悪い人はなんでも思いつく その8

「千紀くん、とりあえず入口にタックルかましておきますか!」

 入口へ駆け出しながら、哲さんが楽しそうに言ってくる。とりあえず、一本いっとく?みたいなノリでタックルを提案しないでください。

「タックルしたら脱出用の装置が使えなくなるかもしれないので、とりあえずはそれを探しましょう」

 何とか扉破壊のフラグは回避しておいて、出入り口だと思われる扉に辿りついた僕たちはわずかな明るさを頼りに閉じ込め防止装置を手探りで探す。

「これかな」

 扉にちょっとした出っ張りを発見した。おそらく、これが装置だ。ぐっと押しては見たものの、扉はうんともすんとも動く気配はない。力が足りないのか?

「なかなか固い扉だなぁ。哲さん、ちょっと押すの手伝ってください」

 僕の頼みに哲さんは腕を組んで仁王立ちでこう言った。

「力が……欲しいか……」

 いきなりなんで、悪の力を分け与える悪い人みたいな言い方を始めるんですか。力、欲しいですけども。

「いいから手伝ってください」

「このセリフ、人生で一度言ってみたかったんだ」

 哲さんは言いたかったセリフが言えて上機嫌のようだ。おそらく、言うタイミングと場所が間違っている気がしなくもない。

「千紀くん、行くぞ!」

「せーの!」

 僕ら二人は力を合わせて、装置のボタンを押しながら扉を力いっぱいに押す。しかし、哲さんの力を合わせてみても、扉は開かない。

「おかしいなぁ。このボタンを押しながら開けると開くはずなんだけど」

 テレビで見たのはそういうタイプだったから間違いない。何が違うんだろうか。

 うーんと唸りながら悩んでいる僕を見て、哲さんが口を開く。

「押してダメなら、引くっていうのはどうだ?」

 まぁ、世間的には押してダメなら引いてみなとは言われているけれども、ここに限ってそんなことは……。

「やってみる価値はあるだろ?」

 一応、やってみますか。

 装置のボタンを引きつつ、扉の取っ手に手をかけて、二人で思いっきり扉を引いてみたらなんと、開いたのだ!

 まさかの引く方式の扉だったのかお前!!!

 こうして、僕らは冷蔵倉庫から脱出することが出来た。

「千紀くん、やったな!」

「哲さんの機転のおかげです。まさか、扉が内側から引く扉だなんて思ってもなかったです。さて、次の問題は……」

 現在地を確認しようと地図アプリを開く。しかし、電波が弱いのかなかなか現在位置を特定することが出来ない。きっと、山中にある倉庫なんだろう。

 すでに夜なので外は真っ暗でかろうじて月明りでほんのり明るい程度だ。外へ出たらそれこそ危険だろう。

「朝になるまで待ちましょうか。明るくなったら外へ出ましょう」

「そうだな。夜は暗い分視界も見えづらそうだ。なんだか、サバイバルみたいだな」

 確かに、サバイバルだ。こういう経験も異世界へ行ったら役に立つだろうか?

 僕たちは身を潜められて、寝るのに便利そうな段ボールが積み重ねられた場所を発見し、そこに腰を下ろした。それにしても、倉庫の周囲に見張りが全くいないなんて、よほど冷蔵室へ閉じ込めていれば後は安心と思っているんだろうか?それとも、詐欺の人にもコスト削減なんてものが存在するんだろうか。あとは例の……。そんなことを考えながら、うとうとしていると、

「千紀くん、まだ起きてるか?」

 哲さんが少々小声で話しかけてきた。

「起きてますが、どうしたんですか?」

「いや、ちょっと、頼みたいことがあってな」

 いきなり畏まって頼み事とは一体何だろうか?

「もし俺が千紀くんより先に異世界に行くことがあったなら、凪咲のことを千紀くんに任せたいと思うんだ」

 ナギを僕に任せるって?!

「前もデートとかなんとか言ってましたけど、それと関連があったりします?」

「関連大アリだな。千紀くんは昔から凪咲とよく遊んでくれていたし、それに、凪咲は恥ずかしがって言わないだろうが、凪咲はああ見えても、千紀くんのこと好きなんだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る