第16話 舞い踊る少女


コメント

・どゆこと!?

・めっちゃ無事なんですけど、どして?

・一撃で葬れるなら、安全よね。確かに

・いや、一撃て

・てか、離れてた奴も切れてんだけど

・今日のダンジョンでは狼の首が降るでしょう


 真那は空を舞った首に見向きもせず、駆ける。


「ふっ……!」


 飛び掛かって来るホワイトウルフの首を狙って刀を振るう。新たな首が空を飛ぶ。振るわれた刀から斬撃が発生し、少し離れた場所を走っていたホワイトウルフを両断した。舞い散る血しぶきを上手く回避している。


 血の一滴も服に付着することなく刀を振るい、次々とやって来るホワイトウルフと戦う。時間が経ち骸が光の粒に変換されていく。それがほんの少しだけ周囲を照らす。


「残りは……」


 30匹ほど狩った頃、続々とやって来ていたホワイトウルフたちの集団が途絶えた。未だ気配が残っている方向へ視線を向けると群れのボス。ブッラクウルフを守るように固まっていた。


『『『グルル……』』』


 視線を向けられたことに気が付いたホワイトウルフたちが低く唸り声をあげる。警戒するような視線の奥には恐れが混じっていた。


『グォォォォ!!』


 奥から鳴き声が響く。


「ブラックウルフの声?」


 ホワイトウルフたちとは少しだけ違う鳴き声。声の主が群れのボスであるブラックウルフであることは容易に想像できた。


 それが叫んだ。つまり。


コメント

・今の声ってブラックウルフ? ホワイトウルフとは少し違う気がするんだけど

・まさか

・群れのボスの叫びはヤバイ!

・うっ! ゴブリンにボコボコにされた記憶が……

・さっきの叫びって何かの命令したの?


『『『グッォォォォ!!』』』


 ホワイトウルフたちが策もなしに突っ込んできた。


「なるほど、そういうことですか」


 その突進を真那は軽やかに空へと飛びあがり、回避する。空中で身体を動かし、回転する。反転した視界の中で、わずかに伸びた滞空時間を利用してブラックウルフの所在を探す。


 無理やり従わされているホワイトウルフたち。命令を出す者が居なくなれば、その場に立っているだけで逃げ出す。ボスを狩るというのは効率的に前に進む最善の手。


「そこですか……」


 この空間の先へとつながる道に黒い影を見つける。慌てて逃げているらしく背をこちらに向けていた。


コメント

・なるほど、飛び上がったら見つけられるのか。試してみます!

・待て待て、普通は無理だから。死ぬよ? まじで

・見つけたー! という、空中で回るってどゆこと?

・まじか

・おぉー! 綺麗な空中回転!


 そっと地面に着地する。刀を鞘に納め、構えた瞬間、地面を蹴り上げた。一瞬で加速し、前に居る群れを避けるようにふわりと飛んだ。


『オォォォォ!!!!』


 ブラックウルフが気配に気が付き振り向く。しかし、その時には真那が目前まで迫っていた。


「はぁ……!!」


 刀を抜き放ち、首を刈り取った。地に降りたものの勢いを殺しきれなかったため、少しだけ地面を削り取りながら止まった。


『……ォォォ…………』


 ブラックウルフが小さく鳴き声を上げつつ、命を散らす。骸は地面へと落ちる前に光の粒へと変わっていった。着地した瞬間の姿勢からゆったりとした動きで姿勢を正す。


コメント

・いや、えー……

・めっちゃ飛んだじゃん

・目測30メーター

・30mて。そんな距離飛べるんだ……

・というかよく着地出来たな。俺なら即あの世行きだ

・みんなそうよ


 刀を右手に握りながら、視線だけを生き残っているホワイトウルフたちへと向ける。びくりと大きく体を震わせたかと思うと、我先にと真那が入ってきた道へと駆けていった。


「ふぅ……」


 あの数であれば、誰かと遭遇しても問題はない。そう思った真那は刀を収める。当たりに散らばっているドロップ品を一瞥する。


 本来、真那は自動回収スキルを持っているため、ドロップ品が地面へと落ちることはない。ステータス画面内にセットしたアイテムボックスに入っているはずだ。しかし、今回は配信をするということもあってアイテムボックスを外している。


 今までは気にしたことがなかったが、穂花に注意を受けたことで認識を改めた。


「ドロップ品は……」


 転がっているものをじっと見つめる。


コメント

・めっちゃ落ちてる。ひぃ、ふぅ、みぃ、よー……

・見えるのか!? っていうか数え方!

・見える! 見えるぞ! 沢山の何かが!

・それは見えてねぇのと一緒だ

・全部取るよね!?


「これだけ取っておきましょうか」


 特にこれと言ってめぼしいものは見当たらなかった。取り敢えず、ブラックウルフのドロップ品を手に取り、腰のアイテムボックスに放り込んだ。


 成人していないため換金できないが、持ち帰るだけならば問題ない。特殊個体のドロップ品は何かの役に立つ可能性も高いため、確保しておくに越したことはない。


コメント

・取らないの!? あんなに転がってるのに!?

・年齢的に換金できないとか? もしかしてまだ未成年?

・いや、でも、取りはするでしょ? 流石に

・マジですか!? 取りに行けばワンチャン!?

・向かったところで辿り着いた先はあの世だぞ?


「さて、次に行きましょう」


 道の先。奥を見つめる。仄かに赤い光が二つ見えた。


 その光はまた別のホワイトウルフの両目だった。群れではなく単独で行動しているはぐれ個体。群れのような危険性はない。


 真那は歩みを進めた。






 着物を着た少女が刀を片手にダンジョンで舞い踊っていた。


 その姿を彩るのは各所から吹き上げる赤い液体と空間を満たしている小さな光の粒たち。少女――真那の視線は冷たく冷ややかなもの。ただ淡々とモンスターを切り続ける。


 緩急のあるその姿は残酷で幻想的だった。


 見惚れてしまいそうになるほど。


コメント

・安心して見れるわ。ポテチパリパリ

・確かに。緑茶ごくごく

・危険がないっていいかも。水ぐびぐび

・いや、正気が彼方に行ってない? 大丈夫?

・俺ももしかしたらこんな感じに……!

・やめろ。マリナさんだからできるんであって、普通は群れに遭遇した時点であの世行きだ


「上手くやれば、危なくないですよ?」


 目に留まったコメントに返事をしつつも、動きは止めない。むしろ、徐々に加速している。それは真那のスキル【剣舞】の効果によるものもある。しかし、純粋に体が温まり、調子が上がっているからというのもあった。


コメント

・みんな! モンスターを殺戮しながら、コメントを返せるようになればできるらしいぞ! 頑張れ!!

・無理だから

・命がいくつあっても足りないです


 普通はできないのか。初めて見た時の朱莉の姿を思い出した。あれが普通であると考えれば、コメントにも納得できた。ふと、今の朱莉ならできるかもしれないと思った。


 大きく変わった。化けた朱莉なら、もしかしたら。



 そう考えると期待で胸が高鳴った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る