第15話 久々の配信
「準備はこれで大丈夫」
頭上を飛ぶドローン。右耳にかけているマイク兼仮想スクリーンを表示させるデバイス。全て穂花が選んでくれたもの。配信用の機器にはからっきしな真那では前の様に粗悪品を購入しかねないから。
最初、真那は自分で選ぶと言い張った。しかし、穂花にまた前回みたいになったらどうするの? と言われて何も言えなくなったのだ。
「さて、始めよっか」
そう呟くと、真那は目の前に表示されている仮想スクリーンを操作して配信を開始した。
コメント
・待ってました!
・待ってた
・キタァー!
・オォー!
流れるコメントの数々に圧倒され、肩をかすかに震わせた。しかし、すぐに気を取り直す。背筋をすっと伸ばし、口を開く。
「こんにちは。はじめましての方ばかりだと思うので自己紹介からさせていただきます。信濃マリナと申します。ダンジョン探索者兼配信者をしております。宜しくお願い致します」
飛んでいるドローンへ向け、軽く頭を下げた。
呼吸を整え、心を落ち着ける。慌てそうになる気持ちを抑え、今まで通りのゆったりとした親交を心掛ける。
コメント
・なんかスゴイ
・語彙力なくなった
・いいところのお嬢様ですか?
・溢れる上品な気配
・フワッ!
「では、さっそく探索していきましょう。今いるのは前回の配信で攻略した39層の一つ下である40層です」
コメント
・人気があると聞いて見に来たんですけど40層って言いました? 彼女は何を言っておられるのですか……?
・マジですか? 流石に冗談ですよね?
・イヤイヤ! 分かるけども!
・順当にいけばそうなんだけど。というか、ホントに何でここまでの子が埋もれてたの?
・前の39層のボスワンパンだったし。まぁ、納得はできる
コメント欄を見ると戸惑ってはいるものの、納得はしている様子にホッとする。そんな中で一つのコメントが目に入った。
コメント
・えっと、確認なんですけど春雨シノアさんを助けたのは信濃マリナさんであってますか?
これは確実に言及しておかなければならないこと。春雨シノアこと朱莉とその点はしっかりと配信することに決めた。発表日は二人とも配信をする予定にしていた日曜日。つまり今日だ。
「シノアさんからも言及があると思いますが、それはわたしで間違いありません」
コメント
・特定班ナイス!
・やっぱあってたんだ
・あ、今シノアちゃんもその話した
「あっ、ちょうどシノアさんも話した頃ですか。というか、配信時間は一緒なんですね。少し動向を見てみたかったのですが……」
朱莉も同じ時間に配信していることを知って仮面の下で少し悩ましげな表情を浮かべる。どうにかして様子を見たいという気持ちがあった。
しかし、真那も配信している途中だ。何もせずに配信を終わらせてしまう訳にはいかない。
だから。
「シノアさんの配信を見てみたいので、手早く40層を攻略してしまいましょう」
コメント
・おい、教えた奴戦犯な
・あぁ! やっちまった!
・手早く攻略? どゆこと?
・何言ってんすかマリナさん?
・あれ? そんな簡単な話だっけ?
40層の攻略を急いで行うことにした。そう宣言するとコメント欄は大騒ぎ。配信が早く終わることを嘆く声。丸々一層の攻略を簡単にできることのように言う姿を見て頭が混乱している声もあった。
本来、何日。場合によっては数か月も賭けて攻略する。一度は攻略しており、ダンジョン自体も完全攻略。レベルもカンスト一歩手前まで来ている真那にとってはさして苦労するようなことではない。
ただそれを知らない側からしてみれば、何を言ってるのか。頭は大丈夫なのか。そう思えてしまうようなことだった。
「それにしても……」
コメント
・なんかおかしくね?
・静かですねぇ
・怖い
「モンスターが全然来ませんね。この層なら、確か狼系のモンスターが出没するはずなんですが……」
モンスターの気配がないことを不審に思い、辺りを見回す。やはり静かだった。何処に行ったのかと首を傾げていると微かに鳴き声が耳に届く。
声が聞こえてくる方向へと足を進める。足音や気配を消して、ゆっくりと近づいていく。曲がり角で一旦立ち止まり、そっと覗き見る。
『『『グルル……』』』
「居ましたね」
静かに呟いた。視線の先には群れを成している大型犬ほどの大きさをしているホワイトウルフの集団があった。大きく広がったその場所には所狭しとホワイトウルフたちが居る。その総数はおよそ50匹。
そして、その中心には色の違う個体の姿が見える。真那が目を細める。
「あれは……レアモンスターのブラックウルフですね。まさか群れのボスになっているとは。かなり長い間生きている個体かもしれませんね」
こんな話は聞いたことがなかった。だから、特殊個体だと断定する。危険レベルを一つだけ上げる。
コメント
・群れになってるならかなり危ない気がするんだけど……
・えっとマリナさん危ないですよー
・戦う気満々ですね。はい
・ブラックウルフってかなり強い気が……
・流石に逃げるよね?
「これぐらいなら別に問題なさそうですね」
このレベル帯のモンスターたちならば、特殊個体であったとしても問題はない。そう断定した真那は腰の刀にそっと手を伸ばす。鞘を左手で握り、柄に右手を添える。体を屈めて、走り出す準備をする。
そして、目を閉じ気配を探る。一瞬の隙を狙う。
そして、地面を蹴った。
コメント
・モンスターに向かって飛び出したー!
・マジで逃げて!
・それは超やばい奴だから!
・信濃マリナは今日で終わりか……
・いやいや、なんで飛び込むの!?
群れに向けて駆ける真那は絶望したようなコメントを一瞥する。しかし、全く答えた様子もなく無視した。加速度的に増えていくコメント。その内容のほとんどが逃げるように言うコメントだった。
『ウォォォン!!』
真那が群れのすぐ傍まで迫っていることに気が付いた一匹が声高らかに叫んだ。その瞬間、群れの視線が全て真那に向けらる。その視線には格好の獲物が飛び込んできたという嬉々とした感情が含まれていた。
真那の命の終わりを幻視して配信を見るのが耐えられなくなった一部の視聴者が離れていく。当然と言えば当然の反応だ。
『グォォ!!』
叫んだホワイトウルフが我先にと真那に向け飛び掛かって来る。口を開けて、牙が迫り来る。
「シッ…………!」
そして、それが自分の距離に入った瞬間、真那が刀を抜き放った。
コメント
・えっ?
・えっ?
・はっ?
ホワイトウルフの首が空を舞った。それも一つではなく三つ。刀が届く距離になかった個体の首も空を舞っていた。
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