悪い人はなんでも思いつく その4
「えっ、詐欺なの!?」
雑貨屋でカゴを買う前に立ち寄った近くのカフェで僕から詳細を聞いたナギが店内に響くような声で叫んで立ち上がる。
「ナギ、声が大きい」
話の内容に驚いて周囲の客が全員此方を見る。正直恥ずかしい。
「あ、ゴメン」
ハッと我に返ったナギは赤面顔で着席をする。
「……こほん。で、その話本当なの?」
今度は声を潜めて僕に訊く。いや、その恰好も怪しいんだけどなぁ。ま、いっか。
「試験を運営する協会から試験受けたことある受験生全員に手紙が来ていたはずなんだけど、哲さんも試験受けているし、手紙が届いて内容は知っていると思っていたんだけど」
「バカ兄貴だからなぁ。手紙が届いても、もしかして内容まで理解できてなかったんじゃない?」
実の妹からそう言われる哲さんがマジで不憫でならない。さすがに内容が理解できないってことは……絶対にないということを僕自身否定できないところがツラい。哲さん、ごめん。
「テレビでも報道され始めているから知っているとは思うんだけどなぁ」
「兄貴ニュースなんて見ない派だからねぇ。新聞なんて言語道断だし」
OH……、八方塞がりだった。
「というかそういう詐欺が横行しているのねぇ。なんでも思いつく奴がいてツラいわねぇ。千紀も気をつけなさいよ?」
「それ、親にも同じことを言われたよ。気を付けているからスカウト持ち掛けも詐欺だってすぐ気づけたんだよ」
「あ、そっか」
両親といい、ナギといい、僕が異世界に行ける手段があればホイホイついて行くと思っている。こう見えてもちゃんと情報の取捨選択くらいは出来ます。
「情報ありがとう。帰ってバカ兄貴に騙されているって鼻で笑ってやろうかしら?」
「いや、鼻で笑うのは辞めていただいて」
「え? なんで?」
ナギはきょとんとした顔でこっちをみる。
「一応哲さんのメンタルが傷つかない方向でいってもらって」
やっと手にした異世界転生の切符が実は詐欺で、しかも妹にバカにされるってメンタルメッタ刺しじゃないですか。哲さんが立ち直れなくなるぞ?
それだけは辞めてあげてという無言の圧をナギに送る。
「……わかったわよ。注意だけはしとく、やさしくね」
僕の圧に観念したようにナギが了承した。
「さて、お茶もしたし、本日のメインイベントのカゴ買いに行くよ!」
「ちゃんと覚えておりましたか」
僕は小さく舌打ちをした。
「今舌打ちした?」
「いえ? してませんが?」
ナギの機嫌を損ねたら帰りに持って帰る荷物が重くなっては厄介だ。僕は全力で首を横に振った。
「じゃあ行くよー」
ナギはルンルン気分で店を出る。カフェの代金はすでに僕が出してあるからナギは上機嫌そのものだった。
雑貨屋ではもう店のカゴ買い占めるんじゃないかの勢いでナギが買い物無双をしていた。
そんなに何を収納する気なんだ?夢と希望と欲望か?
出来るなら、欲望だけを余すとこなくぎゅうぎゅうに収納してそのまま一生格納していて欲しいと現実逃避しながら、その買い物風景を遠目から見ていた。
案の定前が見えないくらい積みあがったカゴの山を僕が持ち帰ることになった。
「いやぁ、自分ではなかなか運べない量だから千紀さまさまね」
本日のメインイベントが終了し、満足のあまりいい仕事をした職人のようなしているナギ、一方で大荷物を持たされてやつれている僕の相対する二人を見て通行人が二度見してくる。見ないでくれ、この荷物をぶちまけて今すぐ逃走を謀りたくなるから。逃亡謀ったところで、現行犯でナギに捕まりそうな未来しか見えませんが。
出来る限り早歩きで街中を歩き、ナギの家へとたどり着く。
「ありがとう。荷物はそこに置いておいていいよ」
ナギが指さしたところによいしょと買ってきたものを置く。
「本日もご苦労様。兄貴にはちゃんと言っておくよ」
「うん、よろしく。じゃあ、また何かあったら教えて」
「りょーかい」
僕は買った参考書をもって家へと帰った。
それから一週間経った休日、朝からチャイムが鳴り響く。いつもなら両親が玄関に出るんだけど、鳴り続けているということは朝から出かけているみたいだ。眠い目をこすりながらリビングへと向かい、インターフォンの画像をつけると、そこには切羽詰まった表情のナギの姿があった。
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