人の顔を見て不合格っていうのって失礼じゃないですかね! その3

 階段を降りて二年のクラスを見ると、2-3の教室だけ人が密集していた。あそこか。

 人をかき分けて近くまで行くと、妙にキラキラしている好青年がたくさんの人に囲まれていた。

『難しい試験受かるなんて政木くんってすごーい』

『向こうに行ったら何をするつもりなの?』

『とりあえず、アースキャリーの歴史について学ぼうと思っているよ』

『向こうに行っても勉学を忘れないなんてさすが政木だな!』

『学びは一生のものだからね』

『政木さん頑張って、応援しているよ!』

『ありがとう。みんなも現世で頑張って』

 クラスの中はワイワイとその好青年を中心に盛り上がっていた。

 僕も、異世界に行くことが決まったのならこんな風にクラスで盛り上がることが出来たのだろうなぁと思うと少し心が痛くなる。

 始業のチャイムが鳴り、人だかりも一斉に解散となる。僕も授業が始まるからと自分の教室へと戻った。


「はぁ……」

 今日の全授業が終わって僕は溜息をこぼした。

「そんなに落ち込むなって」

「今回は二年生が合格したのかもしれないが、次はサラダの番かもしれないだろ」

「次だ、次!」

 二年の教室を見てから心ここに在らずの僕の様子を見て、クラスメイトがひたすら励ましてくれる。皆、優しいっ……。

 でも、二年のあの好青年の周りはさらにキラキラしていたし、それに好青年、めっちゃモテてたな……。

 う、うらやましい。

「はぁーーーーー」

 そんなことが脳裏によぎると、さらにデカい溜息が口から出てしまう。

「何、机でクソデカ溜息製造機になってんの」

 聞き覚えのある声に顔を上げると、そこにはナギの姿があった。

「加川察してやれよ、サラダチキンまた落ちたんだから」

「そんなの知ってるよ。隣の教室まで絶叫聴こえてきたんだから。たぶん三年の全教室に響いてたんじゃない?」

 どうやら僕の大声は三年の教室中に木霊してたらしい。恥ずかしいにも程がある。僕は顔を覆って机に突っ伏した。

「そんな溜息製造機の千紀に頼みたいことがあるんだけれど?」

「えっ」

 頼みたいこと?咄嗟に僕は顔を上げる。

「ちょっとこれから駅前のモールまで買い物に付き合ってくれない?」

「おっ、これは遂にサラダと加川がデートかぁ?」

「ひゅーひゅー、お熱いねぇ」

 ナギが買い物に付き合って欲しいという言葉に僕より先にクラスメイトが沸き立つ。

 ……たぶんそういうんじゃないとは思うんだけど。

「さ、早く準備して。行くわよ」

「……はいはい」

 僕は重い腰を上げてリュックサックを背負う。朝来た時よりも重く感じる。全く内容品は変わらないというのに。

「デート楽しんで来いよー!」

 場のクラスメイト達はニヤニヤしながら僕を送り出してくれた。僕は溜息を一つついて、

「期待してるとこ悪いんだけど、たぶんそういうんじゃないと思うから」

 って言い残して教室から出たのだった。

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