第7話

 「ミス・エミ・・・ミスター・レックス」

 あの謎の事態が起きた後、遊園地の警備員さんに呼ばれ、アルとムーンは一緒に外に出て家に帰った。テントにいる人達をその時、見てみると、自分が戦いの舞台になった中世の人たちと姿が似ているような気もした。もっと若くて活気があったけど。それを見た時、あのメタバースは私達の世界をある程度真似ているのかな、と二人は自覚する。

 時間としてものすごく長く感じていたが、実際は1時間位しか立ってなかったようで、アルの家でもムーンの家でも夕食が始まった。それ以降は、グローバーもピンキーも何も喋り出さなかったのである。

 信じられないくらいいつも通りの日常。しかし、あまりの出来事に夜も考え事をして、登校も考え事、アルは部活で「調子が悪いのかな?」と周りが心配になるくらい上の空。そして、ムーンも授業中はいつもより穏やかで、「助け舟が来ない」と生徒が不安になる。

 流れ星とともにいきなりやってきた(もしくは元々私たちにいた?)AIのグローバーとピンキー。

 遊園地に行ったら、突然異常が出てきたから、AIに従って、ぜんぜん違う世界の遊園地になぜか移動していて・・・

 そこは歴史で見た中世で変な格好をした、そして性格も変な男と戦う。

 そしたら、その世界にはありえないジェットコースターの蛇(ジェットコースターとなると流石にアルとムーンの世界にもまだないのだが、なぜかジェットコースターだとわかって)に襲われて。

 グローバーとピンキーは何なのだろう?

 襲ってきた男は何者?

 そして、アルとムーンのあの変な格好に加えて、まるで変身したかのような力。

 夢を見ていたと思えばどんなに良かったか。

 そんなことが二人の(ただ、ムーンはある程度受け入れてはいるが)頭の中に浮かび続けているのである。

 そして、上の空の状態でいつの間にかクラス内の学級委員が決まろうとしていた。

「投票の結果、学級委員はミス・ヌンソンに決まりました」

クラス中で拍手が起こる。ヌンソンは「私、特に希望もしてないし、選挙活動も

してないんですけど・・・」という表情ながらも立ち上がって拍手に答える。アルモックも周りの状況に気づき、拍手をする。

 チャイムが鳴り、午前最後の時間が終わったのである。

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 「The difference between the impossible and the possible lies in determination(不可能と可能を分けるのは覚悟の差だ)。なので、私は不可能と思割れるタイムを目指し、走り続けるのです」

 そして、午後は国語の授業。アルモックの発表。国語に関しては特に成績に作用されず、間違いも指摘されない。その上、テストもない。自分の好きな内容を研究して発表する時間のため、アルモックにとってはありがたい授業である。確かに成績は他のクラスから見ても下から数えたほうが早いが、元々肝が座り、発表はうまい。しかも他の人と違って、農民出身ということもあり、他の人にとっては、場合によっては教師も知らないような発表もするので国語の時間はアルモックの数少ない勉学の成績の支えである。

 『ほう、伝説の陸上選手。ウサイン・ボルトの名言か』

 しかし、アルモックの国語の評価が今日をもって、曇が差す。

 「えっ、なんで急に声かけるの」

 不意のグローバーの声につい、発表の最中にグローバーと他の人に聞こえるように喋ってしまった。

 「ん? どうかしましたか」

 講師は途中で発表をやめたことを心配し、尋ねる。

『自身の得意なことも合わせて素晴らしいじゃないか。続けたらどうだ』

 グローバーがイケメンボイスで発表を続けるよう促す。

 あなたのせいでしょ、とアルモックは思っていたら・・・

 「あれ、何言ようとしてたんだっけ」

 横槍を挟まれたことにより、次の会話を完全に忘れてしまったのである。アルモックはもうこれ以上続けるのは無理だと判断、正直に

 「すみません、これで終わりにします・・・」

 周りがあまりに唐突に終わらせたので、心配の表情をする。

 「大丈夫よ。落ち着いたらまた発表してね」

 講師は、アルモックの様子を心配して気を使ってくれた。

 アルモックにとって、これが国語の授業で完全に汚点となってしまった。

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 「ストートン・キング様。最後の2機のAIを発見しました」

 「そうか」

 遊園地での戦いに敗れたカブキは自分たちのアジトでボスであるストートン・キングにグローバーとピンキーについて報告する。

 アジトは建物でなく、暗黒の空間。ここにはただ深淵しかなく、カブキとストートン・キングの声しか聞こえない。

 「では、なぜここにAIがないのだ?」

 しかし、ストートン・キングが怒りを込めた発言をした瞬間、一種の空間が誕生した。

 そこは深遠であるが地があり、地には黒雲が立ち込める。ストートン・キングも鎖に繋がれた巨人のような姿で現れる。

 カブキはダブル・アイと戦闘をしたときのような獅子頭の姿だ。

 「そ、それは・・・思わぬ邪魔が入りまして」

 カブキが焦って言い訳を始める。

 「お前の事情など聞いておらん!」

 深淵がゆれだす。

 「この世界で造り上げられた最高峰の7機のAI。そのうちの5機はこちらにある。残りの2機を奪い取ることがお前の使命であり、私たちの蹂躙する新しい世界に繋がえるのだ」

 「承知しています」

 カブキはストートン・キングの怒りをただただ受け入れるだけだった。

 「もし、これに失敗すれば私は消え去り、世界での立ち位置がなくなる。7機のAIを手にして人間を追いやってこそ、わたしたちの権利は復活するのだ!」

 深淵の揺れは激しくなり、カブキはひれ伏しながら恐怖に震えている。

 「ゆけ! カブキよ。貴様に与えたAI。『秩序』の力をもって、目的を達成するのだ!!」

 そして、深淵の世界は消える。

 カブキは、中世の姿をしたメタバースへと向かうのである。

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