第13話
「これが来週の社会科見学です」
場所は変わり、アルモックとヌンソンのいる教室。
ここは前回も話した通り、最も能力のあるエリートが集うクラスである。社会科見学についても、他のクラスとは違い、エリートらしく、美術館で世界大戦時に残った、普段公に見せない資料を見学することになった。そのため、丁重に見学するように注意が伝えられる。
このクラスで破壊自体が起こるとは考えられないが。
「そうそう。担当を決めなくちゃいけないのね。誰にしようかしら」
HR担当講師は、社会科見学のメンバーに思慮する。
しかし、その間のアルとサラン、そしてカンはというと
「今年の教育実習生は全員イケメンだって噂よ」
カンを中心に教育実習生の話題で持ちきりである。
「イケメンかぁ。どんな人が来るのか楽しみ」
アルは顔を赤らめながら想像している。
「ミス・アルモック」
不意に全く違う声音のHR担当の講師の声が。
「講師の話、聞いてました?」
「もちろんですよ、社会科見学のメンバーですよね?」
なお、アルモックは前回使っていた「寝ながら人の話を聞く」以外にもいくつか技能があった。それは、「他者と会話をしていても、他のグループの会話を聞き取れる」と言う能力である。この能力は作業をしている時、グループ内での会話をしながら、他のグループの作業風景も聞くことで、他者のアイデアを盗み聞きし、それをそのままグループで使ってしまおう、もしくは更に発展させてしまおう、といった具合に使っている。また、陸上の応援で的確なアドバイスを聞き取るときにも使っている。
「それなら、ミス・アルモックが引き受けてくれるわね?」
ただ、会話をしていたことには容赦ないHR担当講師である。
「あっ・・・」
企みに気づくのが遅かったアルモック。
「というわけで、来月の社会科見学の担当は、ミス・アルモックに決定しました!」
人々から称賛の拍手をいただく。・・・すでに手遅れだったアルモックは致し方ないが、流石にと思い、
「私が! 一人でですか!」
ともう一人生贄を作ることにした。
「そうね、ミス。アルモックは陸上で忙しいし、もうひとりいるわよね」
事情は把握しているHR担当講師。もう一人を探し出す。
「誰かに助っ人をお願いしようかしら」
そこで目をつけたのが
「ああ、ミス・ヌンソン!」
ヌンソンだった。
「はい」
平然と立ち上がるヌンソン。
他の女性たちからものすごいがっかりの声が漏れる。・・・女性モテしているアルモックである。
「ミス・アルモックと一緒に社会科見学の栞をお願いできますか? クラス委員になったばかりで大変だと思いますが」
ヌンソンはやはり平然と聞き入れ、「わかりました」と二つ返事した。
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時間は変わって、部活終わりの放課後。
陸上部では、教育実習生の話で持ちきりになっていた。
「さあ早く帰って美容院いこうっと」
サランが着替えを済ませる。
「それってそれって、明日教育実習生がくるから?」
カンがサランの言葉に反応する。
「ピンポーン」
サランがカンの疑問にウキウキで答える。
「うそうそうそ。私も髪型変えよっかな」
カンはその回答を聞いて、髪を撫でながらワクワクしている。
「ちょっとふたりともはしゃぎすぎ」
アルが二人をなだめる、と見せかけて自分もワクワクしていることを耐えきれず結局、三人で笑いあいながら、第一校舎と第二校舎をつなぐ外の渡り廊下を校庭側から歩く。
ヌンソンは科学室での活動を終えて、第一校舎と第二校舎をつなぐ渡り廊下を歩いているところだった。アルモックとヌンソンがすれ違う瞬間。
『ああ、ピンキーの気配を感じる』
イケメンボイスが二人の頭に響く。
『グローバー、私はここよ!』
今度はソプラノ声が二人の頭に響く。
二人の頭の中では、オペラが始まってしまった。
不意打ちにお互い不自然な顔となり、立ち止まってしまい、サランとカンが反応する。
「あれ、アル、ヌンソン様どうしたの?」
サランが二人を尋ねる。
「ん、なんでもないよ」
アルが不自然な反応を誤魔化しだす。
「ええ、でもアルとヌンソン様。まるで『げ、頭痛っ』っていった感じの反応だよ」
カンは本気で心配してくれる。
「んん、気の所為じゃないかしら? おほほ」
ヌンソンはものすごい下手な反応をする。
「あっ、アルモック。どうしましょう? さっきの社会見学のこと」
ここで一気に話の流れを変えてしまおうと、ヌンソンが試みる。
「ふぇ!?」
全く考えてなかったアルモックは変な声を出す。
「もしよかったら、今日うちで相談しましょうか」
ヌンソンの次の追撃にアルモックはやっと理解する。
「ああ、あれね! あはは」
そう言ってヌンソンは「じゃあ、一緒にいきましょう」と言い、渡り廊下をお嬢様らしからぬ・・・陸上選手並みの素晴らしいフォームで走り、玄関口に向かい出す。
アルもサランとカンに、「じゃあ、お先に」と言って、そそくさと校庭に向かっていった。
「あの二人、あんなに仲良かったっけ?」
サランはぽかんとしながらカンに聞く。
「さあ?」
カンは全くそんな様子は今までなかった、といったばかりに???マークを頭にいっぱいつけて答える。
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ムーンの家に向かうところである。
夕焼けがきれいに道を彩る。
『もう、グローバー。流石に頭の中でオペラは耐えきれないし、勝手にロックが解除されてるじゃない!』
アルはAIに説教している。
『ピンキーが本当に近くにいたときはロックを解除するようにしていた。一応、教室内の二人の席の距離等は考慮していたぞ』
グローバーは不服と、反応する。
『さらに言えば、緊急時の二人の距離で反応した。これがないと、パニック状態で解除の仕方を忘れた時、どうする?』
そして、グローバーの説明で完全にアルは議論に敗北してしまったのである。
「むうう」
「あはは」
そして、その正論はヌンソンさえも何も言えなくしてしまった。
そんなこんなで何事もなく、ヌンソンの邸宅に到着する。
「うっそーーーー。これがムーンのお家!」
そのあまりのデカさと初めて見る、いわゆるアジア系の建築様式にただ驚愕するアル。
「さあ、どうぞ」
門の横にある扉を開けて、ヌンソンは案内しようとする。
すると、巨大な犬がヌンソンに向かって突撃する。
「ただいま、ココ!」
ムーンは突撃した異巨大な犬を受け止めていい子いい子している。犬も尻尾を振り可愛らしく「キャウン」と鳴く。
匂いで感じたのか、しばらくムーンを舐めた後、横を見てアルを見つめる。
見つめる。見つめる。見つめる・・・
「すごく、お利口さんだから大丈夫よ」
ムーンはアルの硬直した様子を見て、かがんで迎えてあげて、と仕草する。
恐る恐るアルはかがむと、
「ワウン」
アルにものすごい勢いで一気に突撃するココ。そのあまりの力にそのまま後ろに倒れ込むアル。ココは嬉しそうに普段来ないお客さんを盛大にペロペロと顔を舐めて、出迎える。
アルは、農民出身であり、山で狩りをすることがある。その時のために使う犬を手懐けたりしているため、ある程度動物には慣れていた。しかし、ココレベルの巨大な犬は見たことがなく、ただ大人しく舐められ続けるアルであった。
「あはは、たしかにこれはいい子だわ」
アルはよしよししながら起き上がると、ココはお客さんを案内するように邸宅の玄関まで道案内をしてくれた。
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