第9話
「すごく甘くて美味しい」
そして、文句は言いつつもヌンソンが作ってくれたアメを美味しくいただくアルモック。
「砂糖を焼いて、果物の汁でコーティングしてるのよ」
ヌンソンはその姿を、嬉しそうに眺める。
『あら、グローバーを感じるわ』
そんな、いい感じの雰囲気の二人にソプラノ声が二人の頭に響き渡る。ピンキーがグローバーを感じ取ったのだ。
「ああ、グローバーは充電してるみたい」
アルモックはグローバーが出てこないことを伝えると。
『そうか、残念』
と、あからさまなショックをする。
「よっぽどグローバーに会いたいのね」
ヌンソンはピンキーの反応を楽しむ。
『私達は愛で結ばれてるもので』
ピンキーはその反応に随分と恥ずかしくなる言葉で返す。
「ふふふ、機械でも愛とか語るのね」
ムンソンはほんわかした雰囲気でピンキーの言葉に反応する。
「あ、そういった事も含めて話したいことがあって、来たんだけどどこまでわかったの?」
アルモックは『機械』という言葉に反応して質問する。
「あら、グローバーに色々質問しなかったの? 私はピンキーに聞いたのよ。例えば・・・ピンキー、わたしたちの頭の中にどうしているの?」
すると、
『あなた方に私が適合できるAIが脳内に入っているからです』
「こんな感じに、ね」
いや待って! とアルモックは回答に質問する。
「それよ。そもそもなんでそんなのが頭にあったり・・・」
それに対して、
『申し訳ありませんが、なぜAIがあなた達の中にあったのかお答えできません』
ムンソンは、あはは苦笑しながらアルモックに補足する。
「小さいときに、なにか大きな事故経験したりしたことなかった? 私はそういう経験実は一回あってその時に脳に入れられたみたいなの。でもお祖母様から聞いたことだから私自身全然覚えてないんだけど」
ああ、そういった特定の条件なのか。それなら後で親に聞いてみるしかないか。
ただ、なんで答えられないのか疑問だけど。
「あとは、私達が戦ったメタバースの世界。あれは誰の命令で作られたの?」
『お答えできません』
「結局全然答えられないじゃない!」
オーバーリアクションでアルモックはずっこける素振りをした。
「AIって、基本は命令されないと動かないものなのよ。完全自立はないわ。そう考えると誰かが私達の世界で命令したことになるんだけど。でもそういうのを答えられないようにロックとかかかってるんだと思う」
AIへの理解を説明されるとなぜだか理解してしまうようになってしまったアルモック。でも、この方たち結構自立してない? と思ったりもするが今はここまでにしようと判断した。ヌンソンが再びピンキーに質問しようとしたところを遮り、意見を伝えた。
「肝心なところとか分からないのに戦う必要はあるのかな?」
アルモックの言葉にヌンソンは驚いた表情になる。
「こんなこと家族に話したって理解してくれないし、これだけ危険なことだもん。できれば関わりたくないわ」
アルモックは続けて不安を吐露する。
「そう・・・」
ヌンソンは残念がりながら科学室の窓まで移動し、
「こういう力を授かったのも運命なのかな、って思うの。だって、これができるのは私たちしかないじゃない?」
アルモックは内心「嘘でしょ」と思い、語尾を強めて意志を伝える。
「それじゃ、信用しても良いのかわからない世界に、運命や優しさで戦うっていうの?」
「そんな大それたことじゃないわ、ただ、運命を得られた以上はそれを楽しみたい、と思うのよ」
もっと衝撃な言葉を聞いて口をあんぐり開けるアルモック。
ただの好奇心が理由なんだ、この人。
「あんなに痛い思いしたじゃない、私達!」
アルモックは、もう完全に怒る寸前まできている。
「そういうところも、一度きりの人生だもの」
そこでアルモックは立ち上がって怒る。
「あのさ、昨日はたしかにうまくいったけど、今度いきなりドカーンとあんな怪物現れたりしたら、今度こそ・・・」
そこで、窓ガラスにサッカーボールが飛んできて激突する。
見事にガラスが割れ、彼女の「ドカーン」に負けないほど大きな音を立てたため、二人は驚いてそれを見る。
