第3話

 アルモックは床に落ちたカードを慎重に、慎重に拾い集める。最初は、触った瞬間熱かったり、痛かったりするものだろうかと考えていたが、どのカードも拾っても、拾っても特に何も影響はなかった。全部拾い終えると、一安心して、カードを見てみる。おそらく裏面に当たるデザインはお城のようなデザインをしていた。彼女は『上流貴族が使ってたカードかな?』なんて考える。しかし、仮にそうであったとしても流れ星からいきなり降ってくるのはおかしすぎる。そう思いながら、表面を見るとこっちは占い師が使うような色々な人や背景が絵になっている。

 「国警に届けるとか・・・でもどうやって説明したらいいの」

 アルモックは悩みに悩み抜いて、結論。

 「よし、どこかに捨てるか燃やそう!」

 不法投棄はあまり好ましくないが、犯罪というわけでもないこの世界。そして、人間として当たり前の思考で決定された。決意したが、もう夕方遅くもあるので明日の朝、対応しようと思い、あるカードを見る。すると・・・

 『キーカード確認。本体は所有者と確認。ロック解除を行います』

 突然、頭の中で得体のしれない声が響き渡る。見たカードは鍵で扉を開けるものだった。

 「うう、さっき頭に衝撃を受けたからかな」

 頭痛がするとかそういったことがなく、声も不快まではいかないため、それがさらに怪しさを感じ始める。ただ、そういった不気味さには一切抵抗できず、しばらくすると

 『これからはお世話になります』

 私が知りうる限り、最高のイケメンボイスが脳内に流れてきた。

 「え、え、どういうこと? ボーイフレンドお願いしたら、脳内にイケメンボイスが滞在したの? でもなんでセイラム語なの??」

 アルモックは完全なパニック状態となる。

****************************************

 「ヤン。なんかアルが騒がしいから様子見てきてちょうだい」

 一方、リビングではこの今までの騒動が丸聞こえであった。アルの母親は実家の農家から頂いた野菜を切っているため、あまりにも騒がしいのであるの様子を見に行ってもらおうと弟のヤンにお願いしている。しかし、ヤンは実家の農家からこれまたもらった花と虫の世話をしている最中だった。

 「ええ、ほっとけばいいじゃん」

 ヤンは心底嫌そうに答える。しかし、母は料理づくりで忙しいのだ。

 「いいから、いきなさい!」

 母は半ば命令口調でヤンに強制する。

 「ちぇ」

 ヤンはしぶしぶ椅子から立ち上がり、アルモックの部屋へ向かう。

 「お姉、おかあさんがうるさいって!」

 ヤンはアルの扉の前で叫ぶ。

 すると、突然扉が開き、アルとヤンは鉢合わせしたような状態になる。

 「な、何だよ」

 ヤンはアルのものすごい剣幕に引きながら、反応を待つ。

 「いい、ヤン。今見せるものは夢じゃないんだよ。現実よ、落ち着いて見るのよ!」

 そのあまりに慌てた雰囲気で、ヤンはこのセリフを言われ、思わず突っ込む。

 「いや、落ち着いたほうがいいのはお姉だよ」

 しかし、ほとんどその言葉を無視して、アルは繰り返す。

 「実は・・・変なものが流れ星から落っこちてきたのよ。 ほら!」

 そう言って、扉から少し離れて、アルは、机に目を向ける。

 するとそこにはきれいな束になったカードがあった。

 「お姉、ずるい! 新しいおもちゃ買ったの」

 しかし、流れ星は全く無視して、ヤンはカードを親に買っってもらったと思い込む。アルとしては、すべての情報を信じてほしかったのだが。

 「陸上一筋がそんな占い師の玩具みたいなのを、買うわけ無いでしょ!」

 そういって、アルはヤンにカードを触るように誘導する。

 触って、カードを手に取ろうとすると

 「って、はっ・・・? 触れない!」

 ヤンは困ったようにカードに触ろうとするが、何故かすり抜けてしまう。

 アルは弟のあまりにへんてこな反応に当惑する。

 「おかしいじゃん、これなんなの?」

 そういって、ヤンは全く興味をなくし、

 「陸上一筋とか言っておきながら、なんか、変なこと始めちゃって。寝ぼけちゃったの? まだ夕方だぜ」

 そういって、姉の奇行をからかい出す。

 『ムカッ』

 アルはそのからかいに腹がたち、部屋から出ようとする弟の足に自分の足を少し出して、転ばせた。

 「ヤン、気をつけなよ」

 アルはあまりにも大人げない行動によって、弟を泣かせた。

 「お母さん! またお姉がいじめる」

 しかし、アルの家族がここまで豊かな生活になったのもアルの身体能力のおかげでもあり、基本はアルに感謝しながら生活している母。弟がいじめられたとして、むしろ原因は弟にあるのだろうと、考えてしまうのであまり意味のない防衛手段である。しかし、アルは自分の行いをもう少しわきまえるべきかと、そのさまを見て少し反省した。

 『すまないが、希望のAIピンキーのところへ連れてってくれないか』

 弟がいなくなると、全く意味の分からない言葉を頭のイケメンが語りだす。

 「はあ、なにそれ、いやよ」

 アルモックはあまりに意味不明なので、全力で否定した。

 『お願いだ。私は君しか頼れないのだ』

 そう言いながら、イケメンボイスが涙声、というかもはや泣く音が聞こえる。

 「そんな事言われても・・・」

 このあまりに謎の状態が連続して起こり、気持ちの整理さえもつかないのに突然頭の侵入者に頼まれて、いよいよ頭を抱えるアルモックなのだった。

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