第6話

 「くそ、忌々しいガキどもめ」

 その姿の変化も相まって、憎悪の化身そのもののように感じた。すると、彼は突然叫びだした。

 「私も名前くらい名乗ってやるわ。私はカブキ。貴様らのようなAIを持つものだ。そして、ここからは私のしもべに相手してもらおう。怒れる世界の呪いカブルダウイルスよ! ストートンに潜む闇の恐ろしさを教えたまえ!!」

 その叫び声を聞いて、二人はちょっと緊張が緩み、AI二人に尋ねる。

 「「そう思ったら、なんで(なぜ)、この世界に来る時変なセリフとこんな派手派手な格好なの?」」

 すると、AIが口(?)を揃えて言う。

 『『セリフは世界の中に入るためのコード。コードは、呪文みたいなものです。その衣装はこの世界の上流貴族にあわせてのものです。なお、セリフは変更も、言わないようにすることもできませんので諦めてください』』

 「「それなら最初っからもうちょっと、恥ずかしくない呪文にしてくれる!?」」

 敵側のあのくさいセリフもそういうものなんだろうと、AIの話を聞いて理解する。

 『『あと、ふたりとも本当はもう一つ大切なコードがあるので悪いですが、ここで言ってもらいます。これ言わないと、本当の身体能力を解除できないもので』』

 それを聞いて、二人は「まだ身体能力上がるの?」と困惑しつつも、頭の中で考えてもいない言葉、そして勝手に行動がなされる。

 「ストートンの力に魅了されたしもべたちよ」

 ムーンがカブキを指差す。

 「とっととデリートされなさい」

 アルもまた続いてカブキに指を差す。

 すると二人はさっきよりも強い力を感じ始めていた。がそれ以上に・・・

 「「はずかしいいーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」

 恥ずかしさのほうが上回り、赤面するわ、顔を隠す仕草をする始末となった。

 『『さあ、これで準備万端ですよ』』

 AIの二機だけはテンションが高い。

 そんなことをしているうちに、雲行きがどんどん怪しくなっていることに気づく。どす黒い雲があっという間に広がった後、それが消え、血のような色の空となる。黒雲はどんどん地上に集まっていき、不気味な影の化け物となった。

「hじtんgz:kdmsdf…;:g」?T$_YAjsyr.んlもhf」rhれp!!!!!」

 言葉では説明できないような叫び声がけたたましく叫ばれる。

 そして影の化け物は、今ある空間の時代にはそぐわない(少なくとも中世時代の最初期の遊園地のため)ジェットコースターのような形をした蛇となる。

 「なんかすごい物騒な姿なんだけど」

 化け物を見て、驚くアル。

 「そもそもの状況、もう正直夢よね」

 あまりにおかしな状況で夢だと疑い出すムーン。

 その様子を全く無視して、ジェットコースターの形をした蛇は、ライトの部分から突然光線のようなものを二人に浴びせようとする。

 「「えっ・・・」」

 とっさの判断でその光線を躱す二人。そして、二人が立っていたところは、光線で焼かれ、黒い煙がでる。

 「「マジ・・・」」

 カブキとの戦闘よりも判断スピードが上がっていることに気づき、同時にそれがなければ避けきれなかった。そして、目の前の蛇の初手の攻撃がまさかの光線と、色々とおかしなことが重なって驚く。

 しかし、やはりその驚く様子を無視して、蛇は光線を彼女らに向けて放ち続ける。

 二人は避けるだけで精一杯だ。

 「ははは! いいぞ、カブルダウイルス」

 カブキは先程よりも圧倒的有利な状況となったことで高笑いをする。

 「「はあはあ」」

 二人は避け続けたこと。そもそもいきなり慣れない戦闘による疲弊がここで出てくる。

 『『休んじゃだめです! 突っ込んできます! 逃げて!!』』

 AIは二人の隙が危険だと察知し、即座に警告する。

 二人はその声を聞いて、前を見ると蛇が尾を使って二人を叩きつけるところだった。

 すぐに身体を横にジャンプして躱す。今回は力加減をミスしてしまい、手で着地し一度前転をするような受け身をして着地をする。

 その余分なアクションを逃さまいと、ジェットコースターの車輪の部分をまるで手のように動かし、先程の尾の攻撃によって飛び散った石を二人にはたきつける。

 「「くっ」」

 それに直感で気づき、且つ足への負担が大きくなってることを考慮して、アルはバク転、ムーンは側転で躱す。

 「じのbl;ktdr‥p.;df¥zvb」んsr;gf.bd¥:えあf・¥:あ・」

 蛇は意味の分からない雄叫びを再び発して、車輪を二人にそれぞれ投げつける。ただ、動きは彼女たちにとっては大して速くないこともあって、アルは叩きつけて止め、ムーンはあっさりと躱した。

 しかし・・・

 『ムーンが危ない!』

 グローバーが車輪の動きを即座に計算し、ブーメランのように戻ってくることを察知した。その言葉の後、0コンマの速度で方向がムーンの背中に向かってくる。

 言葉と同時に行動に移っていたアルはムーンの後ろまでものすごい速さで移動し、車輪を叩きつけた。

 「大丈夫?」

 アルはムーンの心配をする。

 「大丈夫、ありがとう」

 ムーンはアルにお礼をする。

 この言葉を交わした直後、二人の周囲は暗くなる。

 ジェットコースターの形をした蛇がすぐ真上に移動していたのだ。

 「「ちょっとピンチです・・・」」

 二人は疲労がかなり溜まってしまい、限界を感じる。

 『『リミッター解除完了しました。ふたりとも手を繋いでください』』

 弱音を吐いた二人にグローバーとピンキーは、こんな時にありえない行動を促す。

 「なんで、こんな時に」

 アルは反対の意志を示す。

 『いいから、早く』

 ピンキーがソプラノ声でものすごい豪声を浴びせる。

 この言葉に促され、ムーンはアルを見つめる。アルもムーンを見つめ、決心する。

 二人は手をつなぐ。するとまたしても、言葉と行動が勝手をする。

 「ブラックラーニング!」

 「ホワイトラーニング!」

 二人は繋いでない方の手を天に向ける。もうこのときにはすでに感情は死んだ状態になり、ただ受け入れたように行動を身体も声帯も任せた。すると、空から黒色の文字の羅列のようなものがアルの、白色の文字の羅列のようなものがムーンの、それぞれ天に向けた手に注がれ、それが終わると身体が発光しだす。

