ダブル・アイ

神楽泰平

第1話

 ここは大戦によって一部の文化が中世時代にまで衰退した世界。そこで最も栄華を極めているベローナ学園。ベローナ学園のある国セイロムでは、世界中の人々がこの学校に通おうと志願する。さて、そんな学園の放課後のとある風景。校庭では運動系の部活が、校舎では文化系の部活が和気あいあいと行われていた。

 例えば、校庭で行われている陸上競技。現在、地区予選に向けて少女たちが練習に励んでいる。特にここ最近陸上部は全国大会常連。現在はバトンパスの本番練習をしている。三走目の選手が一生懸命走って行き、四走目にバトンを渡す。そう、この四走目こそ、陸上部エース、アルモック・ジョ。陸上部の子たちはうまくバトンが渡るか緊張しながら見守っていた。バトンパスは的確に決まり、アルモックは勢いよく、走り出す。彼女は力強いステップでグラウンドを駆け抜け、足音が競技場に響き渡る。それは応援団の声出しの練習、吹奏楽の音合わせさえも消すかのごとく。眼の前のゴールを目指して全力疾走する。彼女の走りのフォームは流れるように美しく、一歩一歩が確実にタイムを刻んでいく。陸上部の子たちもそのあまりの美しさに惚れ惚れとするほど。ゴールに近づき、アルモックの速さは更に増し、ゴールラインを一気に超えました。測定係がタイムを見ると・・・。

 「すごい、新記録だよ」

 周りもあまりに完璧なレースを見て、「これなら、今年も連覇だ」と興奮していた。アルモックもその様子を見て、静かに喜んでいる。

 場面は変わって、また別の例えば。校舎の中にある科学室で科学部は、実験をしていた。机や棚には実験器具や薬品が整然と並べられ、実験のための準備が整っています。室内は興味と好奇心に満ち溢れている。実験の説明をしている少女は学園トップクラスの秀才ヌンソン・ウンヒ。彼女の声は響き渡り、メンバーたちは熱心に耳を傾けている。実験の目的や使用する物質の特性を熟知しさせ、安全な手順が説明された。そして、実際の様子を見せることも兼ねて、ヌンソンは左右にそれぞれ違う色をした液体が入った容器を実験台に置かれた容器に慎重に移す。混ざりあった瞬間、部員たちは目を見張る光景に出くわす。突如として、容器から煙が立ち上った。その白く濃い煙が実験室全体を包み込み、部員たちは驚きの声を上げる。煙は徐々に冷たさを感じだし、容器の中の液体に関しては凍りついていった。

 「このように、新しい液体が完成します」

 ヌンソンは満足げな笑みを浮かべて、部員たちは驚くべき現象に興味津々。そして、部員たちもそれぞれの台で実験を真似しながら行うのだった。

 ベローナ学園での学生たちの活発な活動は、長く続き、ついに夕方となる。

美しい夕焼けとともにアルモックは部員たちと笑顔で談笑し、今日の練習の成果や大会に向けて話し合いながら部室へと向かっている。彼女たちの弾む声が明るい雰囲気を醸し出す。

 一方、ヌンソンは本を手に持ちながら歩きます。彼女は本のページを捲りながら、知識に没頭しつつも足取りは確実。

 二人は第一校舎と第二校舎をつなぐ外の渡り廊下ですれ違う。アルモックは部室に向かうため、校庭から部室へ。ヌンソンは帰宅するために第一校舎の玄関にある靴を取りに行くために。

この二人は全くの知り合いではない。お互い全く興味なし、といった感じですれ違っていく。しかしこれから、アルモックとヌンソンの距離があまりにも小さくなるとは考えても見なかった。

****************************************

 次の日の朝、ベローナ学園はたくさんの学生が登校する。この学園は身分だけでなく、様々な年齢の子が登校しており、上は26歳、下はなんと親におんぶされながらの0歳ともはや多くの人が所属しているマンモス校。

 アルモックは農民の出身ながらも抜群の脚力で街中を渡り歩いたことが国で有名となり、ベローナ学園に特別推薦枠で入学した14歳。今日も朝練を終えて、体操着に西洋風スカートのままいつも仲良く話す同期のサランとカンとともに第一校舎の玄関に向かう。

