004 蓮の逃亡

 蓮はカバンを草むらへ放り投げ、走り出した。


「蓮っー!」 

蓮は、光と海翔を振り切って走った。


どこでもいい、だれも知らない場所に行きたい。無我夢中で走り続けた。


心臓が張り裂けるくらい全力で走った。


「はぁ、はぁ」


どのくらい走ったか、気が付くと目の前がひらけ港が見えた。


「海だ!」


 海は、強い太陽に照らされてキラキラと光り、打ち寄せる波が足元をさらった。潮の香りが一面に漂い、蓮の気持ちなんてお構いなしの、気持ちのいい風が、淡い茶色の髪を揺らす。


 蓮の住む町にある、この小さな漁港は、いつも穏やかだった。少し離れた湾は深くなってて、週に何回かフェリーが出る。


「このまま駅に逃げても、国道を逃げてもすぐに捕まる。


なら、夜まで待ってフェリーに乗ろう。そして大きな都市へ行って1人で働こう。だれも知らない街でやり直すんだ」


蓮は遠くを見ながらこぶしを握った。


「どうせどこに居ても1人なんだ。それなら自分1人で生きてやる!」


蓮は、いつもコンビニの張り紙を見ながら、


「あんな学校で勉強するより、コンビニバイトでお金を貯める方がずっといいじゃないか。なんで嫌な思いをしてまで学校へ行かなきゃならないんだ」


と、疑問に思っていた。


 どのみち蓮は高校に上がると、学校へ通いながら、朝夕バイトをして独り立ち資金をためないといけない。自分の施設にいる年上の人たちは、高校に上がるとほとんど姿をみなくなる。とにかく資金を得るために、3年間一生懸命働くのだ。


 散々施設に繋いでおきながら、施設にいられるのは18歳まで。高校卒業と同時に”卒業”といって、誰一人例外なく追い出されるのだ。そこからは否応なく大人として1人で生きていかなくてはならない。


それこそ、蓮には助けてくれる親も、親戚も、兄弟もないのだから、少し早まったとしても、問題ないだろう。


 蓮は、辺りを見まわして、身を隠す場所を探した。


秋のはじまりとはいえ、海風は肌寒く、蓮の心まで冷えこんでいく。


「あ、神社がある。よかった」


蓮は、境内にあがり、暗くなるまでここで待つことにした。

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