 「AIに学習された美しき魂が」

 ムーンは内心『夢ならぁ・・・でも夢なら何に影響されたのかなぁ』と考える。

 「邪悪なウイルスを打ち砕く」

 アルは『もう無事に家に帰れればいいよ・・・』と諦観している。

 一度繋いだ手を離して、後ろにし、再び手をつなぐ。天に向けた手は蛇に向けられる。

 「「アイ・バスター」」

 そして、蛇に向けた手からさっき空から降ってきた文字の羅列が一気に放出され、黒と白が混ざり合っていく。それを見て二人は『あ、なんかすごいことになってる』とだけ意識した。

 驚くことにこの行動そのものはものすごい高速で行われているため、近づいていた蛇は全く躱すアクションをすることができず、もろに受ける。

 すると、影の化け物姿に戻ったかと思うと、文字列のようになって一文字ずつばらばらになり、そして、文字がまるで足を持つかのように走ってチリチリになって逃げていく。

「「なにこれ?」」

その様子をただただポカーンと二人は見る。

「終わったのかな」

ムーンは状況がさっぱりというようにアルに問う。

「多分、ね」

 アルも全くわからないけど、と思いつつ言葉を返す。

 「カブキって、人は?」

 いつの間にかいなくなっていたカブキにもムーンは疑問に持つ。

 「さあ?」

 やはり、アルはそれもよくわからないといった感じで返答する。

****************************************

 「どういうことだ。奴らは一体・・・」

 アイ・バスターの直後、カブキは遊園地から離脱し、現在、空を飛んでいる。メタバースの空間で、且つ自身がAIを持つためにできる技だ。

 「そもそも、世界最高峰のAIという情報は聞いていたが、あそこまで奇妙な能力は聞いていない」

 カブキの持つAIも優秀ではあるが、メタバースの空間をいじることが主である。それを悪用しているまで。あそこまで多彩な能力があるAIでしかも、ほぼ自立して物事を対応できるのはあきらかにおかしい。

 「今後は注意をしなければならないな」

 カブキは今回の敗北を考えるべく、この空間から消えたのだった。

****************************************

 「「うう」」

 あの昔話に出てくる中世の空間からは戦闘が終わると、いつの間にか目の前が真っ暗になり、目を覚まして現実世界に戻って終わった。

 「やっぱり夢だったのだわ」

 ムーンが安心して、ほっと胸をなでおろす。

 二人でテントから出てみると、自分たちが目撃した遊園地の異常事態はすっかり収まっていた。

 「でも、夢なら随分リアルだな」

 アルは戦闘で感じた痛みの箇所を触る。夢ならそういった痛覚は感じないはずなのに体中のあっちこちに打撃の感覚が残っていた。

 「きっと、ふたりとも感受性が豊かで意思疎通や感覚が現実にも出たのよ」

 ムーンはあくまで夢だったのだと主張する。

 『『それは違いますよ』』

  しかし、それは残酷にも頭に響くイケメンボイスとソプラノ声によって崩された。

  ムーンは頭の響きにショックを受けつつ、アルはもう受け入れるしかないのかと悟り、

 「だったら、これはどういうことか説明してもらえる」

 やや、怒り口調でグローバーたちに問うた。

 『あなた達の脳にはAIのもとになるものが埋めこまれてました』

 『そして、あなたたちの遺伝子は特別に優秀なものだったため、私達のようなAIが入ることができました』

 グローバーとピンキーは解説をする。

 『そして、結果としてあなたのもとに侵入したことにより、わたしたちのいる世界に脳内のデータを移動し、その世界で戦う力を得たのです』

 グローバーの説明の部分で色々と私達の身体にも秘密があるのか、とアルは考えつつその後のピンキーの言葉にはあまりの内容に反応してしまうことになる。

 『これから、あなた達はダブル・アイとして戦い、わたしたちの世界を救ってもらいます』

 「はあ? なんであなた達のために戦わなければならないの」

 アルにとっては、このピンキーの言葉は自由を奪われるような気持ちになったのである。

 「ああ、あの変な言葉とか行動って。AIのプログラムの一種なのね。面白そう!」

 しかし、ムーンはさっきまで夢だと願っていたはずなのに、すべてを悟り、話に乗ってしまった。

 「私、本とかで読んだことがあるのだけど、戦争が起こる前の末期に脳内にちっちゃな機械を入れて、色々と考えるのに助けてもらってたんだって。そして、その時代で優秀な人が生まれる条件というのが判明してそれを実践した、とも書いてあったわ。さらに生きてるところとは別の空間を機械に作らせて動かしていた、とも記載があった。私達がどうして、その内容に一致するかはわからないけど、そういうものの星の下に生まれたのよ。ならば受け入れなければならないわ」

 「うぐぐ・・・」

 あまりの賢さからなのか、完全に理解し受け入れてしまってるムーンに口をあんぐり開けながら驚くアル。ついには、一言。

 「もう、そういうのぜんぶ普通はありえないでしょーーーーーーーーーーーーーーーーー」

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