悪い人はなんでも思いつく その3
あれから数日が経ち、名刺のことなんか忘却の彼方へ行ってしまった日曜。ナギからメッセージが来る。
【朝11時に駅前の雑貨屋へ現地集合!】
なんともシンプルなメッセージだ。どうやらまた荷物持ち召使業務のご依頼らしい。
ちょうど僕も駅前の本屋に取りたい資格の参考書を買いに行こうとしていたので、都合がよかった。本屋に行きたいからそれでも大丈夫か、と確認のメッセージを送ると、ナギから了承のメッセージが送られてくる。
じゃあ出かけるかと集合時刻に間に合うように準備を始めた。
「いつもながらにちゃんとやってきいてるわね、エライエライ」
青系統チェックのワイドパンツに水色のポロシャツ姿のナギが上機嫌でやって来た。
貴方、約束すっぽかしたら僕の家まで押し入ってきちゃうでしょうよ、だからちゃんと時間通りに待っているんですよ。
「今日は何を買うんだ?」
「えへへー、収納のカゴを買おうかなぁって思って」
照れた表情で答えるナギ。また大きそうなものを買いますねぇ。それを僕に運ばせるつもりですねぇ。はぁ。
「そうとなれば、とっとと買い物済ませるか」
「待って、買ったらちょっと大荷物過ぎて本屋とかに寄れなくなっちゃうだろうし、まず千紀の用事から済ませよ?」
この人はいくらカゴを買うつもりなんだ。僕のツッコミは置いておいて、ナギの言われるがまま先に本屋へと向かうことにした。
「なんの本を買うの?」
「資格取得に必要な奴を買おうと思って」
僕は資格に関する参考書が置かれているコーナーへと歩みを進める。
「やっぱり資格を取ることにしたんだー。で、なんの資格を取ろうとしているの?」
「気象予報士」
ちょうど目が合った気象予報士の参考書を棚から取り出し、ナギに掲げて見せた。
「気象予報士ってあのニュースのお天気コーナーとかで解説するような人でしょ?」
「まぁ、業種としてはそれだけじゃないんだけどね。転生したときに役に立つかなって思って。難関だし合格出来なくても知識は身につくから」
「異世界にこの世界の気象法則が通用するのかなぁ」
まぁ、それはそれである。法則が通用しなくてもある程度のあちらの天気の法則が理解出来れば向こうの天気だって予報できるようになるはずだ。たぶん。
「まぁ、頑張ってー。ただし、異世界転生試験みたいに根詰め過ぎは禁止だからね。引きこもってたら定期的に招集かけるから」
招集って、族の集会じゃあるまいし。
「そういえば、この間はうちのバカ兄貴に発破かけてくれてほんとうにありがとう。兄貴目が覚めたっていって勉強に取り組んでいるから母さんもびっくりしていたよ。兄貴自身も勉強やる気になっていい事だらけみたい。そういえばこの間、何かのモニターの話でスカウト受けたらしくてウキウキしていたわね」
ん?モニター?それってまさか……。似たような体験をしたので僕は嫌な予感が過る。
「それってまさか、フォレスティアに転生できるモニターとかそういうの?」
「え、千紀知っているの? まだ極秘のモニター案件って兄貴から聞いたけど?」
あちゃあ……。その予感は的中したので、僕はまるで二世代前くらいのリアクションを取ってしまった。
寄りにもよって悪い人たちは(ある意味)ピュアな哲さんにも話を持ち掛けたようだ。
これだから、騙される人が一向に減らないんだ!
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