第2話 濁った水、清いミス

 前回までのあらすじ

 突如、異世界に転生してしまった太田コトハは謎の少女にスチールウールを突きつけられて「エナニソレえ、何それ」の呪文を唱えた。コトハもスチールウールを突き返すことで「ニリセメ何それ」を唱えさせた。この後コトハはどうなってしまうのか?(作者もノープラン)


 ゴホッ、ゴホッ……笑っていたら咳き込んでしまった。私どれくらい寝込んでいたのだろう。喉がカラカラだったらしい。目の前の少女ヤンミヨンは心配そうにこちらを覗き込んでいる。

 ……お水が欲しい……水は彼女の言葉で何と言うのかしら……いや、ここは言葉じゃなくて、人類共通の肉体言語! ボディランゲージ! えーっと、水はコップで飲む様子をやれば伝わるはず! ……いや、待って。こちらの世界のコップの形状はどんなものか分からない。取っ手は付いているのか、1個なのか、2個なのか。もしかしたらストロー?

 色んな考えが一瞬で駆け巡ったけど、結局手ですくって飲む動作に落ち着いた。彼女も理解したらしく、急いで取りに行ってくれた。お水をお願いしたのは良いけど、そう言えば、ちゃんと飲める水かな……清潔な水が飲めるのは、地球でも多くはないのに、この世界では大丈夫なのか心配……

 不安になっていたところにヤンミヨンが帰ってきた。手には木製の円筒形のコップを持っている。へぇ、木製なんだ。珍しい。コップを両手で受け取り、恐る恐る中を見ると……良かった、透明な水だ。一口飲んで喉を湿らせ、咳を抑えた。

アリガトーありがとう  ヤンミヨン」

 伝わるか分からないけど、謝意は伝えることにした。彼女も安心したようで、ニコッとした。

 残りの水を飲み干そうと再度コップに口を付けようとしたけど、そうだ…まだ彼女の言葉で水を何というか聞いていなかった。飲み干した後だと指を指して「ニリセメ何それ?」と聞くことができなくなってしまうところだった。

 持ち上げかけたコップを元に戻して、指を中に入れて水ギリギリの所で止めて、

ニリセメ何それ?」

 と聞いた。これなら流石にコップじゃなくて水を答えてくれるでしょう。

「テロ。ニリテロ」

 彼女は少し間をおいて二言話した。

 多分、2文話したね。間をおいたのは、そういうことだと思う。そしてどっちにも「テロ」という音が共通していた。となると、これが水のことじゃないかしら。

 更に、「ニリセメ」の「ニリ」も共通してる。「これ」とか「それ」みたいな意味なのかも。

 仮説を検証するために、ペンを指して

ニリそれ イロシテレンペン

 と言ってみた。彼女は微笑んで

イロシテレンペン

 と答えた。多分肯定してくれてるんだと思う。でもYes/Noの言い方がまだ分からないから、確信が持てない……これは後の課題としよう。

 後は彼女に「水」を教えなきゃ。聞かれる前に言ってしまおう。私は一人芝居で

エナニソレ何それ ミズ

 と言ってみた。彼女は理解したらしく復唱した。

「ミス」

 惜しいミス。ちょっと違う。もう一回ゆっくりハッキリ言おう。

「 ミ ズ 」

「 ミ ス 」

 彼女の言葉に「ズ」は無いのね。「ハ」も無かったし、結構日本語とは音が違うのかも。私の発音は合ってるのかしら? お互い様か。私は「まあ、良いか」という気持ちで一回頷いた。もしかしてだけど、濁音が無いのかも。地球上でもそういう言語は珍しくないし可能性はある。それなら……

 私は少し考えて、片腕だけ上げて肘を90度に曲げて肘を指して

ヒジ ニリこれヒジ

「ヒシ」

 やっぱり。追加で二の腕を指して

ウデ ニリこれウデ

 彼女は少し迷って

「ウテ」

 これからは濁点を適宜補って聞けば良いのね。水がミスになった所で、大した問題にはならないし。そう考えながら腕を下ろして、コップの水を飲み干した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る