二人は頭を守ったが、すぐに行動に移ったのはアルモックだった。窓から様子を見て、サッカー部だと判断し、そのまま科学室を出て、校庭に向かう。サッカー部を見つけるやいなやアルモックは吠える。
「ちょっとあんたたち! 一体どこに向かって」
「怪我はなかった?」
アルモックの言葉に反応したのは、昨日アルモックが電車で見かけた気になる男性だった。アルモックは見た瞬間、「えっ」と困惑する。
「ごめんごめん、ナムがばか蹴りしちまって」
サッカー部の部長らしき人もやってくる。
「わりい、本当に怪我はなかった?」
アルモックの気になる男性、ナムは再度謝る。アルモックはいきなり怒鳴ったことに急に恥ずかしくなって、顔を赤らめだす。
「あ・・・これからは気をつけてください」
そして、急に拙い言語でボールを返すアルモック。その後はそのまま石のようなコッチコッチの歩行で科学室へ戻る。
その様子を窓辺から不思議そうにみつめるヌンソンだった。
「さっきの剣幕はどこにいっちゃったのかしら」
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場所はかわり、カブキのいる世界。商店のところまで降りて、周りをうろつく。目についたのは掃除道具だった。
「ほう、あんちゃんはなかなかいい目をお持ちだ。この箒で使われてるエニシダが・・・」
カブキは商店の掃除道具を売るおじさんの様子をただ眺めている。しばらくおじさんの目を眺めていると・・・
「あ、ありがとうございます」
お金も払ってないのに、掃除道具をおじさんは渡してしまう。
カブキはそのまま掃除道具を手に入れてしまった。
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「さっきはなんで顔があんなに熱くなってしまったのだろう」
彼女はその後無事に部活を終えて、帰宅し、自宅の窓から外の様子を見ながら、物思いにふけている。この不思議な感情は何なのだろう。なぜ、初めて電車で見たときから気になってしまい、そして、今回始めて会話をしたら、失敗してしまったのだろう。身体も固くなってしまった。普段誰とでも気にせず会話できるのに。
彼女は今までにない感情を整理しているが、そこで
「宿題手伝って!」
完全に空気の読めないヤンの声が、扉の外から聞こえる。
「『うるさい』な! 後にしてよ!?」
『スリープモードを解除します』
頭の中で響き渡る無感情のイケメンボイス。あっ、ロックを解除してしまった。
『全く。ディープラーニングは続けていたが、まず言いたいこととして、次回からパスワードを私の名前にしろ』
起きて早速の説教と、ヤンの依頼でわんわん色々と音が聞こえ、イライラするアルモック。
『あなたも空気読んでよ』
ただ、今までと違ってグローバーの扱いに慣れてきたのか独り言での会話はなくなった。
「お姉ちゃん、もしかして馬鹿だから教えられないの?」
しかし、ヤンに対しての問題も起こる。
「ムカつくようなこと言わないの。わかったから、入ってきなさい」
アルモックは、昨日みたいな子供じみたことはしないように努めながら、ヤンを部屋に入れる。
『これから思い出した重要な話をしようと思っていたのだが、致し方ない。わからないという脳波が出たら今回はすぐに全部答えてやる』
グローバーも手伝ってくれることになった。
すらすらとヤンに教えていき、それはあっという間に終わった。
「お姉ちゃん、頭良くなった?」
ヤンは驚いたように聞くが、
「余計なお世話よ。さ、早くいった」
そういって、ヤンをさっさと追い出す。部屋から出ていき、扉をヤンが閉めると本題に入った。
『で、AIなのにあんたは随分と自力で色々協力するのね』
ヌンソンの言葉を思い出し、問いかける。
『ああ、ピンキーのAIを使ってる人、ヌンソンという方の言葉か。それは簡単であなたが無意識に私に話しかけてるからだ。だから、疑問に思ったことで回答できそうなことを答える』
あ、脳波とかいってたけど、私常に頭使ってるのか・・・
『これから話すことは、メタバースの件についてだ』
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