人の顔を見て不合格っていうのって失礼じゃないですかね! その4

 駅前にあるショッピングモール。夕方ともなれば人々でごった返していた。

「で、今日は何処行く気なんだ」

「今日は注文していた服が届いたらしいから受け取りに行こうと思って。あとお使い頼まれたからね」

 ナギが僕を買い物に付き合って欲しいときは決まって荷物持ち要員だ。

 最初、買い物に誘われたときはそりゃ絶対にデートだと思ったわけだが、行ってみればただただ都合のいい召使かのようにこき使われたわけで……。

 それが何度も続けば、もう感覚で察知してしまっているわけである。

「毎回僕が呼ばれているけれど、荷物持ちなら哲さんでもいいんじゃないの? あっちの方が大人で力強そうなんだし」

 哲さんは見るからにヤンキーみたいな人相をしていて、腕っぷしにも自信がある方で、僕が荷物持ちするよりは遥かに使えると思うんだけれども。

「バカ兄貴なんかに頼んだら何を要求されるかわからないし、それに今凹み期間中だからね」

「凹み期間?」

「千紀も凹んでたでしょ?」

「……あー」

 哲さんもどうやら試験に落ちてたらしい。

「今回もペーパーで惨敗だったらしいわよ。自信あったのにって自室の隅っこで座り込んでた」

 ず、随分と凹んでいらっしゃる……。

「それに千紀の方が手っ取り早く召喚できるからね」

 やっぱり僕は都合のいい召使改め召喚獣かーと溜息をついた。

「はいはい。手っ取り早い召使でよーござんす」

「何。拗ねてるの?」

「別に拗ねてない。とっとと終わらせて帰るよ」

「やっぱり拗ねてるじゃん」

 そんなやり取りをしつつ僕たちは目的地へと向かっていく。

 ナギは予約していた服屋で幾つかの服を受け取った後、袋をどんどん僕へと渡してくる。

 ひと昔前にドラマとかであった衣装の箱をどんどん積み重ねられる執事の気持ちがなんとなくわかる気がした。

「買いすぎじゃない?」

 僕はどんどん渡してくるショッパーを見ながら呟く。

「いいの。私のだけじゃないし。はい、これでお使いも終わり」

 ドサッと重いビニール袋を渡されて、思わずウッ……と声が漏れた。

「さて、次行くよ」

「えっ、終わったんだろ? 帰るんじゃないの?」

「いいから黙って私についてきなさい」

 買い物も終わったはずなのにまだ買うものを増やすのか。仕方なく僕はナギについてモールの中を歩く。

 着いたところはモールの中でもワッフルが美味しいと評判の喫茶店だった。

「今日は特別に私が千紀にワッフルを奢ってあげる」

「ナギが奢る……? え、天変地異の前触れ?」

 ナギは僕にご飯を奢らせることはあっても絶対に奢ってくれるようなことはなかったから、その申し入れに僕は目を丸くする。

「失礼な言い方だな。記念すべき十回目の不合格で傷心モードの千紀を慰めるために決まっているじゃないかー」

 ナギの方こそ何やら言い方がとてつもなく失礼である。確かに傷心モードであることは事実ではあるけれども。

 でも、ナギが奢ってくれるなんてこの先ないかもしれないし、ここは甘えておくことにしよう。

 喫茶店の中へと入り、美味しそうなワッフルとドリンクを二人そろってテーブルにあったタブレットで注文をする。

「そういえば合格者の二年生のクラスまで走っていったんだって?」

「ブッ……」

 ドリンクが来るまでお冷で喉を潤そうと飲んでいたらナギがいきなり切り出してきた。僕はその話題が来るとは思わず、水を少々噴き出す。

「なんでそれを」

「同じクラスの男子が言ってたからねぇ。一目散に走って行ってたよって」

 目撃されてたっ。はずかしっ。

「で、合格者の感じはどうだったの?」

「何? ナギまで気になるの? 気になるなら見に行けばよかったじゃん」

「そーいう意味じゃなくて。千紀の目から見た感想を聞きたいの」

 僕の目から見た合格者の印象?ナギも変なことを聞いてくる。

「なんか好青年―みたいな感じだったよ。クラスメイトからもキャーキャー言われてたし」

 僕もあんな感じにモテてたらなぁ……。

「ふーん。好青年ねぇ。キャーキャー言われてたのはきっと合格したからじゃない?」

「そうかもしれないけど」

「重要なのは、合格できない千紀と合格できた二年生。何か大きな差があったかってとこよ」

「大きな差……」

 ナギにそう言われて、テーブルに置かれたほうじ茶ラテを飲みながら少し考えてみる。

 外見しか見ていないから内面はわからないけれども、特に僕と違っているような感じはなかった気がする。

「考えてみれば特に差なんて感じなかったかも」

「ならそんな溜息製造機になんてならなくていいんじゃない? ってことよ」

 ナギは注文したフルーツがたっぷり盛られたワッフルを頬張る。

「そうだよなぁ。次頑張ればいいかぁー。うん、次もがんばろ。ありがとうナギ。なんだか元気が出たよ」

「まぁー、本音を言うと千紀には合格してほしくないんだけどねぇ」

 僕がやる気を取り戻していった刹那、彼女の口からとんでもない発言が飛び出した。

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