第4話
アルは結局、学園に忘れ物をした、ということにして外に出ることにした。母も脚が速いことはよくわかっているので、何かあってもすぐ逃げ切れるだろう、と簡単に許す。・・・アルとしては複雑な心境だった。
『そこを右に曲がってください。あっ、やっぱり左。いや、真っ直ぐか・・・』
頭の中で叫ぶイケメンボイスに言われるがまま、対応する。
「もうどっちよ! てか、まっすぐは行き止まりよ」
目の前には、建物があるだけ。これではとても前には進めない。
『どこまでも真っすぐでお願いします』
そう言うと、目が何故か勝手に建物と建物の間を見る。
「うそでしょ、めちゃくちゃ狭いわよ」
アルモックはスレンダーなため、通れなくはないが、とにかく狭い。
「ねえ、遠回りでもちゃんとした道にいきましょうよ?」
アルモックは頭の中の何かに必死に懇願するが。
『申し訳ないが、急がなければならないのだ・・・』
そう言って、泣き声を発するイケメンボイス。
「はあ、私はイケメンボイスに弱いのかな」
致し方なく、狭い道を進んでいくのだった。
まだ、夜ではあるが遅い時間というわけでもないので、仕事帰りの官僚や職人に怪しまれながら、狭い道を進む。
「そう思ったら突然、私の頭に語りだしてるけど、名前とかあるの?」
二重人格で男はとても考えがつかない。それを踏まえると、あの光のせいで何かあったのだろうと考えるのが妥当と判断し、その上で「私ではない何かが頭にいる」と結論づけ、理解し、それが正しいか確かめるアルモック。
『私は、選ばれし勇者グローバーである』
アルモックは、「私はついに頭が逝かれてしまったんだ」と嘆く。
とはいえ、こうなってしまっては仕方がないのでもうそれを聞いて諦めてひたすら真っ直ぐに進む。
『私の国が、現在新たな脅威にさらされている。それから守るために私は君の元に入ったのである』
聞いてもいないこともグローバーは語りだした。
はっきり言って、さっきから、人が通らない道を通ってばかりで嫌気がさしていた。ついでに夕飯がまだのため、周りから香る食事の匂いの誘惑にお腹が限界にきている。とにかく本能的な面で危機的な状態になってしまったアルモックは・・・
「おなかすいた~」
ついにグローバーの話を無視して叫びだしたのである。
『話は聞いてほしいし、足は止めないでほしいのだが』
容赦のないイケメンボイスであった。
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なんやかんやと、進み続け、学園都市の外れにある遊園地まできた。・・・もうだいぶ歩いたな、とアルモックは感じる。アルモックは長距離も対応できるので、お腹が空いているとはいえ、歩きだけならなんとかなった。
「遊園地だけど、もう閉園時間になるわよ」
学園都市にある遊園地は、大きな戦争が起きてから初めてできた遊園地。学園都市に向けて土地を開拓しているときに、自然の泉が発見された。その泉があまりにきれいだったために『保護観察地域』に指定されて、春に大勢の人や芸人、行商人が集まるようになる。その後、学園都市で過去の文献を研究し、より人々が楽しめるところにしよう(なお、実験の一環としてだが)たくさんの木製のアトラクション施設が設置されて、現在に至っている。ちなみにそういった経緯もあって、遊園地は無料である。
「しかし、こっちに反応があるのだが」
グローバーの返答に仕方なく、窓口のお姉さんに入れてもらう許可をもらう。お姉さんたちは制服を着た、いかにも真面目そうな女性だった。アルモックの顔を見るなり、「練習だったら、早めに出るんですよー」と言って、中にすぐに入らせてくれた。この地域で、アルモックの活躍ぶりは結構有名だったりするので、基本外に出れば練習しているんだと思い、人々は協力的になってくれる。
中に入るなり、すぐにグローバーは
「おかしい。希望のAIとは別の反応も感じる」
なんて言い出す。・・・まだ変なことがあるの。
「変なのってすでにあなたも変なのよ、私にとって」
ちょっと怒ろうかなと思ったその時。遊園地の周りに異変が起きた。ジェットコースターの滑走路が揺れだしたのである。しかし、地震が起きたわけではない。周りにあるテント所有者たちのテントも揺れ始め、今にも崩れそうになり、驚愕している。
「ちょ、これやばいんじゃないの」
アルモックは焦り出す。すると、そこへ
「あ、アルモックさん!」
息を切らしながら走るヌンソンの姿が見えた。
「ヌンソン様?」
アルモックは意外な人物に驚く。そして、その直後に
『グローバーを感じるわ』
突然、素晴らしいソプラノ声が脳内に響き渡る。
『ピンキー!』
その声を聞いて、グローバーも脳内で叫ぶ。
