悪い人はなんでも思いつく その9

 すっ、すっ、すっ?????????????

 いやいや、幼馴染なのは認めますが、ナギが僕のことを好き?いやいやいや、そんなこと、えっ。

 僕は哲さんの発言に頭がパニックになってしまう。

「それ、マジで言ってます?」

「いたって真面目に言ってるが?」

 マジだった!!!!!!??????

「だからもしもの時は凪咲のことを頼みたい。この通りだ」

 哲さんは僕に土下座をする。

「土下座なんてしないでください。その時はナギのことは僕が守るんで」

 あまりの哲さんの必死の行動に僕も後に引けなくなってしまった。

「あ、ちなみに、凪咲を悲しませた場合は……わかっているよね?」

 哲さんは僕に握り拳を掲げて見せる。脅しには最適な方法だ。僕はヒエッと声が漏れた。

 その時である。倉庫の入口の方角からガタンと音がした。誰かが見に来たのだろうか。

 僕は確認するために忍び足で入口の方へと向かっていく、そこには、数台のパトカーが入って来たのだ。

 助けが来たんだ!僕は、ここです!と手を大きく振ると、パトカーからナギが降りて、僕の方へと走り出した。

「千紀!」

 僕とナギは再会の喜びに二人で抱き合う。

「千紀、本当に無事でよかった。見つからなかったらどうしようと」

「ちゃんとナギが作戦通りにしてくれたら、無事に帰ってこられたよ」

 ナギに話した作戦はこうだ。

 僕が例の異世界派遣代行社へ電話をかけ、会う約束を取り付けた日、ナギにその代行社の代表の電話番号と訪問する会社の住所をナギに横流しし、ナギに僕が会社を訪れて数時間後にその会社の住所等を『友人と兄が詐欺と思われるものに引っ掛かって行方が分からないんです』と言って通報すれば、一連の詐欺事件について追っている警察は急いで現場に向かってくれるハズだ。あとは僕のスマホの位置情報を伝えるアプリをナギが確認しつつ、僕の居場所を見つけてくれるというものだ。電波が弱い場所とは思っていたから、後半についてはほぼ賭けになっていたけれども。

 おそらく見張りがここ周囲に居なかったのは、警察が事務所を押し入ったか何かでここに居た人間も招集しなければいけなくなったからだろう。

「凪咲!」

「兄貴!」

 哲さんの姿も見えて、ナギはわんわん泣きながら哲さんにも抱き着いていた。


 後から警察に聞いた話によると、僕らが遭遇した異世界転生詐欺は、犯罪グループが異世界モニターと称し、解剖で内臓を取り出して、密売をしてお金を稼いでいたそうだ。取り出された残りはそのまま焼却して証拠は残らないため、おそらく行方不明者はすでにこの世にいないかもしれないというものだった。

 僕が貰った名刺や住所のおかげで犯罪グループのアジトに辿りつくことが出来てよかったが、こんな危ないことは二度としてはいけないよときつく釘を刺されたのだった。

「やっと、警察のきついお説教が終わった」

 げっそりした表情で警察署から出てきた僕のことをナギが出迎える。

「お疲れ様。たっぷり絞られたみたいね」

「お手柄だけど、危ないことはするなだってさ」

「当然ね、みんなどれだけ心配したことか。私だって、心配したんだから」

 ナギはそう言いながら笑って見せる。

「あのさ……、ナギ」

 僕は哲さんから聞いたあの件について直接ナギに聞くことにした。

「何?」

「哲さんからさ、哲さんがもし異世界に行ったらナギのことを頼むって言われたんだよね」

「え? バカ兄貴が千紀に? どうして?」

 ナギがきょとんとした顔で訊ねる。

「それが……、ナギが僕のことを好きだからって……」

 僕が顔を赤らめてそう答えると、その答えにナギの顔もポンと赤くなった。

「はぁっ、あのバカ兄貴とうとうしゃべっ、あっ」

 ナギはつい口を滑らせたかのように慌てて自分の口を塞いだ。

「その、本当なの? 僕のことを好きって……」

 僕はおずおずと訊く。ナギの顔はもう真っ赤だった。

「……そうよ、悪い?」

 ナギは若干逆ギレっぽく答えるが、口調は怒っていないようだった。

「わっ、悪くない……よ?」

「なんで疑問形で返すのよ。千紀ったら本当に面白い。まぁ、そこが好きなんだけどね。はぁ……ずっと隠し通そうと思ったのに、兄貴に言われちゃ世話ないわ。千紀、あなたのことが好きです。付き合ってください」

「こっ、こちらこそ、僕でよければ」

 こうして、前代未聞の警察署の前で告白が成立し、晴れて僕たち二人は付き合うことになった。

 入口に立っていた警官がそんな僕らの甘い空気に悶絶していたのは言うまでもない。

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