第18話 ハロウィン前日

「何でまたこんなに散らかしたんですか?……」


「お気に入りの木の実が見つからなくてな……」


 谷崎と卑弥呼は木の実まみれになった床を掃除していた。


「でも、お気に入りの木の実は見つかったし安心せい!」


 卑弥呼は木の実を取り出す。谷崎は落ちていた木の実と比べる。


「……どこが違うんですか?」


「違うもなにも、このツヤ、この形、この色!分からんのか!?」


「……同じに見えます」


 流石に木の実好きの谷崎にも卑弥呼には到底及ばない。


「分からないのか!?」


 卑弥呼は頭を抱えていると、


 ピコン


 谷崎はスマホを取り出す。


「ん?……おお、もうこんな時期か……って」


 通知欄には『明日はハロウィンです。身近な人にお菓子を貰いましょう!貰えなかったら、うふふなイタズラしちゃいましょう!(イタズラは程々に!)』と書いていた。


(俺のスマホ、遂に人格を持ったのか?)


 谷崎は通知の内容に戸惑っていると、卑弥呼は谷崎の肩に顔をのせてスマホを見る。


「どうしたのじゃ?」


「……ハロウィンですよ」


 谷崎はスマホに表示された文章を添削して卑弥呼に伝える。


「……ハロ……ウィン?」


「未来の明日はハロウィンって言って子どもがお化けに変装して色んな人の家に行くんです。そして家の人に〈トリックオアトリート!お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ!〉と言うんです。そしたら家の人がお菓子をあげるんです」


 卑弥呼はジト目になる。


「……今の晴人……気持ち悪かったぞ……」


「教えてあげたのに酷くないですか?」


「冗談じゃ、その……お願いがあるんじゃが」


「?どうしたんですか?」


 卑弥呼は外で遊んでいる子ども達を指差しながら言う。


「話によると子ども達がトリックオアトリート?と言い菓子を貰うのじゃな?そのハロウィン?をやってくれないか?ここは娯楽が少ない少しでも子ども達を楽しませたいのじゃ」


「分かりました。子ども達を楽しませましょう」


「あと、もう一つあって……」


「なんですか?」


 卑弥呼はモジモジしながら言う。


「 その……わらはの分も作っても良いか?」


「勿論いいですよ」


 すると卑弥呼の顔がパッと明るくなり、谷崎に抱き着く。


「有難う晴人!」


「だから抱き着かないで!」


 谷崎と卑弥呼は掃除を終わらせ召使いの少女の家に行く。


「お願いじゃ!子ども達のためにハロ、ウィン?とやらをやりたいのじゃ」


「卑弥呼様の願いは分かりましたが、ハロ……ウィンとは何ですか」


「晴人!説明をよろしくな!」


「え、えーと……」


 谷崎は召使いの少女にハロウィンの事を教えていく。


「んん……まだ良くわかりませんけど……卑弥呼様達の願いは分かりました。菓子は私が作るので飾り付けはお願いします」


「分かった!」


 谷崎は卑弥呼と一緒に家に戻りハサミを使ってノートの紙を切っていく。


「ほう……器用じゃな」


 そしてペンケースに入っていたオレンジ色の蛍光ペンを紙に塗っていく。そして黒色のマーカーで仕上げをする。


「できました」


「おお、きれいな色……何じゃこれは?かぼちゃ?に目や口があるのか?」


「ハロウィンではこれをパンプキンって言って色んなところに飾るんです」


「むむ、不思議じゃな」


 パンプキンの他に輪っかをつなげる飾りや、怖くない可愛らしいおばけの絵なども描いていたが……


「これは……何じゃ?」


「おばけの絵です」


「 ひっ、おばけ!?」


 卑弥呼は後退りする。


「……怖いんですか?」


 卑弥呼は首を縦にふる。


「何故おばけの絵を飾るのじゃ!?」


「……何故って言われても、飾るのが普通なので」


 谷崎がいつも行っている近所のスーパーにも毎年10月になるとハロウィンの飾りがされる。そのときにもパンプキンのほかにおばけの絵が飾られてあり、子ども達はそれを見て喜んでいる。だが卑弥呼とはいうと……


「可愛らしく作ったつもりなんですけど……」


「 可愛くてもだめじゃ!だめ、だめ!」


 卑弥呼は涙目になる。


「!?分かりました、もうおばけは描きませんから!」


 そんなことがありながらも飾りを作り続け、一段落ついたとき。


「菓子ができましたよ」


 そう言いお菓子が入った籠を持った召使いの少女が顔を出した。


「味見してみて下さい」


「んーどれどれ……」


 卑弥呼は少女に近寄りお菓子を一つ取る。それはクッキーの様な物だった。


「ぱくっ!もぐもく……んん!美味しい!」


 卑弥呼はそれを絶賛する。


「どうぞ晴人様も」


「ありがとうございます。ぱくっ、もぐもぐ……?」


 確かに美味しいが甘くない。逆に生地本来の美味しさが分かり良かったが、クッキーと思って食べてしまい、ぎこちない反応をしてしまった。


「?美味しくなかったか?」


 卑弥呼が尋ねる。


「いや、美味しいですよ。でも未来ではこんな感じの食べ物があってクッキーって言うんですけどお砂糖が入っていて甘いんですよ」


「砂糖?聞いたことがない言葉じゃな」


(そうだった、今の時代はまだ日本には砂糖が無かったな)


 日本に砂糖が伝わったのは弥生時代から何百年先の遣唐使の頃だと考えられている。


「砂糖は塩みたいな見た目なんですけど甘くで現代では色々なお菓子に使われているんです」


「ほう……甘い味のも食べてみたいな!」


 そして卑弥呼は谷崎と召使いの少女の顔を見て言う。


「明日のハロ……ウィン……を!成功させるぞ!」


「「はい!」」


 三人は明日のハロウィンについて意気込んでいたが卑弥呼が一言


「もう一つくれんかの?」


「駄目です」


「はい……」


 こうしてハロウィンを迎えることとなった。

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