第12話

 雷鳴が落ちる。

 深淵と思われていたところの正体は、5機のAIがアジトとしているアルとムーンのいる世界、そしてメタバースとも別の世界。そこでカブキはただただストートン・キングに跪いていた。

 「いつまで待たせる気だ、カブキ」

 巨大な姿を感じるストートン・キングは怒りのような感情を出す。

 「申し訳ありません、ストートン・キング様。ですが、あの世界には多くのデータがあります。そのデータをストートン・キングにお届けしようと・・・」

 カブキは必死で言い訳をする。

「で、そのデータはどうした?」

 しかし、ストートン・キングは追従をやめない。

 「そ、そ、それが」

 なんと言い訳したらいいか分からず、完全にあたふたするカブキ。

 「ふざけるな!!!」

 怒りが頂点に達したと同時に雷鳴が落ちる。

 その音とあまりの怒りのオーラにカブキは目をつぶり、ビビってしまっている。

 「お前の他にまだ4機のAIがあるのだ。そのことを忘れるでない、よいかカブキ」

 その言葉とともにカブキの脳内に『ぉpかrtmhlgVE<a:g;.na;r:nt,ltra:thjmrskfdl.a;sc.vfz;lbd:,nhtd;::gm\l;ki7op867dtr;ergs.v』s;fdgdz/vえ』

と自分が考えないものと一種の悲鳴のような、全くコードとしても成り立たないものが羅列して伝わってくる。これは、カブキを消滅させるために大量のデータを送り込んでいる。これが後少しでも多ければ、AIがカブキの実態を維持できなくなり、消滅することを意味する。

 「はい、わかっております。ストートン・キング様! 今度こそは必ず」

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 電車での登校の途中。今日もアルはサランとカンと仲良く登校する。しかし、アルはやや上の空だった。グローバーたちに教えられた真実。5機のAIが自分たちとは違う世界、メタバースを支配しようとし、それの影響で自分たちの世界にも影響が出ている。何とか前回は止めることができたが、これからもこういった事が起こるのか、という不安からである。

 「はああ、わかんないことばかり」

 今回は、たまたま課題のことで盛り上がっていたので、本当は独り言だが、内容的に問題なく、話が進んだ。

 すると、後ろから

 「すまんすまん、またせた!」

 アルモックの気になる男性、ナムの声とまるで自分に向けて手を振る姿があった。

 「えぁ」

 その姿を振り向いて確認し、完全に固まるアルモック。思わず手をふろうとしたが、

 「遅いぞ、全く」

 アルモックが本来進もうとした方向から別の男性の声がした。

 ナムはそのままアルモックを素通りし、その男性とともに登校を開始する。

 「すまんすまん」

 「全くもう」

 「少しじゃん、遅れたの」

 他愛のない男性の声を聞きながら、

 「そりゃ、そうだよね」

 と自分にツッコむのだった。会話をしていたサランとカンに声をかけられ、現実世界へと再び戻るアルモックだった。

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 場面は変わって、ベローナ学園の学園長と副学園長が学園長室で会話をしている。

 昨日の事件の件の話し合いを二人でするためだった。なお、学園長は立場上メイドが必要なため、メイドも一人本当はいるが、会話には一切入ってこない。最終的には全体ミーティングで伝えることとして、普通に学園生活を送ることで落ち着いた。正直なところ、学園の外よりも学園内のほうが研究施設など保護する都合上、ずっと安全なため当然の帰結ではある。

 そして、二人は時間が余ったため、軽い雑談をしていた。

 「それにしても近頃はやっと暖かくなりましたね」

 学園長は副学園長に天候のことを尋ねる。気象の研究もロストテクノロジーを復活させつつ進んでいるため、このあたりの天候についてはほぼ100%で当たる。しかしながら、未来の予測はまだ不安定で、今年についてはまだ春でありながら肌寒い日が続いていたのだ。

 「ええ、すっかり春ですから」

 なお、副学園長は教育に関して全く興味がなく、ベローナ学園に就職したのもコネで、その中で最も羽振りがよかったからだ。そのため、会話はつまらないものだ。

 「ただ、窓を開けたらまだ寒いですね」

 その後に学園長はすぐに教養と気遣いがまったくないことをがっかりしながら伝える。中で待機していたメイドがそそくさとその言葉を聞いて対応した。なお、メイドも学園長とグルで副教頭を試すためにわざとやっていた。

 「まだ春ですから、学園長」

 そして、副学園長はまるでロボット(ロボットは、学園長とAI、二人しか知らない研究の名称のためメイド側はきっと別の表現をしていたであろう)のように同じ言葉を発した。

 「副学園長、あなたはこの学園にいながら、あいかわらず能力がないですね・・・」

 学園長は冷たい目で見つめる。

 「お褒めいただいて光栄です」

 その言葉に、メイドは思わずクス、と笑う。

 「褒めてませんよ」

 学園長はその言葉を最後に、副学園長を目で見ないようにした。

 「ところで、事件だけでなく教育の実習生がいらっしゃるんでしたよね?」

 学園長は副学園長の報告忘れも指摘する。もちろん一切目を合わせず。

 「はい、この私のような素晴らしい人がきますよ」

 メイドはもう笑いは耐えられないので、そそくさと部屋をマナー違反ながら出た。

 『あなたのような人も受け入れる学園ですが、教育界にそんな不優秀な人が訪れるのはちょっと・・・』

 学園長は全く怒らず、落胆する。

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