第3話 異世界の果まで行ってくる
前回までのあらすじ
てきき、たくてんを おきなって およみくたさい。
ぐぅ~
私のお腹が鳴った。状況を理解し始めて頭を使ったせいか、私の身体はエネルギーを欲しているらしい。ヤンミヨンの言葉で「お腹空いた」は何て言うのかを考えていたところ、彼女は察したようで
「オアウェン。ミアラサエモク」
と言って部屋を再び出て行った。ちょっと何言ってるか分からない……けど、何か探し回るような物音がするので、きっと食べ物を何か取ってきてくれるのだろう、そう思いたい。
待つついでに、ベッドから立ち上がって部屋を見渡してみる。6畳くらいの広くもなく狭くもない部屋。ベッドの他にはヤンミヨンが使っていそうな机と椅子。多分、ここは彼女の部屋ね。机の上には赤いバラが一輪刺さった花瓶が置いてある。いい香りがする。
そうこうしている間に、ヤンミヨンが帰ってきた。手には木製の皿、皿には一個丸ごとの真っ赤なリンゴ、後は皮を剥くためのナイフを持っている。
新しい物が出てきたらとりあえず情報収集。リンゴも食べたいけど、リンゴの名前も知りたい。
「ネーネー、ヤンミヨン。
「キリ」
「キリ」
もう慣れたもんだ。物の名前を聞くだけなら簡単だ。すかさずヤンミヨンも
「エナニソレ?」
「リンゴ」
「リンコ」
濁点は抜けるンゴ。これは慣れるしかない。ついでだからナイフも聞いておこう。
「
「イロキピシ」
「イロキピシ」
確認のために復唱するのも一連の流れだ。同様にヤンミヨンも聞いてくるまでがテンプレートだ。
「エナニソレ?」
「ナイフ」
「ナウィプ」
あら随分変わっちゃった。ハ行が無いのは何となく予想してたけど、母音と母音の間に
そうこう考えてる間にヤンミヨンは机に皿を置き、リンゴを手に取ると皮をむき始めた。真っ赤だったリンゴがくるくると皮を剥かれて次第に黄色になっていくのを眺めていて、ふと思った。「赤い」は何と言うのだろうか。
……ここで私は金田一メソッドの致命的な問題に気付いた。指差しできない抽象的な概念は、この方法では聞き出せない!リンゴの皮を指してニリセメと聞いてみても、「皮」に相当する言葉が帰って来ることが予想される。違う、そうじゃない。私が聞きたいのは「皮」ではなく「赤い」なのだ。
困ったな……と俯いて視線を落としたその先に、私の赤い服が見えた。
その瞬間コトハに電流走る――!
リンゴは赤い。この服も赤い。ついでにあの机にあるバラも赤い。これらの共通項として「赤い」を引き出せないだろうか? でもどうやって? いや、もうこういう時は文法も何もかも無視して話してみれば何とかなるんじゃないか? ハチャメチャな英語で何とかしてるのをテレビで見たことあるし、きっと何とかなるなる!異世界の果まで行ってくる!
まずは準備が必要ね。私は服の裾を軽く引っ張りヤンミヨンに見せつけるようにして聞いた。
「ヤンミヨン。
リンゴを剥く手を少しだけ止めてこちらを確認し、ハッキリと言った。
「レン」
「レン」
語形が短い。こういう基礎的な言葉は短い傾向になるのはどこでも共通ね。あともう一つ、今回の作戦に必要なのがバラ。指差しできるよう机に近づき、棘に注意しながら
「
「カシロイェ」
「カシロイェ」
4音節、少し長い。それは一旦おいておいて、単語を忘れないうちに今回の作戦を実行してしまおう。
「ヤンミヨン、
どうだ! 文法なんて気にしない! 日本語だってバリバリ使う! 2つの言葉を並べれれば大抵「AはBだ。」の意味になってくれる! 我々の頭はそういう風にできている!
丁度、皮を剥き終え、リンゴと私の服とバラを順繰りに確認して、彼女は閃いた表情で
「ロイェ! キリリロイェ レンシナリロイェ カシロイェリロイェ」
そう答えた。一度にいっぱい話されてしまったけど分かる。何度も「ロイェ」と言ってるのは分かった。きっとこれが「赤い」なのだろう。
よし確認だ。私もロイェを使ってみよう。
「キリ ロイェ」
「キリ リ ロイェ」
キリとロイェの間にリがあることを強調するようにヤンミヨンは発音した。何か間違えたらしい。あー
そういえば、「ニリセメ」も間にリが挟まっている。ということは
仮説を立てたら即検証しよう。
「
本当は「ですよね?」と念押しの言葉を言いたいところだが、分からないので仕方ない。でもヤンミヨンは頷いているので、どうやら確からしい。
彼女は「ご褒美よ」と言わんばかりに、皮を剥いただけの丸ごとのリンゴを渡してきた。あっ、丸かじりスタイルなのね。モグモグ。あぁ美味しい。フル回転した頭に糖分が染み渡る。
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