とかく大人は忙しない

とかく大人は忙しない その1

 この世界というのは実に厄介だ。


「女神様、この間の件ですが……」

「この予算では到底……」

「ぜひあの事案についても検討を……」

「今度の試験についてなのですが……」

 すべての事象に置いて大人数の話し合いというものが設けられる。考えるのにも一人でということは絶対にない。必ず大人数で決めるのだ。それがこの世界のルール。

 私がこの世界でも女神の力が使い放題であるならば、一発で解決出来そうなものを。


 この世界というものは実に無駄が多い。


「であるからして……」

「この資料をご覧ください」

「すいません、この箇所に承認を……」

 話し合いにも山ほどの紙を消費する。端的に話せば数枚で済むはずのものが前置きが長ったらしく、大量の枚数を必要とする。

 そのいくつもの紙に私やこの世界の偉い奴らがハンコを機械的に押していくのだ。

 何度も、何度も、何度も。

 アースキャリーであれば数枚の資料で済むだろうに。


 この世界というものは残酷だ。


「女神は今日もお美しい」

「お前、この間女神様の悪口を言っていただろ?」

「あいつを今度降格させるよう……」

 私に好かれると位が上がると勘違いしている奴らばかりで、私にすり寄ってくるのだ。

 そんなことをしても無駄だというのに。私はこの世界ではただのシンボルに過ぎないのだから。

 勝手にすり寄って、誰かに目の敵にされて、そしていつの間にか地に落ちる。

 まぁ、この世界だけが残酷というわけではないか。


 この世界に来て、アースキャリーへ転生させる人間を選定し始めて早数年が経過して、嫌でもこの世界の醜いところを目にする機会が増えてきた。

 この世界に来たことがそもそも間違っていたのだろうか?

 はぁ。と重い溜息を吐く。

 ここで凹んでいる場合ではないのだ。アースキャリーの女神だからこそ、アースキャリーの為にやらねばならないことがある。


 とかく、女神は忙しいのだ。

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