とかく大人は忙しない その2
あの警察署での告白から一週間経った。僕たちは無事付き合うことになったんだけれども。
「……」
「……」
休日に一緒に行こうと僕が誘ったカフェで二人うつむき加減で何も会話が弾まないのである。
なりたてのホヤホヤのカップルか!いや、なりたてホヤホヤなんだけれども。
前まではあんなに会話が弾んでいたというのに、いざ意識してみると何を話せばいいか分からなくなるので無言を貫いているのだ。
きっと、口を開けば、いい天気ですねぇとか会話に困った主婦が切り出しそうな会話になりかねない。
「……あのさぁ」
最初に沈黙を破ったのはナギだった。
「畏まるのやめにしない? このままじゃずっと無口のままで終わっちゃう」
「そうだね、やめようか」
二人照れながらお茶をすする。
「今日は何処か買い物に行く用事あるの?」
カフェに誘ったのは僕だけれども、ナギが何か用事があればそれについて行く予定ではあった。
「んー、これと言って特に買うものはないかなぁ」
珍しい。付き合う前までは僕をほぼ毎週誘って荷物持ちをしていたというのに、そんなナギが買うものがないだなんて。
……ん、待てよ?つまりは、
僕はある一つの仮説が頭を過る。
「もしかして、毎週僕を呼び出して荷物持ちさせていたのって、僕と一緒に出掛ける口実が欲しかっただけ?」
いやぁ、さすがに僕のことを好きなことを隠し通すつもりだったナギさんであっても、さすがにそんなことは、
「……バレた?」
ナギは顔を赤らめて上目遣いでこちらを見る。うっ、可愛いなチクショウ。というか、仮想デートの口実だったんかい、というか今の今まで気づかなかった僕も僕だけど。
「……なんかゴメン」
「いきなりどうしたのよ」
そんなことなど知らずに文句を今まで言っていたことを謝ると、ナギにはピンときていないようで、きょとんとした顔をする。
「いやぁ、苦労かけたなって」
「その言葉なんだか古臭いわよ。特に買い物の予定はないけど、ショッピングモールでも歩いて回る?」
「そうしようか」
ナギの提案にのり、席を立ち上がろうとした時、僕のスマホから着信音が鳴った。こんな時に誰だろうかとスマホの画面を見ると、見知らぬ電話番号からだった。
「ナギちょっと待ってて」
ナギに断りを入れてから僕は恐る恐る電話に出た。
『こちら異世界転生試験運用協会のものですが、眞田千紀さんのお電話で間違いないですか?』
電話の相手はまさかの試験協会からであった。僕の表情が一瞬固くなる。
「そ、そうですが」
『少々伺いたいことがありますので、本日協会の本部へ足をお運びになることは可能でしょうか?』
「今日ですか?」
協会から僕に訊きたいこと?しかも今日?!
僕は恐る恐るナギの顔を見た。僕が誘っていたのにも関わらず、この後すぐに協会に行かなきゃいけないのは少々負い目があった。
「誰から?」
「……協会から。これから本部へ来いって言われたんだけど」
「なら、仕方ないわね。いっておいでよ。またお出かけは出来るんだし」
ナギはそう言ってニッコリと笑った。うぅ、感謝しかない。
「分かりました、これからそちらへ向かいます。はい、失礼します」
僕はそう言って通話を切る。
「ナギ、本当にごめん。また学校で」
「気にしてないから大丈夫。また学校でね」
そう言って僕は駅へと向かった。
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