第2話

 「この例を参考にして、アルモック氏、解いてみてください」

 授業の風景。総合的な能力でクラス分けを行ったが、授業についてはその人間のIQや身体能力差に合わせて授業を行うのがベローナ学園の方式。他の教育機関は中世教育技術までしか及んでいないため、教師が一方的に話すスタイルだが、世界トップクラスの教育機関ではそうではない。ちなみに、アルモックとヌンソンは同じクラスで本当のトップクラスが集まるクラス。つまり、ものすごい高度な授業が行われている。アルモックはあまりにも身体能力が高すぎたがためにシステムのバグのような立場で授業を受けている。教師もそれはわかっているので、アルモックを指した場合は、周りの人達に互いに教え、教わり、考え合うことを学ぶ時間扱いで進行している。そのため、他の人が行う問題よりさらに難しい問題だったりもする。

 「アル、起きて」

 そして、アルの後ろの子が起こしてあげるのもまた授業で当たり前の光景になっている。

 「ああ、すみません。えっと、この公式を利用するんですね」

 なお、彼女はずば抜けた身体能力と評価される脚以外にも、特異な能力がいくつかあって、冗談抜きの『寝ながら、重要な情報を聞く』というとんでもない能力を身に着けている。(一度、研究機関の人が脳を調べるためのロストテクノロジー機械を頭につけて、判明した)

 「え、全然解けないです!」

 そして、不思議なことに聞くだけでなく、他の教育機関の人たちよりは物事を理解できる。そういったことを踏まえると、なんやかんやで色々な問題を解いていたアルモックが今回の問題は全く解けないのである。周りの生徒も聞きながらそのことをすでに理解しており、正直にそれを答えてよいか、困惑している。

 「ほう、それはなぜか」

 教師はなぜ解けないのか聞いてくる。

 普段は冷静だが、こうなると焦ってしまうアルモックはあたふたしだす。

 「その問題は成立しないです」

 すると、アルモックから一番遠い席にいるヌンソンが立ち上がって意見を出した。

 「ただ、先生が質問した内容は成立しませんが、この場合なら成立します」

 そして、ロストテクノロジーの中で最高クラスの道具であるタブレットで教師の後ろにある巨大なスクリーン(これもロストテクノロジー)に数式を出した。ついでに成立内容の数式も。

 「正解だ。当然例題のとおりに答えを導くのも大切だが、上手くいかないときもある。それでも落ち着いて、例題を別の数字等代入すれば解ける場合がある・・・ロストテクノロジーを扱えるようになるためには重要な考え方だ。ふたりともありがとう」

 そして、解き終わったタイミングで授業の鐘が鳴った。

 教師への挨拶が終わると、ヌンソンは廊下へ出る。それをちらっと見たアルモックは追いかけるように教室を出て、ヌンソンを呼んだ。

 「ヌンソン様!」

 「どうしたの?」

 ヌンソンは呼び止められると、キョトンとした様子でアルモックを見る。

 「その・・・さっきはありがとう」

 アルモックは照れくさそうにヌンソンにお礼を言った。

 「いいえ。御礼を言われるほどではないわ」

 笑顔でアルモックに返答し、彼女に背を向けて歩き出した。

 アルモックはその落ち着いた佇まいに尊敬のようなものを抱くのであった。

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 何気ない描写でロストテクノロジーは散見されていたが、ベローナ学園は最高クラスの教育機関であるがゆえに、それを中心とした学園都市が研究者によって作り出され、他とは比べ物にならないほどのロストテクノロジーが、実用されている。その中には実験を兼ねたものがあったりもする。例えば、中世時代の逆戻りをしているので、産業革命が起きなければ生まれない水蒸気機関車が学園都市では走っているのもその一例。といっても技術そのものは核融合エネルギーを使用しているため、ほぼ電車といっても過言ではないが。

 アルモックとサランとカンは、部活を終え、機関車に乗って学園都市専用の自宅に帰宅する。駅から機関車の車両に乗る間に三人は委員会の話題になる。

 「そうだ、いいこと思いついた。クラス委員はアルとヌンソン様がいいよ」

 サランはウキウキしながらとんでもない提案をする。当のアルは驚く。

 「それいいわ。男子にモテモテのヌンソン様と女子にモテモテのアルモックが組む、ってわけね」

 カンはアルの驚きを完全に無視して、サランの案に同意する。

 「やめてよ、私そんなキャラじゃないし」

 このままだと、委員決めで立候補されてしまうぞ、とアルは全力で否定をする。

 「ええ、いいと思うんだけどな」

 サランの残念がる言葉と、それに同情するようにカン。

 アルはため息を付きながら、車両の窓を覗く。するとそこには、男子がじゃれ合うように話しているのである。その中には、一人、アルのタイプの男性もいた。

 機関車は汽笛を鳴らし、自宅の最寄駅へと向かうのだった。

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 「ただいま」

 アルモックの自宅は現在、ベローナ学園に入学するにあたって、学園前の駅からそれほど数えない駅の近くに、中世風のレンガ作りのアパートを家族とともに借りて住んでいる。ただし、大きさは建物の大きさも部屋の間取りもマンションクラスではある。

