第17話
放課後になり、続々と生徒がクラスから出ていく。
アルモックとヌンソンはそんな彼女たちと挨拶を交わしながら、昨日一緒にヌンソン宅で準備していた。資料を用意する。
そして、用意をし終わると同時に、ラムHR講師、パラム教育実習生、アルモック、ヌンソンだけとなり・・・
「この時をお待ちしてましたよ、お嬢さんたち」
突然、パラム教育実習生の声音が変わる。
「え、何なんですか?」
アルモックが急な変化に身構える。
「ラム講師、パラム教育実習生さん。なんか変ですよ?」
ヌンソンは、ラム講師に対して、なんでパラム教育実習生がこんなことを言い出すのか問う。
「すぐに分かるわ」
しかし、雰囲気に意識が朦朧としながら言葉を返していることがすぐに理解できた。
「ちょ! ラム講師に何したの!!」
アルモックはラム講師の様子から、後ろにいるパラム教育実習生が何かした、と判断し、後ろを向いて問い詰める。
「いいのですか、そんな態度で? ミス・ラムに何かあったと判断したなら、もっと最悪を予測しなくては」
その言葉を聞いた瞬間、ヌンソンが「ピンキー!!!!!」と叫びながらすでにカードを取り出していた。
『スリープモード解除・・・っ風を彩ったカードと怪盗を彩ったカードを出して!!!』
その言葉にヌンソンは、いつもなら探すのが手間取るカードを一瞬で見つけ出し、2枚とも見つめる。
『他機AIに侵入・・・酸素正常値に戻します』
アルモック、ヌンソンの頭で今まで聞いたこともないピンキーのワードを聞き取る。その間、アルモックはラム講師に視線を移しており、目の前でラム講師が突然倒れる姿を見た。
「ほう、能力が多岐に使用できるからか、普段使わないものはコードカードに封印して、能力を分散しているのか」
パラム教育実習生はまるで、AIについて詳しいような素振りを見せてその反応を楽しむ。
アルモックはラム講師のそばにおり、状態を確認する。
「グローバー、状況を手短に」
『スリープモード解除・・・目の前の女性はピンキーが、泥棒を彩った「侵入」のカードでAIに侵入し、風を彩った「呼吸」のカードで酸素をもとに戻して、助けているから問題ない。それよりもあの男、「カブキ」だ』
二人はその言葉を聞いて、目を大きく見開いてただただ驚く。
「流石に気づくのが遅すぎますね」
そう言うと、パラム教育実習生(カブキ)は包丁を持っている。
「人を呼んでくる! 信じてるアル!!」
そういって、席の位置が出口と一番近いムーンが駆け出す。
「させるか!」
しかし、ムーンに一番近い位置もまた、カブキであり、追いかけ刺し殺そうとする。
「そんなことさせない!!!!」
アルは、渾身の力で椅子を投げ飛ばしていた。
それが、パラム教育実習生(カブキ)の頭に激突し、怯む。
(ち、この人間、運動能力は低いのか!!!)
もろに頭に受けたことで体制を崩すが、これらを通常の人間の速さではありえない速度で体制を整えるためにカブキが乗り移ったAIで身体を操り、解決する。
その間に、ムーンは教室の外に出ていた。
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『ムーン、生徒や講師に状況を説明して、協力体制を引いてもアルを守れる確率はありません』
ピンキーが残酷な計算結果を出した。確かにここから職員室までの階段の道のりを自分の能力に、仮に火事場の馬鹿力が出て、ものすごく速くなっても間に合わないのは理解していた。
ちなみに今ピンキーが話せているのは同じ人が二人いるカードを見たため。「複製」と呼ばれるカードらしい。
『彼のAIには侵入しても、負けたときに私達が支配される可能性がある、もさっき計算結果で教えてもらってるし、あと考えられるのは・・・』
現在、走りながらトイレに向かっている。
結果、最善の手は武器を取り、二人で戦う、というものだ。
『また、二機が一機のAIに侵入するとAIそのものが壊れてしまいます。私達は複製できますが、彼のAIがなんのために入っていたかわかりません。・・・場合によっては命を落としてしまうかも』
4者の「死」だけは絶対に避けたい。そう考えるムーン。すでに彼女は一番近いトイレに到着し、モップを分解している。
『せめて、彼をメタバースの世界に押し込められれば・・・』
その言葉を聞いた瞬間、ムーンはある方法をひらめく。
『ねえ、あなたの「希望」の力とグローバーの「勇気」の力ってどこまでできそう?』
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「おりゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「ぐへぇ」
