タセマ到着

 飛行機を降りると、第六世界のイバイ星、タセマは、五月九日の夕方であった。

 流石さすが先進国といったところだろうか、街には銀色や金色に輝く高層ビルが建ち並び、その迫力だけで、ちっぽけな人間など簡単に押し潰してしまいそうだ。

 複数の世界の存在が発見されて、およそ二百年。その間に、異世界間では多くの情報交換がなされ、最新の文明は全世界に広がって、大都市の見た目は、どの世界においても大きくは変わらないものとなっている。

 その街を歩くのは、様々な世界や国の人間。

 肌の色、髪の色、目の色が様々なことはもちろん、体の形も、微妙に違っている。

 オリトとヤン少年とフヨルは、辺りをきょろきょろと見回しながら、たいらに舗装ほそうされた道を歩く――。

 タセマ国の景色が分かってきたところで、読者諸君の為に解説しよう。

 現在は十二の世界が発見されていると前述したが、どの世界においても物理法則は全く同じであるため、生物の進化に関して大きな違いは無い。また、全世界がほぼ同時に誕生し、同じ時間を動いているので、進化の度合い、文明の発展度合いもおおよそ同じだ。

 人類の場合、生まれた世界が違えば、体格や色素、また、耳の形や指の長さなどが異なることがあるが、二足歩行の知能が発達した動物、という部分に関しては違いが無い。

 そんな中で一つ、それぞれの世界の人類に明確な差異があるとすれば、それは『特殊能力』だ。

『第○世界人特殊能力』と呼ばれるそれは、例えば、『第五世界人特殊能力』は『時間移動』で、『第三世界人特殊能力』は『物質置換』といったように、世界によって様々である。

 人間の場合はその能力を、トレーニングをすることで習得・向上することができる。

 人間以外の生物の場合でも、知能と、特殊能力を扱う潜在的な力が高ければ、人間から教えられると使えるようになることがあり、また、ごくまれにだが、偶然使えるようになることもある。

 ――まだまだ解説し足りないが、読者諸君は飽きてくる頃合いだろうから、この辺りで、オリトたちの様子を観察しに戻ろう。

「オリトさん、そっちじゃないです。それは、『ふわぴょんランド』直通道路です」

 ヤン少年はフヨルと一緒に、オリトを引っ張って正しい道に戻す。

「わもわもへもん?」

「『ふわぴょんランド』です。小さな子供のいる家族層向けの大型テーマパークで、ウサギがそのテーマとなっており、現在は第六世界に五つ、第九世界に七つ、その他のほとんどの世界にも一つから三つはあって、無いのは第二世界と第十二世界だけという、全世界的に人気のある遊園地です。家族層向けではありつつも、ティーン、カップル、シニアも多く訪れていまして、その割合は――」

「ヤン君は、ウサギをティーカップで煮込むとどうなるかを調べているんだね」

 オリトはポンコツなので、入ってくる情報が多すぎると脳がショートし、更にポンコツになる。

 だが、ヤン少年もヤン少年で、喋り出すと止まらない癖があるので、時々このような状況が発生する。

「特に人気が高いのが、『ケパプルー』というアトラクションで、それは、巨大なウサギの背中に乗る疑似体験をすることができるものです。それには、人間の脳や身体感覚に関する知識・技術だけでなく、第二、第九、第十一世界の特殊能力に関わるスタッフや技術が――」

「アリとウサギが結婚すると、ショッペルハルトの狂想曲きょうそうきょく第百番が流れるの?」

 二人が話している間、フヨルは、おなかいたなあ、と思っていた。

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