第19話 それってデートってやつ!?
小さい頃何度も遊んで、色んなことを話してきた伊織ちゃん。だけど、好きなんて言われたのは初めてだ。
いや、実際は、好き自体は何度かあったのかもしれないけど、それは友達としての好きであって、恋愛とか片想いとか、そういう意味の好きは一度もなかった……と、思う。
けど今言われたのって、間違いなく恋愛としての好きだよね。
しかも、それを告げた伊織ちゃんの顔は、真剣で、緊張と恥ずかしさからか赤くなっていて、それだけ本気で言ってくれたんだってのがわかっちゃった。
けどなんで? どうして私を好きなの!?
「い、伊織ちゃん、めちゃめちゃモテてるよね。好きって言ってくる子の中には、私より美人だったり可愛い子だってたくさんいるよね。普通、好きになるならそういう子じゃないの?」
「いないよ。瑠璃ちゃんより可愛いこなんて、どこにもいないから」
いや、いるでしょ! 金城さんだって、初めて見た時は美人だなって思ったもん!
私なんて、小学生の頃のあだ名が野猿だよ! 可愛いなんて、親や、あと親戚のおじさんおばさんとか、身内にしか言われたことないから!
「伊織ちゃん、私のことカッコいいって言って、目標にまでしてたじゃない」
「うん。カッコよくて、可愛いから。だから、そんな瑠璃ちゃんに振り向いてもらうためには、僕もせめて、同じくらいカッコよくならなきゃって思ったんだ」
私をカッコよさの目標にしてたのって、そんな理由からだったんだ。
「可愛いって、何度か言ってたと思うんだけど?」
うっ……確かに言ってたね。その時は、イケメンムーブな社交辞令だって思ってたけど、本気だったの?
「子どもの頃、僕はあの家からほとんど出られなくて、楽しいことなんて何もないって思ってた。だけど、瑠璃ちゃんと会えて、そんな毎日が変わったんだ。たくさん話して、遊んで、一緒にいると楽しかった。次はいつ来てくれるかなって、ワクワクした。そして気がついたら、好きになってた」
あの頃、そんな風に思ってたんだ。
なんだか恥ずかしくて、照れくさくて、体中が熱くなってくる。
もちろん私だって、伊織ちゃんと一緒にいて楽しいと思ってたけど、まだ子どもだったし、恋愛としての好きなんて全然わかんなかった。
けれど、伊織ちゃんは違ったんだ。
「で、でもそれって、その時たまたま会ったのが私ってだけで、もしも他の子だったら、その子を好きになってたかもしれないじゃない?」
「そうかな? けど実際に会ったのは、他の子じゃなくて瑠璃ちゃんだった。大事なのはそれだけだと思うけど、こんな理由じゃダメかな?」
「う、ううん……そんなこと、ない」
正直、起きてることは意外すぎて全然信じられない。だけど、伊織ちゃんが嘘や冗談でこんなこと言ったりしないってのはわかる。
多分、こんな風に気持ちを伝えるのも、凄く勇気を出してるんだって思う。
ただ、それにどう答えていいのかわかんない。
そりゃ、伊織ちゃんのことは好きだよ。だけど今まで恋愛なんて考えたこともなかった。
あっ、でも、再会してからは、時々ドキッとしたことや、カッコいいって思えることはあったっけ。
じゃぁそれって、恋って言えるの? ドキッとしたら、恋愛になるの?
(ああ、もう! 一気に色んなことが起こりすぎて、とても頭が追いつかないよ。ちょっと前まで金城さんと話しつけてたはずなのに、どうしてこんなことになってるの?)
