朝霧の残る秋の庭にて~ひっそりと濡れた萩の花のように
迦楼羅
001 秋の庭
「おはようございます」
まだうっすらと朝霧が残る、掃き清められたばかりの秋の庭から、蓮は屋敷に向かって言った。
凛とした空気が漂う長い廊下
外からでもわかる高い天井と、障子で仕切られた部屋
洋式と和式のいいところを集めた、大正時代のような上品な造りの建物。
豪華であるが決して華美ではない、その奥に「お館様」はいた。
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蓮は、”望まれた子”ではなかった。そのため、若い母親は、蓮を生んですぐに手紙とともに蓮を乳児院へ預けた。
施設の職員さんは、みないい人だったが、それは仕事であり、蓮が望む愛情には程遠かった。同じように施設に集められた子供たちも同じ境遇だった。
幼いころは、子供は沢山の子供と暮らす子供の家で育つものだと思っていた。
しかし、小学校にあがると、すべての子供には、父親と母親がいると分かってきた。たとえ一緒に暮らせなくとも、蓮のように、生まれ落ちた瞬間から捨てられた訳ではなく、どの子も一回は父親や母親と一緒にくらしていた経験をもっている点で、蓮とは大きく違っていた。
さらに、同じ施設の子でも、父親や母親でなくても、どちらかの血縁者が半年に1回は親の面会があるのに、蓮は生まれてから1回も訪ねてくる人はなかった。
実際には、児童相談所の書類の更新でしか無かったが、それでも自分のルーツを持ってる子供達が羨ましかった。
週末になると、施設には短期で預けられてる子供の親が面会にくる。
「大人が来たよ!僕のママだよー」嬉々として声を上げる子達を、じっと蓮は見つめていた。
それを察したかのように施設の職員は、週末になると蓮を外へ連れ出してくれたりしたが、寂しさは募るばかりでだった。中にはお正月だけ家庭で過ごす子もいて、親に買ってもらったプレゼントを部屋のみんなに見せびらかした。
親もない、帰る家もない。蓮にいるのは交代で世話をしてくれる職員さんだけ。
平等に買ってもらったプレゼントをみながら、蓮は徐々にすさんでいった。
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