「すごい、いい男性の声。アルモックさんの頭の中から聞こえる感じがする。なんでだろう? 私と同じでアルモックさんにも何かいるの?」
ヌンソンは息を切らしながら話す。
「ということはグローバーが探していた人って・・・」
正確には、同じ頭の中で叫ぶなにかなのだろう。
『『これで大丈夫です。この状況を止めるために何処かに座って下さい!』』
そして、脳内でオペラのような男女の重ね声が二人に響くのだった。
「「要求多すぎです!!」」
そして、二人はついに頭の中のなにかに激怒するのだった。
とはいえ、遊園地の建物や遊具はすべて歪な揺れをし続ける。このままでは、いつ崩れてもおかしくない状態である。
二人は頭の中のなにかの反応に諦めて従い、ベンチに座る。
『では、空間移動のカードを出してください』
グローバーは、そこで何かのカードを出すように指示する。一応ポケットに入れて持ってきたので確認する。
「何枚もあるけど? てかこれ弟触れなかったよね?」
ヌンソンも持ってきていたようで、一緒に探す。アルモックはヌンソン様も持ってきていることやカードに触る事ができることに驚きながらだが。
『ワープホールのカードです』
ピンキーが指示する。ヌンソンはそれを聞いて、円がいくつも書かれて真ん中に光が指しているようなカードを見る。アルモックは言葉の意味が分からずあたふたしている。ヌンソンが「これみたいよ」と柄を見せてやっと同じカードを持った。
「このカードをどうすればいいの?」
ヌンソンがグローバーとピンキーに聞く。
『それを少しの間見続けてください』
グローバーがそれに答える。
ふたりはそのカードを見る。すると、
『『空間移動を開始します』』
二人の脳内でイケメンボイスでもソプラノ超えでもない電子声が聞こえ、二人が今まで見た景色は突然消え去り、周りが虹のように見える。
「「ダブル・レイディオウェーブ!!」」
「「って、私、何言ってるんだろう」」
そして、二人は全く言う気の無い謎の言語を発する。
その後、二人は何故か手をつなぎ、虹の空間をまるでトンネルのように抜け出していた。
「「どういうことー?」」
二人は困惑する。その間の身体の色は銀色になっていた。少しするとゴールと見られる光が指していて、そこを抜けるとどんどん服の形状が変化して・・・
そのまま空中落下して、地上につく。ふたりは、ちょっと危ない形だがなんとか足で着陸をして。
「我、アイブラック!」
アルモックの姿は、全身が黒いドレス姿に。
「我、アイホワイト」
ヌンソンは、全身が白いドレス姿に。
「「我ら、ダブルアイ!」」
とにかく今までの言葉は、一切自分たちの意志で言ってないのである。
『『パチパチパチパチ!』』
そして、頭の中ではグローバーとピンキーが拍手する音が聞こえる。
「「って、なにこれーーー!」」
二人で壮絶なツッコミを頭に対して声を出して発する。
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ここは、学園都市とは違う場所。ほんとうの意味で産業革命が起こる前のまさに中世のような石造りの建物が立ち並んでいた。むろん、道路も。
その中で、一人で歩く怪しい男がいた。
その男は、あまりに高貴を感じる佇まいでスーツ姿。この周辺ではたしかに普段出歩いている貴族かもしれないが、その不気味さは周りが引くほどだった。外の道路に野糞を捨てようとする下級の市民が、その人の歩いている間は完全に手を止めるほど。動物の直感が働いているのかいつもは弱そうな人間を襲う野犬さえも逃げ出す始末である。
「ふっ」
その姿をまるで楽しんでいるかのように笑っていた。
彼はしばらく歩いて、公園にたどり着く。そこには芸人、行商人等を見に来た大勢の人々がいた。そんな環境に全く沿わない男が、公園の中心まで歩く。その間、人々は楽しいことに夢中となって全く男に関心がない。
(ふん、気に食わない。楽しそうにしている奴らが気に食わん)
この男は、性格があまりにもねじ曲がっていた。そう考えた後に。
「ならば、この力を使おう」
そう言って、目を閉じる。すると、次々と公園にある巨大な木々が抜け出し浮き始めた。
そして、その大木が人々の前に落ちていく。
人々のいるほぼすんでのところに落下した大木とそれに続けと言わんばかりに落ちる木々。
あまりの光景に人々は悲鳴を上げて逃げまとっていった。
「ははは、私に埋め込まれたAIは素晴らしい。この世界を好きなようにできるなあ」
ありとあらゆる人がいなくなっても、公園の破壊行為を続ける男。
すると、彼の目の前に突然虹色の光が現れだした。
「な、なんだ!?」
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