第5話 六年ぶりの再会

 その日の放課後。部活に行く文と別れた私は、一人職員室に向かう。

 その理由は、この広くて複雑な校舎を先生に案内してもらうため。


 文も言ってたけど、しっかり教えてもらわなきゃ、すぐに迷子になりそう。


 職員室に入って、事前に約束していた先生を訪ねたけど、その先生は机の上でたくさんのプリントに向き合っていて、忙しそうにしていた。


「あの、先生?」

「ああ、浅尾か。すまないが、今日中に終わらせなければならない仕事がまだ残っていてな、すぐには案内できそうにないんだ」

「そうなんですか」


 それじゃ、今日はもうさっさと帰った方がいいかな?


「だからかわりに、生徒会の役員に案内を頼んだんだが、それでいいか?」

「そうなんですか? 別にいいですよ」


 案内してくれるなら、先生でも生徒会の人でも、どっちでもいい。


「その役員の生徒なんだが、今は体育館倉庫の整理を頼んでいてな。まずはそっちに行ってくれないか」

「わかりました」


 それから体育館の場所を聞いて、そっちに向かう。


 建物の造りが独特なこの学校だけど、さすがに体育館の中身は、普通の学校とそう変わらない。

 中に入ると、男子のバスケ部が練習をしているところだった。


「おぉっ、けっこう活気があるね」


 私は長い間空手をやってたけど、それ以外でもスポーツ全般は大好き。だから近くでこういうのをやってると、ついつい目がいっちゃう。


 生徒会の人と会わなきゃいけないけど、ちょっとだけなら、見ててもいいよね。


 今はちょうど試合形式でやってるから、眺めてるだけでも面白い。


 するとそんな中、一人の部員が、相手のディフェンスに塞がれながら、強引にシュートを放つ。どうにもならないから、とりあえず力いっぱい投げてみたって感じだ。


 もちろん、そんなのがきちんとゴールに入るはずがない。バックボードに弾かれて、コート外に、というか、私の方に飛んできた。


「うわっ!」


 避けなきゃ!


 咄嗟に身を翻そうとしたその時、グッと肩を掴まれて、強く横に引っ張られた。


「えっ──!」


 引っ張ったのは、一人の男子生徒。

 次の瞬間、すぐ側の床に飛んできたボールが叩きつけられ、大きな音がする。


 当たったら痛そう。


 そう思ったところで、男子生徒がそっと囁く。


「大丈夫? ケガはない?」

「う、うん」


 これって、助けてくれたんだよね。

 お礼、言わなきゃ。


 だけどそこで、はたと気づく。

 グイッと引っ張られた結果、今の私は、その男子生徒に抱きしめられるような体勢になっていた。


「ふぇぇぇっ!?」


 その様子を見たバスケ部員たちから、おぉっと声があがる。


 声をあげたいのは、私だって同じ。

 だって、男子とこんな風に密着するなんて、未知の体験だよ!


 しかも、しかもだよ。

 その時になって、ようやくその男子の顔をまともに見たんだけどさ……


「い、伊織ちゃん!?」


 私を助け抱きしめていたのは、なんと伊織ちゃんだった。


 なんでここに?

 距離、めちゃめちゃ近いんだけど。

 って言うか、これが六年ぶりの再会だよね。私のこと、覚えてる?


 いろんな言葉が次々に頭に浮かぶけど、気が動転して、なかなか言葉が出てこない。

 すると私より先に、伊織ちゃんが言う。


「えっと……瑠璃ちゃん、だよね。大丈夫? ケガしてない?」

「う、うん。平気。って言うか、伊織ちゃん、私のことわかるの?」

「もちろんだよ。瑠璃ちゃんのこと、忘れるわけないから」


 そうして伊織ちゃんは、ニコッと笑う。

 これが、私と伊織ちゃんの、六年ぶりの再会だった。


 伸びた背丈に、厚くなった胸板。

 昔とは全然違う伊織ちゃん。だけど私に向けた笑顔には、あの頃の面影が残ってる気がした。

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