 「ねえねえ、昨日の流れ星見た?」

 サランとカンの間に挟まれて一緒に登校するアルモック。アルモックはサランの話題が全くわからない。

 「みたみた! すごかったよね~」

 サランの言葉にカンはうなずく。ちなみに二人も農民出身。すごく言葉使いはフラットである。二人の会話にポカーンとしているアルモックの姿に驚きながら、カンは続ける。

 「アル、最近すっごくたくさん飛んでるんだよ」

 ちなみに、アルモックはみんなから「アル』と呼ばれている。

 「ほんとほんと、私いっぱいお願い事しちゃったんだよ」

 サランは、カンの言葉に反応してすごく喜びながら語る。

 しかし、アルはというと

 「へえ、全然知らなかった」

 あんまり興味なさそうに答えている、といった感じだった。

 「でも、流れ星ってさぁ。不吉なことの前兆って言われてるよね」

 カンはアルの様子にお構いなく、サランの言葉に自分の考えを述べている。

 それでもアルはサランのウキウキした姿と、カンのちょっと怖いなあという気持ちに対して、全く反応せず「へぇ、そうなんだあ」と返していた。

 すると、

 「そんなことないわよ」

 第一校舎、玄関の中に入った直後に凛々しくも可愛らしい声が三人の会話に混じった。

 三人は驚きながらその声の主を見る。

 「ヌンソン様?」

 昨日、科学部で実験の説明を立派に成し遂げていたヌンソンだった。ヌンソンはセイロムとは別の国の出身の上級貴族。もちろん、ベローナ学園は他国でも歓迎する。そして、他国もまたベローナ学園こそ、世界最大級の教育機関、と評価をしており、ヌンソンは自身の国のより良い発展のためにベローナ学園に入学したのである。

 ともあれ、別の国ながらも立派な身分。その上、学園トップクラスの秀才となってはみんなヌンソンのことは「様」付けにしてしまうのである。

 「流れ星というのは、宇宙を漂っている星屑よ。その星屑がこの星の重力に引っ張られて上空100kmくらいで大気の摩擦で発光するわ。その不思議で神秘的な現象を見て、昔の人はその輝きに願いを託したのよ。そうやって考えるほうが、不吉なことを考えるよりいいし、普段の生活だっていいことが起こるようになるわよ」

 「「「おぉー」」」

 あまりにも完璧な説明に三人は尊敬の眼差しでヌンソンを見つめていた。

 「じゃあ、お先に」

 そして、そんな三人に笑顔を見せ、教室へと向かっていった。

 「博学だなぁ」

 アルは驚きながら、独り言のようにつぶやいた。

 「アルは昨年、クラスが違かったから知らないと思うけど、ヌンソン様は成績以上にその圧倒的な知識量から『うんちく女王』なんて呼ばれてたのよ」

 カンは去年ヌンソンとは同じクラスだったため、すでに落ち着きを取り戻し、アルに補足の説明をしていた。

 「しかも、男性にもモテモテで沢山の人に告白されてて。あのフェンシングの帝王にも告白されたんだって」

 「まじで、あのイケメンに!」

 サランのもはや本当かウソかもわからない付け足された話に、カンは盛大にショックを受けていた。

 「すごいなぁ。爪の垢でも煎じて食べたほうがいいかな」

 そんな二人の話を聞いて、アルはとんでもない物騒な間違い喩えをする。

 「「いや、それは飲むんでしょ!」」

 アルの盛大なボケに二人は笑いながらツッコミを入れる。

 ベローナ学園は順位ごとの能力精査でクラス分けをする。アルは圧倒的な運動能力のおかげでトップのクラスにいる。ちなみにサランとカンはトップではないが運動も勉強もそれなりにできるオールマイナーなため、トップのクラスにいる。そして、圧倒的な勉学の成績、特に科学クラブでの実績が認められ、ヌンソンもまたトップクラスにいる。

 周りから見たら、トップが4人も揃った異常事態の玄関。だが、そのうち三人にとっては、そんな周りの評価が気にならないくらいヌンソンという大物に出くわし、それが持ちきりに鳴ってしまったため、いつもよりも明らかに玄関の滞在時間が伸び、やっと下駄箱を開ける。色々と古いものが多いこの世界にはふさわしくない、血管認証式の下駄箱である。

 アルの下駄箱を開けると、何故かたくさんの紙がパラパラと落ちてくる。

 「わあ、すごい。ロストテクノロジーを破ってラブレターなんて! 流石は世界トップの学校」

 サランはウキウキしながら拾って、アルに渡す。

 「おお、流石は若き陸上部エース」

 カンはからかいながらアルの握られた手紙を見る。

 「いやぁ・・でもロストテクノロジーすり抜けるのは怖いよ」

 アルは照れながらも、少しビクビクしながら二人に答える。

 この世界では、大きな戦争が起こっていた。そして、荒廃した。ある者は『次の戦争は棍棒で戦っているだろう』なんて言っていたが、ある国の死守した人類悲願の永遠のエネルギー『核融合エネルギー』の技術によって、かろうじて世界中で中世の技術まで発展を遂げることができていた。そして、戦争より前にあった技術で現代まで残り、復活させることができたものは『ロストテクノロジー』として中世世界でありながら受け入れられ、使われているのである。とはいえ、扱うのはものすごく難しいので、例えば施錠用技術の血脈認証も素人がそう易易と解除できない。

 恐る恐る、アルは手紙の宛名を確認していく。しかしどれもこれも

 「ぜーんぶ、女性だね」

 サランはニコニコしながら覗き見た感想を言う。陸上のために、ショートヘアで比較的に男性寄りの体格をし、明るい性格のアルなのでまあまま仕方のないことでもある。

 「でも、私レズビアンじゃないんだよな・・・申し訳ない」

 サランとカンはその姿を見て、「後で断り方、一緒に考えよう」とアルを励ますのだった。

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