秘密の夜

大根初華

秘密の夜

 満月のハロウィンの夜。

 私はこの日がとても待ち遠しく思っていた。なぜなら、彼とのデートの日。

 いつもデートは昼だけれども、この日ばかりは夜にデートが出来る。そう、怪物たちが練り歩く今日この日だけ。

 朝から長い髪を整え、いつもより気合いの入ったお化粧し、普段しない服装して、夕方に差し掛かるであろう時間に家を出た。待ち合わせ先はいつもの犬の銅像の前。普段は昼しか待ち合わせしていないので、不思議な気持ちだ。

 街に近づくにつれて仮装やコスプレしている人達とたくさんすれ違う。それらはもちろん偽物だとわかるが、少しだけほっとする。

 待ち合わせ先には既に彼が居た。全身真っ黒な服、立ち上がった黒髪、長い牙、そして、特徴的なのが、紅黒いマント。一目で吸血鬼のそれとわかった。

「やぁ」

 彼は少し恥ずかしそうに手を挙げた。私もこの姿を見らるのは恥ずかしかったので、色々言いたいことがあったけど、手を挙げるだけに留めた。

「狼男、いや、女性だから、狼女かな……?」

 そう私は狼男なのだ。というより、そもそも彼も私も本物なのだ。彼は吸血鬼で、私は狼男の血を引き継いでいて、夜になると、どうしてもその姿がでてしまう。いつもだと怪しまれてしまうが、このハロウィンの夜だけは違う。仮装やコスプレの人で溢れるこの夜だけは怪しまれず、自分たちの姿を見せることが出来る。

「じゃあ、行こうか」

 そう言って彼は私の毛むくじゃらのごつい手を引いて歩き始めた。彼の白い細い手をずっと見つめていた。いつも駆られる変な衝動がスっと収まっていく。とてもとても嬉しくて、嬉しくて、嬉しかった。

 高揚感を弄びながら、コンビニでお酒を買って、誰もいない公園にたどり着いた。人混みも良いがどうしても静かなところに来てしまうのがさがらしい。

 血が薄くなってるとはいえ、人を襲う事があるので仕方ない。

 ベンチに二人で座り、くだらない話をした。いつもと変わらない話。同じ話を何回もして、似たような話を何回も聞いた。傍から見ればおかしな組み合わせかもしれない。笑われるかも知らない。それでもこの姿で一緒に居られることが私は幸せだった。

 そんな時間が永遠と続くはずがない。ハロウィンが終わる時間。シンデレラではないけれど、やはり怪物の終わりの時間はやってくる。別れを惜しむように彼とキスをする。

 私の長い鼻と彼の長い牙がぶつかる。それがおかしくて嬉しかった。

END

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秘密の夜 大根初華 @hatuka_one

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