 アルモックは帰るなり自分の部屋に入り、ラブレター、バック、そして自分の脱ぎ捨てた制服を机に投げて、ベットに倒れ込む。

 「ああ、女の子にモテてもなぁ・・・たまには男の子にモテたいよ」

 彼女は贅沢な悩みを漏らす。悩んでいると、ふと窓を眺めようと思い起こされた。

 するとそこには無数の流れ星が目に止まった。急いで窓を開けてベランダに出てみると、更にはっきりと流れ星が見える。

 「これが、サランとカンが話してた・・・」

 彼女はあまりにも無数に落ちる流れ星の数にただ、ただ、ポカーンとする。そして、しばらく眺めて思いついたように手を握りだした。

 「そうだ、願い事しなきゃ! 素敵なボーイフレンドができますように!! 足が細くなりますように!!! お洋服がいっぱいいっぱい買えますように!!!! チョコレートケーキがいっぱいいっぱい食べれますように!!!!!」

 願うたびにどんどん声の大きさが大きくなっている。ボーイフレンドはともかく、足は陸上選手特有の十分な美脚だし、洋服もそのあたりの農民よりはたくさん持っているし、チョコレートケーキも貴族レベルでないと味わえないのに彼女は学園特権で食した事がある。・・・やはり贅沢な願いばかりである。

 しばらく目をつぶって色々贅沢なお願いをし、ちらっと流れ星がまだ続いているか確認すると、明らかにおかしい動きをする流れ星がこちらに突撃してくる。

 「えっ、なになに? どういうこと!?」

 そして、それは彼女の頭に見事に激突し、痛みは全然感じないが、後ろ向きに倒れ込むと流れ星は分裂して、まるでサーカスなどの一番の盛り上がりで出てくる刻まれた紙片のように、というより何かのカードとなって落ちていく。彼女はなんとか起き上がって周りを見る。すると、たくさんのカードが散らばっていた。

 「な、なによこれ」

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 場所はかわり、ここはヌンソンの自宅前。彼女の家もまた場所と駅は違えど、学園からの距離はアルモックと同じである。ただし、彼女の場合は自分の故郷に近い自宅にするため、土地を買い占めて造られた一軒家である。庭も含めてその雰囲気はまさに他の国々が憧れ続けている核融合を死守した国、日本の古い邸宅だった。

 門をくぐると黄金の毛色をした巨大な番犬が出迎える。

 「ココ、どうしたの?」

 ヌンソンを見るなり、突撃してきて顔を舐める。そして、後に付いてきて、という素振りを見せて、ココは走り出した。

 彼女はココの不思議な行動に疑問を持ちながらも、着いていく。

 「ムーン、帰ってきたのかい?」

 すると、年老いた声が聞こえる。

 「あ、はい。おばあさま」

 声の主はヌンソンの祖母である。「ムーン」は家族内でのヌンソンの愛称。

 「ココがどうかしたのかい?」

 普段なら、玄関へすぐムーンが来るのに庭から音がするので、祖母は不思議そうに尋ねる。

 「よくわからないけど、多分大丈夫よ」

 ムーンは、多分遊びたいんだろうな、といった考えである。祖母もムーンからの返答を聞いて、何かあったわけではなさそうと感じ、安心してその後の会話はなかった。

 ココは、自宅にある蔵屋の入り口で吠え続けていた。

 「蔵屋になにかあるの?」

 ココから返事がくるわけでは無いが、質問する。中流貴族クラスの一軒家並の大きさの蔵屋である。彼女は、すぐに蔵屋の鍵を取りに行き、開けてみる。

 開けるとすぐにココは走り出し、ムーンは蜘蛛の巣などを取り払いながら前へ進む。すると、ココは蔵家にあるはずがない輝きを纏う何かに吠え続ける。

 「これ?」

 彼女は近づくと玉手箱のような箱が輝いており、それを開けてみた。するとその光は彼女に突撃して頭に当たった感覚になる。当たった直後、彼女は自分に異常がないか確かめた。しかし、特に何もなかったので箱の中身を確認すると、きれいに束で収められたカードが入っていたのである。

 「いったい、何がどうなってるのかしら?」

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