第20話 終わらぬ配信


コメント

・フェン……! ご主人様の隣に立つために……!

・あの去り際、滅茶苦茶泣けるんだけど。ティッシュが全然足りねぇよ

・おぉ……! フェン、頑張れよ! そして、いつか強くなった姿を見せてくれ!

・まさか、ただのダンジョン攻略配信が泣ける展開になるなんて。思いもしなかった!

・フェンの再登場は当分先になっちゃうのか。ちょっと残念だな


「何と言うか、しんみりとした感じになってしまいましたね」


 コメント欄を見ていた真那がポツリと呟いた。真那自身もこんな感じで配信を終えることになるとは思っても居なかった。結果的にではあるものの、コメント欄を見る限り好評であった。


 その場の思い付きではあったものの、40層のボスをテイムしたのは良かったなと思う真那。


「さて、初めに話した通りこれで配信を終えようと思います」


コメント

・あ、忘れてた

・えっと、開始からどれぐらいだっけ? まぁまぁ時間たったと思うんだけど

・一時間です

・は?

・たったの一時間です

・短くないですか!? ちょっと待って! マリナさん早い! 早すぎます!

・もうちょっと! もうちょっとだけお願いします!

・雑談を少しでもしてください! お願いします!


 真那の言葉で今更ながら思い出した視聴者たちは慌てた様子で真那を引き留めようとする。真那はダンジョンのイレギュラーを倒してから一週間も経ってから配信を行った。理由は機材を壊してしまったから。


 ただそれだけである。面倒だったから。もう配信自体を辞めるつもりだったから。そのような理由はない。しかし、視聴者にとって話題になっているのに何故か全く配信していないのは色々と妄想を働かせるには十分すぎる材料だった。


 もう辞めてしまったのではないか。そう思ってしまった故に、配信の終わりを意地でも止めたくなってしまうのも理解できる。


「えっと。そこまで言っていただけるのは大変嬉しいのですが、わたしもシノアさんの配信を見てみたいので……」


コメント

・マリナさんヘルプ!!


 真那はコメント欄の圧に少々たじろぎつつ、何とか納得してもらえるように言葉を紡いでいた。その時、今までのものとは毛色の違うコメントを見つけた。


「……何かあったんですか…………」


 まさかまたイレギュラーが発生したのか。それともまた別の何かなのか。10年前の悲劇の原因のような何かが起きたのでは? そんな言いようのない不安を抱いく。


 しかし、その不安は杞憂だった。


コメント

・シノアちゃんの解説してください! お願いします!


「はい?」


 思わず変な声を出してしまった。訳が分からない。そう思っているとコメントで詳しく説明がなされた。


コメント

・シノアちゃんがなんか急にすごいことになってて、訳が分からないんです! だから、シノアちゃんの師匠であるマリナさんに解説をお願いできないかと思い、コメントをさせていただいた次第であります


「なる、ほど……?」


 説明はされたがいまいちピンと来ていない真那は首を傾げる。


 朱莉が化けたことはもちろん知っている。しかし、それで配信が訳の分からないことになってしまうとはどうしても思えなかった。確かに大きく変化した朱莉に戸惑うことはあるかもしれない。


 ただそれだけ。それだけで済む。そう思っていた。


コメント

・もしかして配信続く……?

・あり得るかも

・でも、解説配信をするなら許可がいるんじゃあ……


「確かに視聴者さんが言う通りですね。解説をするのであれば、まずはシノアさんの許可を取らなくては……」

『ピロロロ……』

「えっと……」


 突然鳴り響く音。真那のスマホに誰かから電話がかかってきたのだ。もう、誰からの電話か察しがついた真那はお面の下で微妙な顔を浮かべるしかなかった。


コメント

・シノアさんにマリナさんの件を伝えてきました!

・行動が早すぎる件について

・待て待て、動きが早すぎる!

・有能

・勝ったな


「行動が早すぎますよ、まったく……」


 そう呟きつつ、スマホを取り出す。予想通り、電話をかけてきたのが朱莉であることを確認する。ダンジョン攻略の途中のはずなのいいのかなぁと思いながら、電話を取った。


「はい、シ……」

『マリナさんマリナさんマリナさんマリナさんマリナさん!!』

「声でか……」


 名前を連続でしかも大きな声で呼ぶ朱莉。びっくりして肩をびくりと大きく震わせた真那は思わず、耳元からスマホを離した。


 いやホントにどうしたの? こんなに大声で話さなくても聞こえるよ? そんなことを内心で考える。もうこのまま切ってしまおうかなとすら思った。しかし、それは良くない。絶対に。


 だから、また大声で話されないかとびくびくしながらも、ゆっくりとスマホを耳元に当てた。


「えっと、シノアさん?」

『あっ、マリナさん! 昨日ぶりですね!』

「え、えぇ、そうですね。昨日ぶりですね……」


 普通の声量に戻った朱莉。真那は胸を撫で下ろした。


『それで、その……。私の配信の解説の件なんですけど、お願いしてもいいですか?』

「別に構いませんが、シノアさんこそ構わないのですか? わたしが解説配信をすること」

『実は配信をしているのはいいんですけど、視聴者さんたちには訳が分からないみたいで。ちょっとファンが離れて行きかねないような危機的状況なんです……』


 朱莉的には普段通りの配信。しかし、視聴者にとっては理解できないような。普段とは全く違う配信であったらしい。実際、朱莉は相当高レベルな戦闘やら技術やらを披露してしまっている。


 つまり今の朱莉の配信は視聴者層である初心者相当な人々にとっては理解し難いものとなっているのだ。ファンが離れて行く事態になるのも納得できた。


「はぁ……。わかりました。解説配信します」

『ありがとうございます、マリナさん!』

「わたしもあなたの配信は元々見るつもりだったので構いませんよ」


 真那は微笑みながら朱莉のお願いを受け入れた。


 自分の視聴者たちのもっと配信して欲しいという願いに沿った形で朱莉の願いも叶えられる。一石二鳥。いや、朱莉側の視聴者たちのことを考えれば、一石三鳥となる。必要なのは真那の労力だけ。


 ここまで願われている以上、逃げ出すわけにはいかない。


『じゃあ、お願いします! マリナさん!』

「はい」


 そう言って、真那は朱莉との電話を終わらせた。


 三者の願いを叶えねばという決意を胸に。


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