第14話 続く嫌がらせ
この学校に転校してきてから数日。新しい生活に、最初は戸惑いもあったけど、それにもだんだんと慣れてきた。
って言いたいところなんだけど、どうしても慣れないことだってあるんだよね。
昼休み。文と一緒に学食でご飯を食べてから教室に戻る途中、すれ違った子がジロジロ見てくる。私と伊織ちゃんがキスしたって噂になった時と、全く同じ反応だ。
けど、それはまだマシな方。中には、あからさまに舌打ちする子もいた。
そして、これは本当にたまにだけど、私の持ち物が無くなったり、見つけにくい場所に落ちてたりするのよね。
「瑠璃、めちゃめちゃ敵意向けられてるじゃない。大丈夫なの?」
教室についたところで、文が心配そうに言う。
こんなことになった心当たりは、ひとつしかない。
「あの人たち、やっぱり伊織ちゃんガチ勢なのかな?」
「多分。瑠璃と景村くんのこと、女子の間じゃまだまだ噂になってるからね」
伊織ちゃんと私の事故チューに、昔からの友達だったってこと。
それらは、この前の一件以来表立って騒ぎになることはなかったけど、未だそれを妬む人はいるみたい。
幸い、今のところ直接攻撃されるようなことはないけど、こんなこと続けられたら、息苦しくなってくる。
ううん。もしかしたら、直接何かされる方が、まだマシかもしれない。
「どうせなら、大勢で囲んでリンチとかやってこいっての! そしたら、こっちも遠慮なく反撃できるのに!」
叫びながら、ファイティングポーズをとってシュッシュと拳を唸らせる。
「この状況で落ち込むんじゃなくて、反撃できずに怒るところが瑠璃らしいよ。けど、こんなのがいつまでも続くと参るよね」
「ほんとだよ。ねえ文、私と一緒にいたら、文まで悪く言われるかもしれないけど、どうする?」
自分があんな態度をとられるのはもちろん嫌だけど、文まで巻き込むのはもっと嫌。
だけどそれを聞いて、文は怒ったように目を吊り上げた。
「それ、本気で言ってるの? そんなのが怖くて、友達を見捨てるわけがないでしょ」
「ありがとう。変なこと聞いてごめんね」
迷わず味方してくれるのが、凄く嬉しい。
こんな風に、文が変わらずいてくれるから、落ち込まずにすんでる気がした。
「だいたい、嫉妬されるようなことなんてしてないのに。昔はともかく、今は、たまに会って話をするくらいだよ」
実はあれ以来、伊織ちゃんとはそこまで頻繁に会ってるってわけじゃないんだよね。
伊織ちゃんは、私たちの隣のクラス。
会おうと思えばいつでも会えるけど、あんな騒ぎがあった後でしょっちゅう会ってたら、また変な噂が広まるかも。
そう思うと、わざわざ会いに行っていいかわからなくなったんだよね。
せいぜい、廊下とかでたまたま会った時に挨拶するくらい。
本当は、せっかく久しぶりに会えたんだし、色々話したりしてみたいって思ってるんだけどね。
「いっそのこと、何があったか、全部景村くんに相談してみるってのは? 瑠璃が困ってるって知ったら、力になってくれるんじゃないの?」
「うーん、でもねぇ……」
それは、考えなかったわけじゃない。伊織ちゃんだってこの件には思いっきり関係してるんだし、事情を話したら、なんとかしようとしてくれるとは思う。
だけど伊織ちゃんの性格を考えると、何があったか知ったら、また自分のせいで迷惑をかけたって責任を感じてしまうような気がした。
もちろん、実際には伊織ちゃんが悪いなんてことはないんだけど、だからこそ、自分のせいだなんて思ってほしくない。
「伊織ちゃんに相談するのは、最後の手段にしておくよ」
「そう? 本当に大丈夫?」
文はまだ心配そうにしてたけど、今のところ耐えられないくらい辛いほどじゃない。もうしばらくはこのまま我慢し続けても大丈夫だと思う。
そうしているうちに、向こうが勝手に飽きてくれたらいいんだけどな。
だけどこういうのは、飽きるどころかエスカレートすることだってある。
それを思い知ったのは、この日の授業が終わった後。家に帰ろうと、教室を出て昇降口に来た時だった。
一人の女子生徒が、勝手に私の靴箱を開け、中に入っている靴を取り出しているのが見えた。
「ちょっと、何してるの!」
もちろん、自分の靴箱と間違えた、なんてのじゃないってことくらいわかってる。
私の靴を隠すか、捨てるか、どっちにしろ、嫌がらせをしようとしてるのは明らかだ。
そして、その女子生徒には見覚えがあった。伊織ちゃんガチ勢のリーダーである三年の先輩、金城さんだ。
「それ、私の靴ですよね。勝手に取り出して、どうしようって言うんですか?」
金城さんと初めて会った時はタメ口だったけど、今は先輩とわかっているから敬語で話す。だけど、敬うのは言葉だけ。実際は、敵意全開だ。
なにしろこれは、悪事の現行犯。先輩だろうと伊織ちゃんガチ勢だろうと、悪いものは悪いって言ってやらないと。
金城さんも、まずいところを見られたって感じで、少しだけ私から目をそらす。だけど、そんな大人しい態度も長くは続かなかった。
「あんたが景村くんに対して馴れ馴れしいのがいけないのよ!」
チッと大きく舌打ちして、鋭い目で睨みつけてくる。
この状況で、開き直れるなんて、ある意味すごい。
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