第2話 昔一緒に遊んだあの子だ!

 吸血鬼。

 昔は架空の存在みたいに言われてたらしいけど、近年になってその存在が認められ、今では人間と一緒に生活をしている。


 って言っても、吸血鬼は数が少ないから、滅多に見ることはないんだけどね。

 そんな吸血鬼が、この学校にはいるんだ。


「どお、瑠璃。吸血鬼なら、パーフェクトな王子様ってのも納得しない?」

「まあね」


 吸血鬼の特徴は、その名の通り人間の血を吸う力を持ってること。

 だけど普通に生活する上ではそんなことはしなくて、物語に出てくる吸血鬼みたいな怖いイメージはほとんどない。


 それよりも、顔も頭も運動神経もいい凄い人たちって見られることがほとんど。

 なんでも遺伝子のせいか、吸血鬼にはそういうあらゆる面で優れてる人が少なくないみたい。


 あと、吸血鬼の中には魔術を使える人もいるんだけど、それだって、神秘的とかミステリアスとか言われているんだよね。


 だから吸血鬼って種族そのものに憧れる人もけっこういて、前の学校の女子達でかっこいい男子について話した時も、吸血鬼と付き合いたいっていう子がけっこういたっけ。


 そんな吸血鬼への憧れは、どうやらこの学校でも同じみたい。


「せっかくだから見ていこうよ。目の保養、目の保養」

「いいよ」


 文に誘われ、たくさんの女子に囲まれている吸血鬼くんとやらに目を向ける。


 周りが女の子ばかりだから余計にそう見えるのかもしれないけど、背はまあまあ高い。髪の色は、外国人みたいな金色。イケメンって一口に言っても色んなタイプがいるけど、白っぽい肌と整った顔立ちは、まるで精巧に作られた人形のように綺麗で、紛うことなき美少年だ。

 柔らかな表情で笑ってるからか、優しそうな印象を与えてくれる。


「ね、イケメンでしょ。しかも、あんな風に囲まれても嫌な顔せずに、笑顔で神対応してくれるんだよ。凄くない?」

「うん。確かに」


 聞こえてきた声から察すると、どうやら彼は、最近英語のスピーチ大会で優勝したらしくて、女の子たちは、それにおめでとうを言いにやってきたらしい。


 みんなかける言葉は似たり寄ったりなんだけど、吸血鬼の彼は、その全てに笑顔でありがとうって言ってて、その姿はまるでアイドルのよう。


 するとその時、女の子同士で押し合いになったのか、その中の一人が、突き飛ばされたように大きくよろける。


 倒れる!

 そう思った瞬間、吸血鬼の彼が咄嗟に動いた。


「危ない!」


 びっくりするくらい素早い動きで倒れかかった女の子の手を掴み、それを阻止。

 そしてそのまま、ゆっくりと体を引き上げる。


「大丈夫だった?」

「は……はい」


 まるでドラマのワンシーンのような光景。

 周りの女の子達からはキャーッて歓声があがるし、助けられた子なんて、顔を真っ赤にして茹でダコ状態だ。


 もちろん、文だって大興奮。


「ね。顔だけでなく中身までイケメンでしょ」

「うん。確かに。で、文もそんな、パーフェクトな王子様のファンなの?」

「そうだよ。っていっても、たまにこうして見るくらいのにわかファンだけどね。私よりもっと熱狂的なファンが何人もいるんだよ」


 凄い話だけど、こうまで騒がれてるのを見ると、それも納得だ。


「吸血鬼って、うちの学校にも彼だけしかいないんだけど、みんなあれくらいかっこいいのかな。ねえ、瑠璃が前いた学校には、吸血鬼っていなかった?」

「いないいない。前の学校どころか、中学でも、転校していった小学校でもいなかったよ。あ、でも……」


 そこまで話したところで、一人の男の子を思い浮かべる。


 実は、私がまだこの街に住んでいた頃、吸血鬼の男の子の友達がいたんだよね。


 名前は、景村伊織。私は、伊織ちゃんって呼んでいた。


 よく一緒に遊んでたんだけど、同じ学校ってわけじゃなかったから、その子のことは文も知らない。


(この街に引っ越すのが決まった時から、また会えるかなって思ってたけど、私のこと覚えてるかな?)


 今では伊織ちゃんも、パーフェクトな王子様みたいになってたりして。

 なんて、それはないか。


 伊織ちゃんも綺麗な顔はしてたけど、大人しくて、ちょっとだけ泣き虫で、なんだか守ってあげたくなるタイプって感じ。

 パーフェクトな王子様ってのとは、ちょっと違うかな。


 同じ吸血鬼でも、色んな人がいるからね。


 そんなことを考えながら、改めてイケメン吸血鬼の彼を見る。


(あれ、待って? あの人、どこかで見たことあるような。って言うか、伊織ちゃんと似てない?)


 記憶の中にある伊織ちゃんも、あんな風な金髪に、白っぽい肌をしてた。


 でもでも、あんなに背が高くはなかったし、あんなに堂々としてるとこなんて見たことない。

 雰囲気で言うと、まるで違うんだよね。


 別人かな? それとも、まさか同じ人?


「ねえ、文。あの吸血鬼の人、名前はなんて言うの?」

「名前? 景村伊織かげむらいおりって言うんだよ」

「ふぇっ!?」


 じゃあ、やっぱりあの人は、私が昔一緒に遊んでた伊織ちゃん?


 あの、大人しくてオドオドしてた伊織ちゃんが、女の子に囲まれているパーフェクトな王子様になったってこと!?

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