002 行き場のない気持ち

 蓮が預けられた施設は、比較的新しく裕福な方だった。


職員さんが交代で料理をしてくれ、誕生会やクリスマスは、施設で大きなイベントが催された。


生活保護でぎりぎりの生活をしている人より、ここはずっと裕福な生活かもしれない。


 ただし、自由はあるようで、全くなかった。


どこかへ行くときは、部屋の子供たちとの話し合いで決まる。3交代で入れ替わる職員では、子供たちを管理しきれない。


いたずらや、うそを言っても、ほとんどばれない。


門はいつも施錠され、限られた人しか出入りしない。子供たちは自分の名前を名乗って入れてもらえる。


これは子供を取り上げられた親が取返しに来ないようにしているためらしいが、守るためと言いながら、閉じ込められており、家庭らしい環境とはいえない。


 なにより、ここには幼いころに虐待を受けた子供が多くいるため、蓮もずいぶん鍛えられた。



 それはある日のことだった。


傷だらけのすごくやせ細った男の子が自分たちの子供の家(ユニット)にやってきた。


職員の話によると、保護されたときは、とっても臭かったらしい。最初の数日はその子は静かだったが



ある日事件が起きた。



 お風呂に入った時のこと、その男の子は突然、職員と蓮の性器を触ろうとしたのだ。


驚いた蓮は、その子を突き飛ばした。職員は急いで二人を風呂から出して、どこかへ連絡をしていた。


 その子の保護者は否定していたが、どうもパートナーが面白半分に、子供へ長い間、性的虐待をしてきたようだった。


その子が来てから、自分の家(ユニット)は、なんだかおかしな空気が流れ始めた。


 落ち着いていた子供たちが、同じように受けていた虐待を思い出して、ほかの子供にやり始めたのだ。


蓮はとにかく気持ち悪く嫌だった。職員の目があるときは大丈夫だが、目を離されたときに、それは始まる。


一人ならなんとか逃げ切れるが、2人、3人となるとさすがの蓮も逃げきれない。


 なぜこの子たちは、こんな恥ずかしいことをしたがるのだろう。。


どこへも逃げることの出来ない蓮は、家(ユニット)で落ち着かない日々を過ごすようになった。


 そんな蓮の心の叫びは、うっぷんとなり、学校で爆発しだした。


学校の方が、大人1人が見ている子供のが数が多いため、施設よりある意味自由なのだ。


 ただ、蓮は荒れたくて荒れたのではない。何をどう説明すればいいのか分からない。


 大人には言えない恥ずかしい体験と自分の心の折り合いをどうつければいいのか分からない、ただそれだけだった。


だけど大人は分かってくれない。


蓮は、問題児として


学校でも孤独を深めていった。

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