アキを追う


 秋は夕暮れ。


 夕日の差して山の端いと近うなりたるに、からすの寝所へ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへあはれなり。









 




 学校帰り、僕は公園に向かった。


 オレンジと青が共存している世界に、『アキ』は現れる。


 階段を二段飛ばしで登ってゆく。

 

 視界が開け、脈打つ心臓を抑えながら、辺りを見回す。


 ベンチから数メートル離れたブランコに『アキ』は腰掛けていた。

 


 カァ

 


 僕が来たを伝えるようにカラスが鳴いた。


 僕に気づいた『アキ』はそっと礼儀正しく会釈する。


 僕も会釈を返し、小走りで横のブランコに腰掛ける。




 僕が口を開きかけた時、みかしたように、『アキ』が僕に問いた。


 ここに何にでもなれる種があるとする。


 その種を砂漠に植えるならば、飢えに強いサボテンが育ち、森に植えるのならば、葉を繁らせる力強い一本の木となるだろう。


 君なら如何どう育てる、と。



 僕はしばらく考え、毎日水を与え、太陽の当たる丘で、美しい薔薇を育てたい、と答えた。


『アキ』は満足気に頷き言葉を続けた。


 人も同じだと。
















 人は皆もともとは何にでもなれる種だった。


 周囲の環境がその人を存在させたのだ。


 人はしばしば、自分の存在意義がわからなくなる時がある。


 何故自分は存在しているのか。


 その答えは、今までの出会いや経験を含めた全ての環境が、今の自分を形作っているから、である。












 カラスが沈む夕日に向かって飛んでゆく。


 隣のブランコに『アキ』はもういなかった。


 僕の目に、一枚の紅葉もみじが映った。


 




 






 

 


 

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