第4話 電池切れの訳
カーテンの隙間から差し込む日の光。
ベッドの上で眠り二人の少女を優しく照らしていた。
「んっ……」
そのうちの一人――真那がそっと目を開いた。眩しそうに目を細めながら、日の光を左手で遮る。隣へ視線を向けると気持ちよさそうに眠る少女の姿がある。真那の幼馴染であり、義理の妹でもある宮澤穂花だ。
「おはよう、穂花」
穂花を起こさないようゆっくりと起き上がった真那は彼女の頭を優しく撫でた。気持ちよさそうにすり寄ってくる穂花を見て笑みが零れる。触り心地の良い髪の感触を楽しみながら、優しく撫で続けた。
それから少し時間が経ち、真那はベッドから出た。時間を確認するため机の上に置いてあったスマホに触れる。しかし、何の反応も帰ってこなかった。電源を付けようとすると。
「あれ、電源が切れてる」
バッテリー切れを示す表示が返って来た。
「昨日の夜はいっぱいだったはずなのに。もしかして、寿命?」
たった一晩でなぜバッテリーを完全に消耗してしまうのか。理由に見当がつかなず、首を傾げた。単純にバッテリーを一杯にしたと勘違いしていたのかなと思いつつ、コードを引っ張り出して充電を開始する。
「んー、何かあったのかな?」
ただ充電をし忘れていただけなら問題はない。しかし、何かあったのならば早めに知りたい。バッテリーの寿命なら交換へ行く。調子が悪くなっているのならば修理に出す。
何にせよ今はその原因を知るすべは存在しないため、スマホがある程度充電されるまで待つほかなかった。
取り敢えず、今は放置するしかないかと諦め、部屋から出てリビングへと向かう。
「あ、おはようございます、奏汰さん」
「おはよう、真那ちゃん」
リビングに入ろうとすると中から穂花の父である奏汰が出てきた。少々驚きつつも、挨拶をする。奏汰もそれに対し優しく返した。
「穂花はいつも通りまだ眠ってるのかな?」
「はい、それはそれは気持ちよさそうに」
「そうか。まぁ、いつも通りご飯を食べる時間になったら起きて来るだろう」
奏汰は真那から娘の様子を聞いて、若干苦笑を浮かべた。穂花は真那が居るから朝もしっかりと自分で起きられている。彼女の存在がなければ、毎晩決まった時間に寝ることもなく、夜更かするなど生活習慣を乱していた可能性は高い。
今の様子を考えればそのことが容易に想像できた奏汰は真那の存在に心から感謝しつつも、それで大丈夫なのか愛娘よと思わざるを得なかった。
「僕は新聞を取って来るから先に行っててくれ」
「はい」
真那は新聞を取りに玄関へ向かった奏汰と入れ替わるようにリビングへ入った。キッチンで朝ごはんの用意を進めている穂花の母である奈緒美の姿が視線に入る。
「おはようございます、奈緒美さん。わたしも手伝いますよ」
「おはよう、真那ちゃん。ありがとうね」
キッチンへと向かった真那は奈緒美を手伝い始める。
食事までのいつもの一幕。奈緒美と真那が一緒に朝食を作り、奏汰は新聞を読む。穂花は部屋で熟睡している。宮澤家の様子に入ってすぐは真那も関係に悩むことも多々あった。
以前から家族ぐるみの交流があったとしても一緒に住むとなれば話は変わるため、当然の悩みだった。結果的にそれは時間が解決してくれた。
亡くなった実の両親のこともあるため、流石に呼び方は養子に入る前と一緒だが、しっかりと良好な家族関係が構築されている。
「これでよしと」
「じゃあ、できたものを持っててね」
「はい」
真那がお皿を運び、テーブルの上に並べていると。
「真那真那真那真那!!」
穂花がリビングに飛び込んできた。リビングで過ごしていた三人はぎょっとする。何事かと思いつつ、真那が穂花に問いかける。
「ど、どうしたの?」
「これを見て!」
真那の目の前に差し出されたスマホ。その画面には何かのニュース記事が表示されていた。訳が分からず穂花へ視線を向けるが、早く読めと目で訴えてきているため、何も言えなかった。渋々、記事を読んでみる。
「えっと、イレギュラーで発生した下層のモンスターを一撃で討伐した探索者についてって…………。これまさか……」
「絶対に真那のことでしょ!?」
「確かにわたしは下層のモンスターを倒したけど、あれは誰も……」
誰も言うはずがない。そう言おうとした。しかし、何か引っかかる。助けた朱莉は絶対に言わないと断言できる。その辺りはしっかりと本人に確認したうえで言うような人間だと確信を持って言えるのだから。
だが、ならば何故このように大ごとになっているのだろうか? まさか、わたしが気が付かなかっただけであの場には誰かが居た?
「他にも居た訳じゃないわよね?」
「そんなはずがないのは真那の方がよく分かっているでしょ?」
「そうね、なら何で……」
他にも同じようなモンスターが発生するはずがないことは真那も当然分かっている。イレギュラーとはそう言う物だし、気配をしっかりと調べて確認もした。そして、一瞬過った他の誰かが居た可能性も捨てた。
そんな強者が居るはずもないことは真那が一番知っているから。
なら、あの光景をどうやって。誰が知ったのか。そこが全く分からない。思考がループしかけた頃、穂花が答えをくれた。
「配信されてたの。ほらこれ見て」
「配信って一体……」
真那の手からスマホを取り、画面を切り替えた。そして、再び真那へと渡す。再生ボタンを押すと表示誰ていた動画が再生され始める。
「実は真那が助けた篠原さんは有名な配信者なの。真那は知らなかったと思うけど。それで、真那はカメラが壊れてたと思ってたけどまだ壊れていなかったらしくて」
見せられたのは真那が朱莉を助けた時の動画。壊れかけではあったらしく、色彩もどこかおかしく映像は荒い。マイクもなかったため、音声のない無音の動画。だが、その場で何があったのかを知るには十分すぎる内容だった。
映像の荒さに救われる形で顔は判別できない。しかし、和服で行動しているのは誰の目にも見える状態。強さからも真那が行っている配信にはすぐに辿り着ける可能性が高い。
「まさか、スマホの電源が切れてたのは……」
一つの結論に思い至った、真那はスマホを穂花へと返し部屋へと急いで向かう。部屋へと付いた真那はスマホの電源を入れる。
「早く……」
着くまでのほんの少しの時間がもどかしい。そして。
「よし。これで」
電源を付けると、一気に大量の通知音が鳴る。
「何これ」
あまりの事態に茫然とする真那だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます