第16話
「私が教育指導係のラム・アジャです。普段はエリートクラスのHR担当と国語を教えています。よろしくお願いします」
さっき目をハートマークしていたアルモックとヌンソンのHR担当講師がまさかのパラム教育実習生のHR担当講師になった。ラムは顔を赤らめながら自己紹介をしており、完全に公務そっちのけの惚気状態である。
「はい、よろしくお願いします。未熟者ですので厳しく指導をお願いします」
なお、パラム教育実習生は自然体である。それがまた彼女の心をときめかしている。
「わたしなんかはそんなあなたみたいに高尚な意識を持ってやってなかった、というか私もちゃんと学ぼう、って考えさせられてますわ。わたしこそ色々教育学のこと教えて下さいね」
実際のところ、大戦が過ぎて教育学は廃れたことがあり、現在やっと復活した、という事情もある。そのため多くの講師は専門の知識を教える、といった行為や残った文献から対応していくしかないところもあった。
その中で、純粋な教育学を専門にしている人材は貴重でもある。
「いえいえ、そんな。大層なことを言いますが、素人ですので」
謙遜するパラム教育実習生にすっかり心を持ってかれているラムであった。
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(不思議なものだ、内部に埋め込まれているわけではないが、こいつにもAIがある)
パラム教育実習生は、ラムと会話をしながら脳内には入っていないが、首につけたネックレス、手についている指輪からAIを感知し、それが脳内をサポートしていることに気づいた。
パラム教育実習生の本物は現在カブキがAIに侵入して、支配している状態である。なので、いままでの挨拶も全てカブキがパラム教育実習生の普段の様子をディープラーニングして発言してるに過ぎない。
パラム教育実習生のAIへ侵入に成功した時、今までの彼の情報を知って驚く。
彼がこれから体験する教育実習を行う舞台ベローナ学園以外は全く自分たちの世界と同じだからだ。そして、ベローナ学園はまるで、そこだけ鳥かごのように要塞が作られ、閉じ込められているような状態だ。また、カブキの本来いる世界をパラムは何も知らないことも知った。こいつらは、明らかに別の世界の住人なのだ。
「そう思ったら、ネックレスと指輪をつけているなんて結構自由な学風なんですね」
何気ない会話から情報を聞き出すことに務める。パラム教育実習生の情報があるとはいえ、ここがダブル・アイの世界である、というのは「秩序」の力が「どこから来たのか?」を考えたときに発動したので、理解していた。確かに謎の多い世界だが、あの二人と戦うことが目的であり、今回は疑問を解決することが目的でない。ただ敵の世界も理解し、より良い情報を得るべきだ、と判断した。
「え・・・ありがとう。これは人によるんだけど必ず学園内でつけるように言われているの」
・・・AIを認識していない? パラム教育実習生については脳内にAIが入っていたが、こいつもそれを認識していなかった。
つまり、AIを扱うことができないどころかAIを認識しておらず、場合によっては操られているではないか。
彼はこれを好機とみた。この世界でダブル・アイだけがAIを認識し、使用しているからだ。そうであるなら、確実に発見できる。
「なるほど、つまり・・・これが本来どういった影響をあなたに与えているかわからない、ということですね」
「えっ」
ラムはその意味深な言葉を発したパラム教育実習生に聞こうとしたときにはすでに遅く・・・彼女もまたカブキの支配下におかれた。
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最初にベローナ学園にいる生徒から講師まで、全員が集まり講堂に入ったのはカブキにとって幸運のことだった。これにより何人AIをつけているかがわかったからだ。
そこから、今あやつり人形と化したラムからAIがどのように扱われているか、そして、どのように装着されているかも把握した。
少なくともダブル・アイは講師ではない。ミーティングのときにAIを持っているもの全員が使用者に認識されない状態で動いていたからだ。
となれば生徒だ。今はラムの授業のやり方を見学しているふりをして全クラスを観察すれば必ずダブル・アイがいる。もしいないなら、学園都市の要塞から出ればいいだけだ。
そうおもいながら、授業を見学しながらさらに色々なことがわかる。なるほど、どの人間も自分のAIよりははるかに劣るAIを使っていた。
「プロフェッサー・ラム、なんだか今日調子悪いんですか?」
