003 蓮と光と海翔

「はぁはぁ」

「待てよ、蓮どこに行くんだよ」

「蓮くん待って」


蓮は、自分の全てを否定する大人達から逃げ出したかった。


少し前、蓮はまた学校で揉めた。


 ここ最近、毎日のように蓮の担当の職員さんが学校へ呼びだされてる。最初のうちは担当の職員さんも蓮の気持ちを汲んでくれていた。


 しかし回数が増えるに連れて、蓮への信用が薄らいでいく。職員さんも担当している子供が1人ではないので、仕方がない。


正直、今になって考えるとどれもこれも保護者である職員さんを呼び出すほどの内容ではなかった。


むしろ当事者で解決出来るような内容だった。


だけど「親がいない」「あの施設の子」と言うだけで、いっきに扱いが"腫れ物"へと変わる。物事がどんどん大きくなっていく。


どうやら、蓮に色々なすりつけて、学校と保護者達が


"自主退学"


をさせようとしているようだった。


ささいな事で、こう何度も吊るし上げられていては、流石の蓮も気がつく。



「蓮は悪くない!」

光(ひかり)は言った。


「また嵌められたんだよ!そんなんにいちいち、乗せられんなよ」


海翔(かいと)が言った。


光も海翔も蓮と同じ施設の子だ。とは言っても、2人とも親はいて時々面会にくる。蓮は2人に心を開いてるとはいえ、海翔と光に対しても、やや劣等感を抱いていた。


 以前から、蓮と同じ家(ユニット)に、たまに面会に来て沢山のおもちゃを置いていく親がいた。おもちゃを与えては、子供は置き去りのまま、新しいパートナーの元へ戻っていくのだ。


その子の部屋はいつもおもちゃで溢れており、飽きたおもちゃを、蓮や他のこども達に"お下がり"として渡していた。


いつしか、それが物を与える側、譲って貰う側となり、子供達の中で上下関係が作られて来た。


ばかばかしいように見えても、ごく自然の成り行きだった。


ここは心に傷のある子供達の集まりである。大人が想像するよりずっと残酷な上下関係である。


それが続いた結果が今である。


光も海翔も、蓮が遠慮しているのを薄々感じていた。


しかし、生まれなんか自分で選べる訳でもなく、蓮に罪はない。ましてや、24時間一緒に暮らしてる同士であり友達である。

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