第13話 ガチ勢ってヤバい
「ちょっと、瑠璃。いったいどういうこと? 前から景村くんと知り合いだったの!?」
「文、落ち着いて。ちゃんと話すからさ」
私と伊織ちゃんが昔一緒に遊んだってのは、さっきもみんなの前で説明したけど、文はもっともっと知りたいって感じで、グイグイ聞いてくる。
ただ、それはさっきの子たちみたいに問い詰めるとかじゃなくて、純粋な好奇心って感じ。
だから私も、小学生の頃伊織ちゃんと出会ってたこと。何度も伊織ちゃんの家に行っていたことを、ちゃんと話す。
と言っても、一から話すとまあまあ長くなる。
ホームルームから授業開始までの短い時間では足りない。休み時間に少しずつ話していったら、全部言い終わる頃には、昼休みになっていた。
「景村くんって、昔はそんなに大人しかったんだ。パーフェクトな王子様の意外な過去。それはそれで萌える!」
伊織ちゃんとのあれこれを説明する以上、昔伊織ちゃんがどんな子だったかも話すことになってしまった。
今の伊織ちゃんしか知らない文にとっては、かなり驚きの事実だったみたい。
「あのさ、できれば昔の伊織ちゃんについては、なるべく他の人には話さないでいてくれる?」
私はその頃の伊織ちゃんも好きだけと、本人はそこから変わりたいって思ってたみたいだし、言いふらしたりはしない方がいいよね。
「わかった。それにしても瑠璃、あの頃学校以外でそんなことしてたんだ。じゃあもしかしたら、私も瑠璃について行けば、その時景村くんに会えてたかもしれないってこと?」
「あーっ、言われてみれば、確かにそうかも。ごめん、誘った方がよかった?」
なんとなく、伊織ちゃんとは二人きりで会う習慣がついてたから、文たちの学校の友達にもほとんど話したことがなかったんだよね。
「まあ、そこは別に気にすることないって。学校以外に、塾とかで別の友達がいる子なんて普通にいたし、二人の間に割って入るような野暮なこともしたくないからさ」
「割って入るって、だから伊織ちゃんとは、そんなんじゃないってば」
伊織ちゃんとは、好きとか付き合ってるとかじゃないってのは、さっき説明でもしっかりしたはず。だけど今の文の言い方じゃ、完全にそういう含みを持っていそうだ。
「だって今の話じゃ、その頃の景村くんって瑠璃以外にほとんど友達いなかったっぽいんでしょ。そんな中、たった一人一緒に遊んでいた女の子。そんなの、好きになってもおかしくないんじゃないの?」
「なに言ってるの。その頃まだ小学生だったんだよ。そんなのまだ早いって」
「いやいや、小学生でも恋愛とか普通にあるから。私たちだって、恋バナとかけっこうしてたよ」
「あれ、そうだっけ?」
私が首を傾げると、文は呆れたようにため息をついた。
「そうだった。そういえば、瑠璃はその手の話にまったく興味なかったね。スポーツ得意な子がいても、かっこいいって憧れるんじゃなくて、勝つぞって勝負を挑むような子だった。さすがは野猿」
むうっ。
なかなか失礼なこと言われてるけど、確かに当時の私はそんな感じだったから、これは言い返せない。
「でも、景村くんの方はわからないよ。しかも、そんな子と六年ぶりの感動の再会だよ。少女マンガなら恋が始まるシチュエーションじゃない」
「少女マンガならね。けどこれは現実。あと、そんな感動的な何かがあったわけでもないから。だいたいさ、今の伊織ちゃんって、女の子からの人気が物凄いことになってるじゃない。今さら、私相手に好きとかはならないでしょ」
伊織ちゃんなら、彼女を作ろうと思えば、どんな可愛い子だってあっという間に付き合えそう。
それに引き替え、私は呆れるくらい、恋愛から縁遠かったやつ。
文が言ってるようなことなんて、とてもイメージできないよ。
すると文は、これまでのはしゃいた様子から、少しだけ声を落として言う。
「他の子たちも、そう思ってくれたらいいんだけどね。特に、景村くんガチ勢」
ガチ勢。確か、伊織ちゃんの熱狂的なファンたちだっけ。
「ガチ勢の子たちって、景村くんはみんなのものだから、抜け駆けは悪って思ってるところがあるんだよね。目をつけられたら、厄介なことになるかも」
そう言われて、ガチ勢のリーダーである金城さんのことを思い出す。
生徒会室で伊織ちゃんがみんなに私との関係を説明した後も、彼女は私のことを鋭い目で見ていた。
「その、ガチ勢って子たちに目をつけられたら、どうなるの?」
「う〜ん、そこまでは私もわかんない。けどもしかしたら、校舎裏に呼び出されてリンチとかされるかも……」
その場面を想像したのか、文の顔色が徐々に悪くなっていく。
「ねえ瑠璃。ほ、本当にヤバいことになりそうだったら、言ってよね。あぁ……でも、私じゃ力になれないかも」
何かあるとしたら私なのに、文の方が怖がってる。ガチ勢って、そんなにヤバいの?
「大丈夫だって。たとえリンチしようとしてきても、私なら返り討ちにするから」
そう言って、シュッと突き出す正拳突き。
今はもうやめたけど、これでも空手の有段者。たとえリンチしようとしても、そう簡単には負けないんだから。
するとそれを見て、文も少し安心したように笑顔を見せる。
「確かに、瑠璃がやられる姿なんて想像できないか」
「でしょ。だいたい、実際には私と伊織ちゃんはなんともないんだからさ。みんなわかってくれるって」
そうだ。そもそも、私が目をつけられるような理由なんて、よく考えれば何もないんだよね。
だからきっと大丈夫。そう、自分に言い聞かせる。
だけど後にして思えば、この時の私は、まだまだ事態を甘く考えていたのかもしれない。
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