第5話 おかしな結論



 ある時、世界中で発生したダンジョン。場所によっては20層までしかないなどの違いは存在しているが、基本的な構造や発生するモンスターは同じ。1~10層を上層。11~30層を中層。31~60層を下層。それ以降を深層と呼称されている。


 現在、人類が踏破できている層は60層。61層の攻略も計画されていたが、先行偵察隊の全滅や戦力の大幅な減少に寄って断念された。深層は人類にとって未踏の場所である。


 本来は。



――ダンジョン100層――


 ダンジョンの最奥であるその場所は地獄といって差し支えないようなところである。四方八方から際限なく現れるモンスターたち。それぞれの強さも99層のボスとそん色ないレベル。


 前の層で苦労して倒したはずのボスと同じ強さのモンスターが雑魚として無限に湧いてくるのだから絶望を具現化したような場所といってもいいだろう。


「……」


 そんな場所で真那は傷一つ追うことなくモンスターと戦っていた。公式上の踏破記録である60層は真那の記録が秘匿されているからのものであり、本来の踏破記録は100層である。


 真那がダンジョンの100層を踏破したというのは現在秘匿されてしまっているため、未だに記録が塗り替えられていないという形になっている。


 秘匿理由はいくつかあり、真那の身分が未だ学生であるため。その異常な強さが危険視されないようにするため。などとなっている。ただし、これは秘密書類で残されている秘匿理由で、実は別の理由もある。


 その理由はギルドマスターが真那を守りたかったからである。ギルドマスターと真那の実の両親と旧知の仲であった。幼少期の真那とも幾度か会っており、現在も実の孫のように可愛がっているのだ。もちろん正式な理由自体も誰もが納得できるものではあるため、全く問題はない。


「ふっ……!」


 刀が振るいモンスターの首を狩る。そして、血が降りかかる前にその場から移動し、また新たな獲物を狩る。ほぼ休みなく動き続け、迫りくるモンスターを切っていく。周囲はモンスターの遺体が消える瞬間に生み出される光の粒で満たされている。


 無数の光の粒で満たされた空間を黒い着物を纏った黒髪の少女が舞う。そんな幻想的な空間が100層という地獄に広がっていた。


 そうして進み続けること一時間弱。100層の最奥、ボス部屋へと繋がる直線の一本道に到着した頃。


「あっ……」


 ふと何かに気が付いた真那は思わず声を上げた。刀を振るう速度が。移動する速度が微妙に変化する。細かな変化でペースが狂わされる。真那は一瞬苦々しげな顔を浮かべた。しかし、次の瞬間には表情を元に戻していた。


 そして。


 そっと目を閉じ、口を開く。


「火よ、風よ」


 始めの詠唱式が唱えられたと同時に刀が炎を纏う。次の詠唱式で風が巻き起こり、火と交わる。急速に温度を上げ、赤い色の炎が白く変化する。その言葉を発する一瞬の間でも動きを止めることはなく、刀を振るい続けていた。目ではなく気配だけで獲物を認識している。


 近くに居たモンスターたちは焼かれて灰となる。少し離れた場所に居たモンスターたちも身の危険を感じ、慌てて逃げていく。


 真那は逃げていくモンスターたちを追うことなく、その場で刀をそっと構えた。


 そして、次の瞬間。


「はぁぁぁぁ!!」


 その掛け声とともに刀を振り、白い炎を纏った斬撃が放たれた。最奥の扉へと一直線に進む斬撃は直線上のモンスターを焼き切り、周囲のモンスターを消し飛ばす。


 しかし、それはボス部屋の扉をも切り裂くことはできず、接触すると同時に急速に威力や熱量を失って消失してしまった。


「流石に切れなかったか」


 もしかしたら切れるかもという淡い期待を裏切られた真那は肩を落とす。ダンジョン内で一番の頑丈さを誇っている100層。高い物理耐性、魔法耐性はそれをより確固たるものとしている。壁や床だけでなく、ボス部屋へと繋がる扉も当然誰の手にも破壊は不可能だと思われるほどの頑丈さだった。


 それだけ強力なモンスターたちが闊歩しているからというのが一番の理由だと容易に想像できる。また、戦闘が発生すれば相当な負荷が発生するから。などなど、頑丈な理由はすぐに想像できてしまう。


 ダンジョンは誰が作ったのか分からないため、本当の意図に関しては誰にも分からないが。


「……。はぁ、やっぱり」


 周囲にモンスターが居ないことを確認した真那はステータス画面を開く。確認するとレベルが一つだけ上がっていた。


 戦闘中に感じた違和感。それの正体がレベルの上昇だと真那も何となく察していた。レベルが上がること自体は喜ばしいことだ。100層での戦闘もレベルを上げるためなのだから。


 しかし、そのレベルが上がったことで戦闘のペースが乱れてしまったこと。それが悔しくてたまらなかった。多少の乱れは良しとするにしても、完全に乱れてしまったのは改善すべき点だった。


「その辺の調整はしっかりしないとね」


 レベルが上がったらペースを乱すというのは危険だ。単独で攻略している真那にとっては命取り。どうに改善しなければ、より先に進んでいくのは難しくなってしまうだろう。


「まぁ、それは今度考えるとして。今は篠原さんの件どうするかを考えないと……」


 真那が今一番考えねばならないのは朱莉の件だ。朱莉も配信動画は見ているはず。真那が嘘をついたことはもう気が付かれていると考えていい。


 だから、これからどう対応するのかそれをしっかりと考えねばならなかった。




 そうして、ダンジョンからの帰り道で色々と考えた結果、どうしてそうなったと言わんばかりの結論に至ることとなるのだった。

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