普段とは様子がおかしいラム講師。生徒から心配される発言までされる。
現在、カブキがラム講師のAIを駆使して彼女を乗っ取っている。しかし、ラム講師のAIはパラム教育実習生よりも劣っているのか、彼女をそのまま再現しきれないのである。たまに、実習のため私がやる、という形で交代しながら操りきれないところを補っていた。
なお、パラム教育実習生はAIだけでなく、脳みそも他の人に比べてなかなか優秀だった。AIがサポートしきれなくても、彼の頭の中には多くの知識がある。それを会話と会話でつなぐものを見つけさえしまえばあっさり授業を再現できてしまう。
生徒たちも新しい知識を得られて喜んでいる。カブキは、「ふん、単純なやつだ」と人間をバカにしていた。
しかし、一向に他より秀でたAIを使っている生徒は現れない。AIを所持している生徒は見かけるのだが。カブキはイライラしつつも、地道に見つけてこそだ、と粘り強くパラム教育実習生とラム講師を装い続けた。
「次が、私がHR担当講師をしているクラスです」
ラムから報告を受け取る。どうやら次は国語の授業でなく、HR会議を行うらしい。時間を確認したらいつの間にかすべての授業を終えていた。人間というのはよく働くものだ、とカブキは考える。
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アルモックとヌンソンのクラスにラムとパラム教育実習生(カブキ)が入る。パラム教育実習生(カブキ)は教室の後ろに椅子を作り、メモを用意して、HRの様子をうかがう。
近代になると、HR制度はなくなり、残っていたのが核融合の国日本だけだった、とパラムの脳内の情報をAIによって伝わる。しかし、大戦が終わり、まともな教育機関として唯一誕生したベローナ学園では能力でクラス分けをしている都合上、それぞれのクラスに適した「管理者」が必要になり、HR制度が導入されている。
クラス分けは、それぞれの能力で培われる社会的な組織の役割を理解させることに貢献し、よりよい世界を気づくのに役立つそうだ。
カブキにとってはそんなめんどくさい事などせず、一人ひとりが圧倒的な力を持って、競争しあい、敗者を奴隷のように扱うほうが早く進展すると考えているが。
様子を見ると、ただ明日の予定や今後の予定などを話してばかりで今までの学問的な側面より明らかに意味のないことが多い。しかし、ここで驚いたのが
(なるほど、表情や雰囲気をAIが検知している。そのためにあの指輪とブレスレットがあるのか)
ここではじめて、ラムのAIが自分の拘束内容以外で動いていることが確認された。何か、不穏な状況が確認されたときにAIがラムをその不穏を解消するための行動を自然と行わせるために働いていた。この世界はやはり私達の世界と比べて面白い点が多い。そんなことに感心していると・・・
(2機、異様な雰囲気のAIがあるな)
パラム教育実習生(カブキ)、ラムのAI2機、そして、このクラスには別のAIが複数確認された。明らかに、ここにAIの数が集中している。その中で何故か「スリープモード」
になっているAIが2機確認された。
(他のAIは自動で動いているのになぜ、スリープモードがいるんだ)
渡された資料を確認すると、アルモック、そしてヌンソンという生徒からその2機が確認できる。
そして、気づく。「スリープモードはAIが命令されなければできないことだ」、ということに。つまり、いままでの人間が「AIを知らない」もしくは「AIに勝手に行動を操られている」等、人間の手でAIを操作することが不可能な条件が数多くあった。その中で、「命令ができる」ということは少なくともAIを理解してないとできない芸当だ。ここでカブキは確信する。アルモックとヌンソンこそが、ダブル・アイだ。
「また、本日は社会科見学の中間報告を放課後、アルモックとヌンソンからお願いします」
更に運がいいことに、彼女たちはなにか業務があり、今一緒に組んでいる。そして、わたしたちと含めて計4人だけになる機会があるではないか。
二人はその言葉を聞いて、かなり遠くの席同士であるのに目を合わせて笑顔で返し合っている。
スリープモードにしているAIを持っている人間がたまたま仲良し、というのはありえない・・・これは必然だ。
(ふふふ、ここで二人を始末し、二人のAIを手に入れてストートン・キング様の献上品にしよう)
カブキはかつてない高揚感に浸っていた。
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