだわからないし、今日遊びに来たのだって、それを考えるヒントになればって言われたからだ。


 けど確かに、そればっかり考えてたら、つまらなくなりそう。

 元々この遊園地は、子どもの頃から大好きで、来る度にはしゃいでた場所だった。そこに数年ぶりにやってきたんだから、ワクワクしないはずがない。


「そうだね。もっとちゃんと楽しまなきゃ」

「うん。僕も、その方が嬉しいから」


 これで完全に切り替えられるってわけじゃないけど、少し気持ちが楽になる。


 そうしているうちに、遊園地の入場ゲートが見えてきた。


「おぉっ、クマ吉だ!」


 入場ゲートのそばには、この遊園地のマスコットキャラクター、クマ吉の銅像が立っていた。


「この遊園地の話、昔瑠璃ちゃんから何度か聞いてたけど、いつもクマ吉のこと言ってたよね」

「そうそう。懐かしいーっ」


 伊織ちゃんの言う通り、このクマ吉、実はけっこうお気に入りなの。

 黒っぽい体に、キリッとつり上がった目と太い眉。ドヤッて感じの表情で、単に可愛いだけじゃない不思議な愛嬌がある。


 子どもの頃ここに来たら、いつもクマ吉を見てテンション上がってたけど、それは今でも変わらい。


 このまま早速入場。と言いたいところだけど、それにはチケットが必要。

 そしてチケット売り場には、けっこうな列ができていた。

 これは、ちょっぴり並ばなきゃダメか。


 って思ったら、伊織ちゃん、そこでスマホを取り出した。


「チケットはもう買っておいたから。瑠璃ちゃんのスマホにも送るね」


 そう言って画面を操作すると、私のスマホが震えた。

 ここのチケット、スマホで買って、メールを使って他の人とシェアできるみたい。


「買ったって、お金は? 私が半分出すから」


 二人分のチケットってなると、高校生のお小遣いだと決して安くない。

 自分の分は自分で。そう思ったけど、鞄から財布を取り出す前に止められた。


「これくらい、僕に払わせてよ」

「でも……」

「元々僕が誘ったんだし、それに、見栄を張りたいんだ。ダメかな?」


 その聞き方は、ちょっぴりズルい。払ってもらうのは私なのに、そんなお願いされるみたいに言われたら、断れないじゃない。


「うーん。それじゃ、お願いできる?」

「うん。ありがとう」

「いや、お礼言うなら私の方じゃない」


 払う側がありがとうって言うなんて、これじゃ、あべこべだ。

 なのに伊織ちゃん、本当に嬉しそうなんだよね。

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