第12話 自分勝手で魅力的な提案
それでいつもはどんな料理をしているの?
そんなことを聞きたいと思ってしまった。しかし、意地悪な質問だ。どう考えても料理関係。特に包丁を使ってする料理に関しては触れるべきではない。深入りしないでおこう。そう思い、真那は口を噤んだ。
「そうだ。篠原さんってスキル関係の知識はどれぐらいある?」
話題を変えるため、今までの話とは全く関係のない質問を投げかけた。
「お恥ずかしい話、本格的に調べ出したのは最近になってからなのであんまりないです。すみません」
朱莉は申し訳なさそうな表情を浮かべつつ、頭を下げる。知識不足であることだけでなく、かなり迷惑を掛けてしまったことへの申し訳なさでいっぱいいっぱいだった。思わず、過剰なまでに落ち込んでしまう程度には。
「そんなに謝らなくていいから。気にしないで」
「うっ、すみません」
朱莉が頭を下げる姿を見て一瞬呆気にとられる真那。慌てて別に気にしなくてもいいと言いつつ、頭を下げている朱莉の肩にそっと触れて、起こす。
「えっと、因みになんだけど、何で調べてるの? 本とか?」
「ネットです」
「あー。ネットって情報少ないかった気がするんだけど、どうなの?」
以前、ネットで調べた時のことを思い出して苦い顔を浮かべた。朱莉に最近の状況を確認する。真那が調べてみた時は何処を見ても同じことしか書かれていない上に情報自体がかなり少なくて参考にならなかった。
今では少し改善されているのかなと思ったのだが。
「ギルドが公開してくれているのでかなり多いと思いますよ?」
「そう言えば、そうだった」
自分も手伝いに入ってギルドでスキルをまとめたことを完全に忘れていた。
ギルド公開スキル一覧には真那もしっかりと関わっている。掲載スキルの確認をしたり、意見を聞かれたり。完成はしたことは聞いているものの、それからどうなっているのかは全く聞かされていないため頭から抜け落ちていた。
うわ、自分も関わったことなのに忘れているとか恥ずかしすぎる。そう思い、真那はサッと顔を別の方向に向けてしまった。
「まぁ、ちょっと調べ辛かったですけどね。あはは……」
「そっか……」
そっぽを向いていた真那に思わぬ方向から心へ小さな攻撃が放たれた。ショックを受け、複雑な表情を浮かべる。先程まで完全に忘れていたこことは言え、苦労してまとめたものがあまり良くなかったと面と向かって言われるとかなり辛かった。
そこでふと思い出した。確か公開しているスキルの中には【魔道】もあったはずだと。
「あれ? だったら、魔道スキルの情報もそこに乗っていたんじゃあ……」
「えっ、そうなんですか? 魔術系スキルの中にはなかった気がしたんですけど」
「いや、そんなはずは……。でも……」
朱莉の話を聞いた真那は耳を澄ませてようやく聞き取れる程度の声量でブツブツと呟きながら、当時のことを思い出している。朱莉は何故そんな様子になっているのか訳が分からず、首を傾げながら見ていた。
真那の記憶上、【魔道】を追加することで話がまとまっていた。いくら記憶を辿ってみても削除するなんて話は全くしていない。ならば何故こんなことになっているのだろうか?
ただ朱莉が見逃してしまっただけか? それともどこかで抜け落ちてしまっていたのか?
「九条さん?」
「あ、ごめん。少し考え事してて」
「いえ」
朱莉に声を掛けられ、正気に戻った真那。今は置いておくことにして、帰ってから調べることにした。
「あー、そのー」
真那が口を開くもうまくしゃべれていない。何かを言おうとしているが言い出し辛いという感じである。
「一つ有用なスキルがあるんだけど、習得する?」
「します!」
正直に言って、本当にサイトに抜け落ちている部分や誤りがあったとしても真那に非はない。サイトへの入力や確認作業に関しては関わっていないのだから。しかし、不安は抱いてしまうわけで、どこかで何か言い訳できるものが欲しかった。
考えた末、ある特殊なスキルを教えるという結論に至る。
結果的とは言え、朱莉にも理がある。ただ動機はわたしの精神的な負担軽減のためにも習得すると言って! と少々自分勝手なものだ。朱莉にとっては本当に魅力的なお誘いなので乗らないはずもなく、即答する。
「それでどんなスキル何ですか!?」
興奮気味に真那へと詰め寄る。
「えっと、魔力操作っていうスキルなんだけど……。知ってる?」
圧の凄さに思わず後退った。そこまで興奮することなのかなと思う真那。
「魔力操作ってレアスキルじゃないですか!? そんなもの私に習得できるわけがないですよ!?」
「ランクを上げるとなると難しくなるけど、習得だけならそこまで難しくないよ?」
「ホントですか……? 九条さん基準では難しくないっていうことではないですよね?」
スキル名を聞いた朱莉が後ろへ飛ぶように下がる。真那へと向けるのは恐ろしいものでも見るような視線だった。
つい先ほど、投げ入れられたのは朱莉にとって地獄。また、そんな目に合わされるのかと身構えてしまった。真那にとって難しくない。それは普通の人にとって不可能なこと。今の朱莉はそのような認識を持っていた。
「わたしを何だと思っているの? まぁ、それは置いておくとして……。魔力操作を習得する方法はただ体内の魔力を動かせるようになるだけ。モンスターと戦わなくても習得できる」
「嘘じゃない?」
「嘘じゃない」
少しは信用したのか警戒心を緩めつつも、再度聞いてきた。その問いに真那を肯定で返した。
「うーん……。じゃあ、やります……」
「そう言うなら、もう少し警戒心を解いて欲しいんだけど」
「無理です」
拒否されてしまった。
「そう……」
肩を落とす。そこまで警戒されると少し心に来るものがあった。しかし、真那の行動が原因だ。自覚があるため、あれこれ言うことはできない。
「コホン」
気を取り直すように咳払いをする。真那の目つきが変わる。先程までのほんのりと温かい雰囲気から温かくも冷たい独特な雰囲気へと変化する。
「あっ…………」
声が漏れる。その姿に朱莉の心臓はドクンと大きく跳ねた。ほんのりと頬が赤く染まった。
「じゃあ、取り敢えず魔力操作がどんなものか実際に見せてあげる」
腰に差している刀に手を添えた真那は仄かな笑みを浮かべた。
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