第3話 蜂と息子達


息子達とキラービーは10歳ほど離れている。


イーダは暗殺部隊を着実に育てつつ、

息子達も育てた。

息子達はイーダが思っていた以上にイーダの愛を

求め、忠実で何でも言う事を聞き、思うように

動かすことができた。

息子達は工作・諜報・暗殺の部隊からは独立した

個人の親衛隊のようなものだった。


息子達は精神と思考を完全にコントロールされて

いたので、忠実で信頼はできたが、こちらの

顔色を伺うばかりで、イーダとしては会話を

していてもつまらなかった。


「こう答えなさい」「こう返しなさい」と

予め決められた返事を返しているだけの

ようなものなので、声を吹き込んだ人形と

会話しているようなものである。


完全に支配していないと安心できないのに、

発言も称賛も自分の意思でしてくれないと

満足できない、とてつもなく厄介で我侭で

面倒くさい性格をしていた。


その為配下には自分の意思と実力でのし上がって

きた者を好んだ。

そういった者に自分を裏切ったり失望させたら

息子達に処分される、又は息子達のように

精神を徹底的に支配されるという恐怖を与える

ことができたことで、配下や情報部員達を

楽々と支配することができ、息子達の存在は

イーダにとって色んな意味で役に立っていた。


※しかしそれで調子に乗って圧を掛け過ぎて

諜報員の大量裏切りを招いてしまったので

何事も加減が必要である。


イーダ自身の驕りと人間不信による失敗は

あったものの、かねイーダと息子達の関係は

良好であった。

(この良好な関係が何を犠牲に成り立っているかはあえて今言及はしない)


しかしイーダはまだ名前の無い頃のキラービーを

発見した途端、自分が求めているものに出会えた

とばかりに、彼女の存在と特性に夢中になった。


自分が作りたい完璧な形に近いと感じていた。

感情が無いのに理解力が高いというところが

彼にはたまらなかったようで、

人間の感情を利用して相手を支配してきたくせに

感情で利用される人間のことを馬鹿にしていたのだ。


自分を神のように何でもできると錯覚していた

のかもしれない。万能感に満たされ、周り全てを

見下していたが、いつも満足が長く続かない。


支配でき、言う事を聞く人間を馬鹿にはしていたが

支配できず、こちらの言う事を聞かない、

反抗心がある者を激しく憎み、必ず排除した。


他人の感情を利用し馬鹿にしている割には

己もまた感情に支配されているのでは?

と気付くことが、感じることが嫌で仕方なかった。


キラービーのように感情に支配されず

それが無いもののように生きることこそが

理想だと直感した。

自分の周りが感情に支配されない人間だらけに

なれば、自分もまた感情に支配されない、

されてないことになると考えたのかどうかまでは

定かではない……


彼女を知った後、直ぐに彼女と同じような子を

作ろうとし、『家』を作り、幼い子を集め

たくさんの実験をしたがどれも上手くいかなかった。

息子達の方は程度の差はあれ、殆どの子が

思うように育ったのに対して対照的であった。

(選ばれなかっただけで息子達以外も望むような

思考に育てることができた)


キラービーの幼少時代に何があったのか

何度も深く探ろうとしたが上手く探れなかった。

催眠術が効かないわけではなかったが、

催眠術を掛け、幼少時代に戻すと何も喋らなくなり

微動だにしなくなり何も聞き出せなかった。


彼女は幼少時代、言葉を知らなかったので

教えるように言われても、それを表現する

言葉も分からないし、表現や説明という概念も

持っていなかったので、

「どうしろと言うのだ?」という

冷たい目をする以外何もしなかった。


脅しも暴力も何も効かなかった。

痛みも空腹も全てどうでもいいと言わんばかりに

抵抗もせず受け入れていた。

そのまま死んでも構わないと思われるほど

心が死んでいた。

それは最初にはあって死んだのか、

そもそも最初から無かったのか、

誰にも分からなかった。


分からないし思うようにはいかなかったが、

イーダはその育成に夢中になり、失敗が重なる度

キラービーの存在がいかに貴重かを思い知り

それが他人への言葉の端々に出てしまった。

※結局『家』で育成され使い物になったのは

ツリースパイダーのみで、それも自身への愛情を

餌にしてやっとだったので成功とは呼べなかった。


このイーダのキラービーに対する執着は

息子達にとってたまらない嫉妬の対象となった。


何より憎かったのが、キラービーがイーダのことを

全く慕ってもいなければ尊敬もせず

受けている寵愛を微塵も有り難そうに

していないことだった。


フォロロにとっては許し難い憎さであったようで

何かあれば「アイツを殺してしまおう!」と

言うのであった。

フォロロにとってはオックやエタフェが

自分を庇ってくれたり、自分より優秀であること

もよく分かっていたので、せめてその寵愛の

対象がオックらであるならば我慢できたのに

なぜあんな薄気味悪い女なのかと憤っていた。


オックも内心は穏やかではなかったが、

フォロロが強く怒ってくれたおかげで逆に

冷静になれた。

「放っておけ、いずれお父様も我々の大事さに

気付くはずだ。」と慰めていた。


エタフェはイーダに怒られないよう、嫌われない

ように気を使うことで精一杯であったため、

その他のことに構う余裕がなかった。

彼は常に周りに気を遣い、怯えていた。


イーダの息子達はその存在を知る者達からは

恐怖の対象であったが、キラービーが現れてからは

彼女がさらに強い恐怖の対象となった。

その不気味さと完璧さに『死神』とは彼女のために

ある言葉だと誰もが思うほどだった。

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死神は月を抱いて眠りたいーー番外編・イーダの息子達 漂うあまなす @hy_kmkm

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