アルとカブキは死闘を・・・正確にはアルのほうがやや有利で戦いは進んでいた。
『次は、物が投げられたのを躱しているカードを見て!』
アルが攻撃して怯んだカブキの合間に身体を、AIを使って強化する作戦だ。
現在、最初に使用した「P」の文字が書かれた薬瓶のカードを使用している。グローバーに言わせると、「ドーピング」のカードらしい。聞いた瞬間、「寿命縮めないよね?」と疑問に思ったことを即座にグローバーは認識し、それに対して『余分に作られていたホルモン等はアルのAIでは貯蔵できるように作られていたようで、それを利用して、筋肉を作るアクチンとミオシン、サテライト細胞を解放して筋力を増強させている』ということを脳の潜在意識に強制的に叩き込んで、それを「一切害のないこと(実際、臓器にダメージを与えてないのでそうなのだが)」と脳を理解させて使わせた。
それのおかげで、カブキが動き出したときに机を投げつけることに成功し、それもかなりの威力で、且つ、机が壊れない程度に調整しながら投げつけることに成功し、カブキを倒れ込ませることに成功していた。
「陸上とかでは、絶対に使わないからね、こんなの!」
なんだか、アスリートのプライドを傷つけられてるような気持ちで物が投げられたのを躱しているカードを見つけて見る。
『反射神経強化』
それと同時に、大きなダメージを負い、上手く起き上がれないカブキ。それでも武器をフル活用する意識はあり、包丁を投げ飛ばし、怪我を負わせようとした。しかし、それらの動作がスローモーションのように見え、アルは包丁をあっさり躱したのである。カブキは驚いていたが、カブキはすでに新しい包丁を持っていた。
『この能力に関してのメカニズムはロストテクノロジー化してますね』
グローバーはカードの説明について、この世界では判明されてないことなのでできない、とした。・・・ボールが投げられたらとっさに躱す『反射』って正確には判明してないんだっけ、と頭の中がいつもより高速で回っている感じがするためか、頭で普段考えないことが勝手に浮かび上がる。こういった状態や情報は、もう全部受け入れてしまえ、ということでグローバーの指示とカブキの次の動作に向けて、チョークを持ちながら構える。
チョークを持ちながら?
「げっ、近くに物無かった!」
電子パネルは出し入れで行っており、授業が終わると電子パネルは片付けられる。そのため、いまはたまたま黒板が用意されており、普段あまり使わないちょっと長いチョークが一番手短だったため、手に持って構えてしまった。
直感の判断で一気に形勢が変わってしまった。
「ははは、そんなものでなにかできるわけ無いだろう!」
すでにダメージを回復して、起き上がったカブキは足を速め、進めてくる。
「あああ、もう無理だ!」
絶体絶命で諦めかけたその時だった。
突然、アルとラム講師が一番近い扉が力強く開き、
「はああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
モップの持ち手を棒のように持って先を前方に向けたムーンがカブキに突撃してきた。
「何!!」
そのあまりの突進に一切の防御態勢を取れなかったカブキは脇腹に思いっきり棒の先が当たる。
「ふっ、やあ!」
当たったのを確認し、ムーンは少し持ち手を引いて再び、今度は明らかな武道の構えで二突きを行い、脇腹の位置に正確に打つ。
「がはぁ」
その衝撃でパラム教育実習生の身体は少し浮く。それを見過ごさなかったムーンは棒を少し引き、左手が前だったのを引いた際に自分の側にできた余りの持ち手の方へ持ち直し、右手前、左手を後ろに変えた状態で、そして・・・
「アルの身体は、陸上界未来の重要な宝なの!!!」
まるで剣のように振り上げるように、一気に降ろし、それがパラム教育実習生の頚椎に命中する。
「な、何だこの力」
捨てセリフを吐いて、カブキはそのまま地面に顔面から叩きつけられる。
この瞬間、しばらく動けなくなるのをモップの持ち手の先をパラム教育実習生の顔に向けながら確認する。
「ぐ、ぐぐぐ」
息はあるが、動けそうにないのを確信し、アルの元に駆け寄る。
「アル、大丈夫!」
ムーンの言葉に、
「うん、怖かったよーーー」
涙を流しながら返す。
『複製、侵入、ワープ、のカードを使ってください』
ピンキーが二人に使用カードを命令する。
アルはカードの絵柄を聞かずにそれがどれかを理解し、それを見つめる。ムーンはすでに準備していた三枚のカードを見つめる。
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