ほとんどパニック状態になるけど、それを見て、逆に伊織ちゃんは落ち着いてきたのかもしれない。
さっきまで赤くしていた顔が少しずつ元に戻っていって、それからフッと軽く息をつく。
「本当は、今こんな形で気持ちを伝える気なんて無かったんだ」
「そ、そうなの?」
「うん。いきなり言っても困らせるかもって思ったし、僕との噂、学校中に広まったでしょ。そんな時に好きだなんて言ったら、もっと大変なことになるかもって思ったんだ。むしろ、みんなの前ではあまり近づかない方がいいって思った」
そういえば、私が伊織ちゃんから少し距離をとってたみたいに、伊織ちゃんも同じことをしてたんだっけ。
「でも結局、騒ぎになるどころか、嫌がらせまであった。それで、思ったんだ。そんなことになるくらいなら、いっそ全部言おうって。瑠璃ちゃんに何かあったら、絶対に許さないって。だって、僕の一番好きな人なんだから」
好き。
真っ直ぐに私を見て、改めてそう言われるものだから、元々うるさかった心臓が、さらにドクンと大きく音を立てる。
だけど伊織ちゃんは、それから少しだけ、申し訳なさそうに言う。
「ごめんね、急にこんなこと言って困らせて。だけど、今すぐ付き合いたいってわけじゃないから、返事は無理に言わなくてもいい」
どうしよう。こんな風に誰かに告白されたことなんてもちろんないし、しかもその相手が伊織ちゃんだよ。そんなの、どう受け止めたらいいかわからない。
それでも、一つ確実に言えることがある。
「こ、困ってなんてないから!」
出てきた声は上ずっていて、緊張しているってのがまるわかりだ。
だけど、これだけは絶対に言わなきゃ。
「そりゃ、驚いたよ。それに、どう返事をすればいいかも、まだ全然わかんない。けど、困るってのとは、なんか違う。伊織ちゃんに好きって言ってもらえて、ちゃんと嬉しかったから!」
私だって、伊織ちゃんのことは大事な友達だって思ってた。そんな相手からここまで思われていたんだから、嬉しくないはずがない。
「返事だって、言わなくていいなんて言わないでよ。付き合えるかどうか、私は、ちゃん答えを出したいんだから!」
「ほ、本当?」
とたんに、伊織ちゃんの顔がパッと明るくなる。
あんなこと言ってたけど、やっぱり本当は、ちゃんとした返事がほしいんだ。
けど、勢いよく喋れたのはここまでだ。
「あっ──で、でも、ちょっとだけ待ってもらうかも。きちんと考える時間がほしいから。けど、どうしよう。こんなの、どうやって考えればいいんだっけ?」
友達として好きなのは間違いないけど、恋愛としてはどうなのかな。そもそも、その二つの好きの違いって何なんだろう?
あぁ、とことん恋愛とは無縁で生きてきた自分が憎い。
伊織ちゃんが真剣だってのはわかってるから、私だっていい加減な気持ちで返事はしたくない。
けどこのままじゃ、どうやったら答えが見つかるかもわかんないよ。
するとそんな私を見て、伊織ちゃんはこんなことを言ってきた。
「真剣に考えてくれて、ありがとう。それで、どう考えればいいかもわからないなら、僕からひとつ提案があるんだけど、いい?」
「な、なに?」
私一人で考えてたら、いつ答えが出せるかなんて見当もつかない。
何か案があるなら、ぜひ聞いてみたい。
「明日から週末で、学校休みだよね。明後日の日曜、僕と一緒に遊びに行かない?」
「一緒に、遊びに?」
「うん。一日一緒にいて、今の僕のことを知ってくれたら、少しは答えを出すためのヒントになるかもよ」
な、なるほど。確かにそれは、いいアイディアなのかも。
そもそも、再会してから今まで、ほとんど学校の中でしか会ってなかったんだし、今の伊織ちゃんのこと、もっとよく知りたい。
付き合うかどうかで悩んでるならなおさらだ。
「うん、わかった。明後日の日曜だね。空けておくから」
一日中、伊織ちゃんと一緒。どうなるかなんて全然わかんないけど、もしかしたら、それで付き合うかどうかが決まるかもしれないんだ。
そう思うと、早くも胸がドキドキしてくる。
だけど、その時私は気づいた。
二人で一緒に遊びに出かける。しかも、私を好きな人と。
ちょっ、ちょっと待って。まさか、それってつまりデートってこと!?
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