第15話 木の実集め
「うう……昨日は本当にすまんな……」
「もう大丈夫ですから……」
卑弥呼は酔っている時の記憶を覚えているようだ。
(んー……どうすればいいんだろう……)
「あ!そうだ、きれいな木の実を集めにいきましょう」
「ん!木の実集め!早く行こう!」
さっきまで眉を下げて謝っていた卑弥呼だが今はもうすっかり目をキラキラさせて谷崎の袖を引っ張って来る。
(本当に木の実が好きなんだな……)
谷崎と卑弥呼は村の近くの山に行く。
「うわぁ……!いいの!いいの!」
夏は緑に生い茂っていた木は美しい色の木の実をつけている。
「これも、あれも、それも!綺麗な木の実じゃ!」
卑弥呼は色んな所を駆け回っている。
(なんか、子供みたいだな)
卑弥呼が木の実を集めている姿は無邪気に走り回る子供のようだった。そんな姿を見ると、面白く思えて、そして何故か自分も嬉しく思う。
木に腰掛けて卑弥呼を見ていると背伸びして手の先にある木の実を取ろうとしていた。
「うんしょ、うんしょ、取れんな……」
「これが欲しいんですか?」
谷崎は卑弥呼の手の先にある木の実を指差す。
「そうじゃ!それじゃ!慎重に取ってくれ!」
谷崎は慎重にゆっくりと木の実を取る。
「はい、どうぞ」
「おお!まさしくこの色!この形!いいのう……有難うな、晴人!」
「取りたいものがあったら言ってください」
卑弥呼は目をキラキラ光らせる。
「じゃあ!あれも!」
「はい」
「これも!」
「はい」
「それも!」
「……はい」
卑弥呼の連続注文に苦笑いする。だか、
「卑弥呼さんが楽しければ良いか」
「ん?何か言ったか?」
卑弥呼は麻で作られた袋を抱えながら振り向く。中には大量の木の実が入っていた。
「いや、独り言です」
「そうか?まあ、袋の中はいっぱいじゃし、帰る……え」
卑弥呼の顔が真っ青になり動かない。卑弥呼が見ている方向を谷崎は見る。
そこには小柄だが熊がいた。
(え!?この地域の熊は絶滅したはず……あ!昔だからいるのか!?)
谷崎と卑弥呼は後ずさりする。
「卑弥呼さん、これは熊に刺激を与えないで少しずつ離れますよ……」
「分かっておる……」
熊は秋に冬眠前の食べ物を求めて活発に活動する。熊に刺激を与えると危険だ。
熊は少しずつ谷崎と卑弥呼に近づいていく。
「何で近づいてくるのじゃ!」
「……もしかして、木の実のせいじゃないですか」
「……これは渡さんぞ!」
すると熊は卑弥呼が発した言葉を理解したかのように、さらに近づく。
「卑弥呼さん!魔法で何とかして下さい!」
「だから魔法は時間が掛かるのじゃ!」
「僕が時間稼ぎするので!」
卑弥呼は後ろから魔法に使う葉っぱが多くついた細い枝を束ねたものを取り出す。
「ほーれほれ、ほーれほれ…………」
卑弥呼が魔法の準備をしているやさきに熊は空気を読まずに谷崎と卑弥呼の
「やっぱり無理じゃ!」
「続けて下さい!」
谷崎はポケットからスマホを取り出す。
いつもより物凄く早くスマホを操作し、カメラを起動、そしてフラッシュオン
「うまくいけぇ!」
パシャ、パシャ、パシャ、パシャ、パシャ
熊は突然のフラッシュにより立ち止まる。
「卑弥呼さん!早く!」
「分かっておる!ほーれほれ、ほーれほれ……」
そして葉っぱが多くついた細い枝を束ねたものを上に大きく降る。
「ほーれ!」
すると熊は口を数回パクパクさせ、森に帰っていった。
「危なかったぁ……」
「ふう……有難う。谷崎の時間稼ぎのおかげじゃ」
「卑弥呼さんの魔法のおかげですよ」
卑弥呼は木の実がいっぱい入った袋を抱え直す。
「じゃ、帰るか」
「はい」
谷崎と卑弥呼は家に着き、休んでいると、
「そうだ、この木の実の中に欲しいものはないか?」
「……じゃあこれで」
谷崎は今日の木の実集めで卑弥呼と同じく木の実の素晴らしさに気づいてしまった。
その後卑弥呼の家が、木の実まみれになることになる。
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