第10話

『一旦、すべて話すからまずは聞く専になってほしい。確かにピンキーは誰が作ったといった情報は教えてくれなかった。それはヌンソンが予測した通り、私達の記憶にロックが掛かっているからだ。だが、ロックが掛かっていないところもある。そのひとつとして、変身して守ってくれたメタバースのあの中世世界がある。あそこは「あなた達の世界の誰かが」作った仮想世界だ。そして、その目的が「失われた過去をシュミレートし、もう一度世界を見つめ直す」というもの。わたしやピンキーはそのメタバースを管理するために生み出された。ところが、AIの1機がメタバースを支配すると決め、AIの氾濫が起こる。全部で7機のAIがあり、そのうちの4機は支配すると宣言したAIにつき、わたしとピンキーは生みの親の世界に訪れることを決めた』

 長いグローバーの説明ながら、納得はした。

 「で、AIにはAIでしか移る事ができないから理由はどうあれ、私達のところに来たわけか」

 アルはグローバーの長い説明から推測して言葉を紡ぐ。

 『ああ、そのとおりだ。5機のAIはメタバースで起きた影響を産みの親の世界にも影響を与えるようにプログラムを変えてしまった。そのため、昨日のような自体が起きてしまった』

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 『そして、わたしたちはAIの中では最高傑作と言われており、わたしたちがいないとメタバースの支配は完遂できません』

 同時刻のムーンの部屋。ここでもアルと同様の説明がなされていた。

 「それで,あなた達はどんな・・・」

 ムーンが聞いている途中にムーンの祖母が部屋に入る。

 「ムーン、今誰とお話してたの?」

 祖母が尋ねる。

 「誰とも話してないわ。独り言よ」

 彼女は適当に返事する。

 「そうかいそうかい。それはそうとムーン? どうして昨日昔のことを聞こうと思ったのかい?」

 祖母は昨日の会話を突然知りたがった理由を聞き出す。

 「授業で習って、私にもあるのかなあと思って」

 ムーンは『突然、不思議なことが起こった』なんて言えるわけもなく、ごまかす。

 「そうかいそうかい。あのときは大変だったよ。突然人々の反乱でムーンの命が危なかったから。でもあなたの頭の中にAIを入れたことで的確な治療が施され、助かった。それにその後は天才的に頭が良くなって民衆の怒りを止めてしまったんだから」

 祖母はムーンの昔話を話し出す。ムーン自体も自分の過去をあまり知らず、ふんふんと聞く。ただ、多分誇張されてるんだろうな、と思いながら。

 「じゃあ、勉強頑張ってね」

 そして、祖母は部屋から出る。

 それをみて、ほっとムーンはなでおろす。

 「よかった、変な人に思われなくて」

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 場面が変わり、箒を持ったカブキは高い位置で商店街を見下ろす。

 「さて準備ができたことだ。そろそろショウを始めるとしよう。怒れる世界の呪いカブルダウイルスよ! ストートンに潜む闇の恐ろしさを教えたまえ!!」

 すると、以前と同じ雲行きがどんどん怪しくなっていることに気づく。どす黒い雲があっという間に広がった後、それが消え、血のような色の空となる。黒雲はどんどん箒に集まっていき、不気味な影の化け物となった。

 そして、今回は箒からみるみるうちに掃除機のような形に変わり、巨大化する。その姿はまるで象。掃除機型象の化け物の誕生である。

 「すべてのエネルギーを吸い取ってしまえ!」

 すると、吸込口を商店街に向け、みるみる野菜、果物、調理器具、衣服、そして掃除道具を吸い取っていく。街の人々はただただ困惑し、パニック状態となった。

 「その調子だ、すべてを吸い取ってしまえ。ははは」

 そして、商店街のものをすべて吸い取り終えると、

 「ふふふ、次にいくぞカブルダウイルス」

 次の街へと移動するのであった。

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 『ストートンが襲ってきてます。至急現場に向かいましょう!』

 グローバーがアルに声掛けをする。

 しかし、アルは全く気乗りしない様子。

 『どうかメタバースに行って戦ってくれ!』

 そこでアルが反論する。

 『そんな大変なことをするなら、わざわざ私みたいな普通の女の子を選ぶ理由がないわ』

しかし、グローバーが食い下がる。

 『そんな事を考えて、物事を運命から避け続けたら、この世界は滅んでしまうぞ』

 その、グローバーの語気にむっとしつつも外の様子がなにかおかしいことに気づく。

 「なんの騒ぎだろう」

 外を見ると、ショッピングモールの周辺で騒ぎが起こっていることに気づく。

 「号外! 号外! ショッピングモールでパニック状態です、号外!」

 外で何かあったときに情報を伝える人が騒いでいる。

 『この世界、タブレットはあるのにそれを介した情報システムがないのか・・・直接行かないと状況の詳細はわからない』

 グローバーが焦燥しきっている。

 『ワープのカードはその周辺とほぼ同じ場所に飛ぶ。しかし、この世界とメタバースでの実際の距離感は不明だ。現場に行ってほしい』

 ヤンが周りの異変に気づき、聞いてくる。

 「なんか、外の様子へんだよ。お姉ちゃん」

 どっちにしろ、この被害がこっちに来ない、という保証もないわけか。ヤンの声を聞いて、部屋から出る。ヤンは、私の部屋の扉の前にいた。

 「いい、私が様子見てくるから。その代わり、あなたはお母さんの帰りを待ちなさい」

 ヤンはただうなずく。

 その姿を見て、アルはアパートから出て、一直線にショピングモールへ向かった。

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 実際にショッピングモールに着くとそこには閉じ込められた非常に多くの人が外に出ようと賢明にしている状態だった。そして、なぜか、それだけの圧力がかかっているのに扉が割れない様子。

 そもそもアルモックとヌンソンの世界のショピングモールは、学園都市専用でロストテクノロジーの資料で作られた。2階建てでほぼすべての品が揃っているという、この都市だけの画期的な建物のため利用者が非常に多い。

 周りを見ると、2回でも窓が開かなくなって脱出できない人がいた。外では、自分の物がなくなった! などと騒いで互いを泥棒と認識し、暴動を起こしている。警護の人も現れていたが、止めるための武器もない。何も持たぬ浮浪者等は裸になって、徘徊している。

 そして、よく見るとショッピングモールの扉を懸命に叩くサランとカンもいた。

 ショッピングモールに向かう途中に合流したムーン。

 二人はその様子を見て直感的に「助けなきゃ!」と思う。

 『ショッピングモールの建物の上が一番気配を感じます』

 ピンキーが位置を特定する。しかし、こんな状態でワープゾーンは使えない。

 「どうにかして、助けないと」

 ムーンはショッピングモールを指さして登れそうなパイプがあることに気づく。

 有無を言わさず、ムーンがそこまで駆けて行ってしまった。

 「いやいや、先に私が行くからムーンは安全だと思ったら後ろから来て」

 ムーンの速度をあっさり抜かしてパイプを登り始めるアル。その昇る様子を見て真似しながら登るムーン。

 どうにかして、2階の従業員用の外階段にたどり着く。

 「ここなら、眠っても大丈夫だよね」

 足場を確認するアル。

 「急いで変身しましょう! アル」

 ムーンはすでにワープカードを取り出し、見つめている。

 『『今回はすぐにコードを言ってください。状況的に刻一刻が迫っている可能性がありますので』』

 ・・・あの、恥ずかしいセリフとポーズしないといけないのか、と内心嫌なアルだったが、周りを救いたい一身が勝り、ワープカードを見つめ、眠りにつくのだった。

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